AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とエキシビションマッチ 後篇



「魔導解放――"万物呑み込む大黒点"」

 空間の中心に、黒い歪みが現れる。
 開いた穴は海水を呑み込み、『偽善者』をも吸い込んでいこうとする。

「ブラックホールか、こりゃあまた面倒なものを出しやがって(――"辰の息吹")」

 周囲に東洋型のドラゴンの頭が幾つも具現化し、生まれた歪みへと魔力を解き放つ。
 ブラックホールは魔力で生まれたものなので、同じく魔力を注ぎ込むことで無理矢理破壊することが可能であった。

 『偽善者』の膨大な魔力――その二割を消費して放たれた竜の息吹は、その黒い渦の中へと吸い込まれ、内側からそれを暴発させていったのだ。

「魔導、ね……要は想像した事象を、魔力で強引に引き起こすってことだろ? 魔を導くから魔導。よく考えられているな。原点は自分のイメージ、導くコードは魔力、それで起きる現象が魔導って……ことで正解か?」

 魔導を使う者がいなかったので理解できていなかったが、何度も己が身で経験することでそれを知り得た『偽善者』。
 魔導とは、夢を現実に……それって"夢現返し"と同じじゃねぇか、などと思っているのが実情なのだが、そこは置いておこう。

 例えそれを知られようと、『模倣者』が行動を変えることは無い。
『模倣者』に与えられた命はあくまで威力偵察である。
 自分自身がどうなろうとも、『偽善者』の真の力を識るまでは止まらない。

「魔導解放――"封じられし神宝器廠"」

「うおっ、何コレ!」

 豪華絢爛な神殿のような場所へ、空間が塗り替えられていく。
 至る所に力を帯びた武具が収められ、正に武具の博物館のようでもあった。

「…………真の『模倣者』、これら全てが神器の類いだ。本気を出さねば――死ぬぞ」

「出しているさ、俺の出せる本気は。だからもう限界、俺を超えたコピーは凄いなー」

 両手を上げて降参のポーズを取る『偽善者』だが、『模倣者』はそこへ容赦無く武具を投擲する。

 放たれたのは神聖な力を放つ長槍。
 元が雷の神に関わった神器なのか、穂の部分から雷撃を放出し、自身を加速している。

 迅雷の如き速さで空間を渡り、『偽善者』の体を貫く――と思われた。

「うんうん、俺のコピーはさすがだよ。俺の駄目な部分も継いでないから、俺みたいなミスはしない。実に素晴らしいぞ」

「…………障壁、か」

「いいや、俺はただ諦めただけ。【怠惰】にしようと思っただけだ。いやはや、そもそも俺のやる気がよくぞここまで持ったとでも言おうか、実に長い間続いていたな」

「…………【怠惰アケディア】、"不可視の手"」

「正解ー! 流石に一本の手じゃ防ぎ切れなかったけど、増やせばどうにかなるもんだ」

 その数――万を超える手が、槍を防ぐために勤勉に働いた。
 実際にその様子が見える者からすれば、かなり悍ましいものが見られただろう。
『偽善者』から噴き出した透明な影のような手が、一斉に槍へと蠢いていたのだから。

「はい、これが俺の切り札の一つ。【怠惰】の権能だな。それとこんなのを組み合わせると……はい、掌握完了」

「…………神器の所有権の強奪、【強欲グリード】」

「いいや、これは普通のスキルだ。ちゃんと言っただろ? 掌握・・だって」

 そう言うと、手はそれぞれがこの場に置かれた武具を握り締めていく。
 神器の持つ強い力に拒まれたのか、弾ける手もあったが……それでも大半の武具が『偽善者』に一斉に掌握された。

 しかし、『偽善者』の消費も激しい。
 神器の所有者を書き換え、自身の物として支配する。
 その代償は魔力として支払われ、多大な疲労感を『偽善者』に与えた。

「さ、さすがにそろそろヤバいな。うん、これでもう満足してくれないか?」

「魔導解放――"魂身燃やす義侠の神撃"」

「……チッ、嫌な単語が混ざってたな」

『模倣者』の体が突然発火し、体内で膨大な量のエネルギーが製造され始める。
 それと同時に、『模倣者』の体は少しずつ淡く、薄くなっていく。
 生み出されたエネルギーは炎のようにメラメラと揺れ動き、『模倣者』の体から抜け出ると、ある武器の形を成していった――

「シーバラスの神器、確か大剣だったな」

「……これが最後の検証だ、真の『模倣者』よ――耐えてみせよ」

「へいへい、やることがいっぱいだなー」

 紛い物の使い手が振るう神器と、命を賭して振り下ろされる魔導の一撃。
 観客からは視ることのできない最後の決戦が今、始まろうとしていた。



「……それってさ、お前の命を削って発動しているよな。発動と同時に死ぬのか?」

「無論、それがワタシに命じられたことだ」

「……気に喰わないなー、腹立つなー、おまけにやる気が湧かないなー」

 不満げな表情を隠そうともせずに、『偽善者』は口を尖らせて不服を申し立てる。
『模倣者』はそれを見ても気にせず、自身の意志を――遺志を告げる。

「ならば、信念を通してみろ。それだけが真の『模倣者』にできることだ」

「そこまで言われるとなー、まぁやるだけならタダか」

 神器は一斉に輝きを放ち、炎の大剣は更に『模倣者』の命を消費して形を成していく。

 そして、互いの攻撃の準備が整う。

「「――今、決着をつける!」」

 体が淡雪のように消えながらも、それでも魔導を発動させる『模倣者』。
 馴染まない武器を使い、微かに起き続ける拒絶反応を無理矢理捻じ伏せる『偽善者』。

 身を酷使して放たれた両者の一撃、その闘いの果ては――

◆   □   ◆   □   ◆


『試合終了、勝者――『譎詭変幻』!!』


 いやー、ヤバかったヤバかった。
 何っ!? あの最後のヤツ。
 幾ら命を燃やすからって、あそこまでの力が出るものなのか?

 ……っと、不味い不味い。
 早くやらないと大変なことに。
 確かに試合には勝ったけど、こんな後味が悪い展開――偽善者は嫌なんです。


『では、『譎詭変幻』に盛大な拍手――をって、消えたー!?』


 アナウンスが何かを言っているような気がするが、今は構っている暇は無い。
 即座に(転移眼)を発動し、とある場所へと移動を行った。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品