AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と一回戦



 カツサンド屋は満員御礼!
 老若男女が買いに来てくれる屋台として、少しだけ人気になっていた。
 料理を作る時間が遅いだのサービス精神が欠けているだのと言われてはいるものの、マイペースでやりたいことに変わりは無いのでそこら辺はスルーだ。


「その気になれば、一気に客を捌くことも可能なんだけどな」


 一つ一つ、客の注文を聞いてから作っているのでかなり時間が掛かる。
 だがここで、御馴染みの"不可視の手"を使えば、作業効率は抜群に向上するだろう。
 しかし、街中で完全に悪役っぽい技を使っていたら誰かに絡まれるかも知れない。
 もしかしたら、手が見える奴もいるかも知れないし、それでなくとも何かを感じ取れる奴がいるかも知れない。
 ならば、最初から使わずにやっていればいいのだ。


「――はいよ、気を付けて持って帰れよ」

『あ、ありがとうございます!』


 適当に客を捌いていると、いつの間にか目の前に客が一人もいない状態と化していた。


「……終わりか?」

《いえ、これから盛り上がるカードが始まるそうで、皆様そちらへと流れました》

「ま、いったん休憩ってことかな?」


 屋台ごと"収納空間"へと仕舞い込み、カツサンド屋が在ったという証拠を消し去る。
 ……ほら、グーが提案した通りにやってはみたけどさ、自分だけずっと演じてカツサンドを売っているのも飽きてきたんだよ。


《それで、次は何をなさるつもりで?》

「そうだな~、みんなが頑張ってるのは脳裏で把握してるし、俺が見に行ったら張り切って相手をぶっ殺……なんて展開も嫌だしな。適当に近くをフラフラしているだけで良いんじゃないか?」

『フフッ、これもデートでしょうか』

「かも知れないな……保護者が何十人単位で付いているのを、デートと称せるならな」


 突然現れたアンにもツッコまず、そう返しておく。
 ほら、俺の視界は把握されるしさ、塞いだら塞いだで強行部隊がこの場所に派遣されるだろうし……予め言っておけば、文句も正座も無いんだけどな。


 アンと手を繋いで指を絡め、屋台が並んでいる通りを歩いていく。
 目以外はとても可愛いアンなので、近くの男からは感嘆の息が零れている。
 ……俺としては、虚ろなレイフ°目も可愛いと思うんだけどな。


「しかし、何処も彼処も面白そうな店をやってるなー。あとでフードファイターグラが介入してくると思うけど、ちゃんと耐えられるか? 俺が食べる分が無くなっちゃうよ」

『グラのことですし、メルス様の分は確保するでしょう……一緒に食べる分として』

「……いや、大体それもグラにあーんってさせるから俺の胃に収まらない。と言うより、今までは全部俺の魔力飯だったしな」


 いやはや、ご飯を待つ小鳥のような姿でとても愛らしかったです。
 目を閉じたまま小さな口が俺の物を求めているのを見ると、ついつい出したくなるんだよな(料理を)。


「それに、今頃グラは張り切って闘ってるだろうし……お腹が空くだろ?」

『それもそうでしたね』


 二人でニコニコと笑い合いながら、店を巡り歩いていった。


SIDE グラ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『さぁ、次の対戦カードは――
 予選では大量の土人形ゴーレムで周囲を圧倒『単軍師』!
 名前、容姿、能力等々全て謎、分かっているのは空を飛べることだけ『譎詭変幻』!
 この二人が二回戦への挑戦権を賭けて、熱い闘いを繰り広げます!!』


 うーん、騒がしいな。
 待機する場所だと言われた場所から、観客の盛り上がる声が聞こえてくる。
 ぼくはただでさえ獣人が素体なんだから、声が普通より大きく聞こえるのに……。

 スーおねえちゃんとガーおねえちゃんからスキルを借りて、ぼくの周りに遮音結界を展開する。

 これで問題無い、そう思っているとセイから念話が入ってきた。


《グラ、ご主人様との約束は覚えている?》

「うん――殺さない、苛めない……あとはスキルのコピーだよね?」

《……傷付くのも駄目だからね。ご主人様があとで心配するんだから》


 ごしゅじんさまは、いつもぼくたちを心配してくれている。
 だけど、自分だけは傷付いていいとも思っているみたい。
 みんなでお説教(物理)をしてみても、ぼくたちの伝えたいことは少ししか分かってもらえなかった。


「あのさぁ、セイ」

《ん、どうしたの?》

「ごしゅじんさま、観てくれるかな?」

《――うん、絶対観てくれるよ》


 ごしゅじんさまは、ちゃんと頼んだことをやってくれた人にはご褒美をくれる。
 セイはいつも色んな所を撫でてもらっているし、アイリスだって罰ゲーム付きのゲームでごしゅじんさまと遊んでいた。
 ぼくはごしゅじんさまの味噌汁を毎朝……じゃなくて、ごしゅじんさまの作ってくれるものをたくさん食べたいんだよ。
 食べ物も、魔法も、命も、そしてアレも、みんなみーんな喰べたいんだ。


 だから、ご褒美のためにも頑張るぞ!


SIDE OUT
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『し、試合終了……勝者、『譎詭変幻』』


 先程のような盛り上がりは無く、ただただその言葉だけが俺に聞こえてくる。

 ……全く、可哀想というか凄惨というか。
 闘いを三行で纏めると――

 相手の魔法生命、全部喰われる
 迫るグラに魔法攻撃、結局喰われる
 そしてそのまま――イタダキマス

 あ、言っておくがグラが自分の口を使って喰べたわけじゃないぞ。――"魔喰の牙"みたいな感じで喰べたんだ。

 そんなわけで、グシャグシャボリボリと音が鳴り続けていき、グラのごちそうさまでした宣言と共に試合は終わったのだ(もちろん、相手は生きているからセーフだな)。


「(グラ、幾らなんでも喰べ過ぎだぞ。夕飯が食べれなくなるでしょうが。……ったく、お疲れ様だな)」

《ごしゅじんさま、ぼくがんばったよね?》

「(まぁ、そうだな。ちゃんとコピーもやってくれたし殺さなかったし――グッジョブだ)」

《えへへへ……だから今日は、ごしゅじんさまにお願いしたいことがあるんだ》

「(へぇ、それは構わないけど――グラは俺にどうしてほしいんだ?)」

《それはね――》


 色んな意味で食事だった、とだけ記しておこう。ヤバかったです。



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