AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とルナ再誕プロジェクト 前篇



 さて、前にもした気がするが今回も冒頭で質問を行うとしよう。
 今回は、ルナ再誕プロジェクトにも関わる(かも知れない)質問だから聞いてくれ。

 かつて、俺は一つのダンジョンを造り上げようとしていた。
 果てなき闘争を求む、狂人のみが挑める永遠の遊び場――『終の迷宮』。
 ゲームで例えるならば、ラストダンジョンやクリア後のやり込み要素だろうか。

 そんな戦いの舞台となる場所は、ある理由から造られることは無かった。
 あまり需要が無かったのもあるが、誰もその場所での闘争に耐えうるだけの力を有していなかったのが主な理由であろう。


 では、ここで質問といこうか。
 そんないかにもハードモードが確定な、どこかの野菜人がワクワクしそうなダンジョンに、挑もうとしている森人は一体何者なのだろうか。
 性別は? 選ばれた理由は?
 まぁ、そこら辺をお答えください。

 ……あ、やっぱり要らないな。


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第四世界 千尋山


「……あ、やっぱり要らないな」


 目の前で繰り広げられる惨劇から視線を逸らそうと意識を飛ばしていたが――結局、現実は変わらないんだよな。

 猪型の魔物の突撃によって、森人は体をくの字に曲げて飛ばされる。
 そして、そのまま体を光子状にして一度消滅すると――再構成されて復活する。

 そう、ダンジョンの名前は『千尋山』。
 一層一層にレイドボスが出現する、この世界でも最高難易度を誇る(予定の)ダンジョンであった。
 あ、闘技場と同じような結界を用意してあるから、死に戻りが可能となっている。
 こちらの世界の者でも使えるので、森人にも何度か死んでいて、その経験をバネに戦い続けているぞ。


「頑張れ~、種は植えたんだ。環境を整えるのとそれを開花させるのは自分自身でしかできないぞ~」

『…………ッ!!』

「クレームを言ってる暇があったら体を動かさないと死ぬぞ~。大体、"遮音結界"を使ったって言ったじゃないか」

『……! ……!!』

「おいおい、確認したぞ? 本当にやるのかはさ。だけどさ、最終的にこれを選んだのはそっちなんだから文句は無しだろ? そもそも、死ぬ可能性は無いんだから思いっ切りやらないと駄目だぞ」

『………………!!』

「うんうん、頑張れ頑張れ」


 目の前では、一人の森人が複数の存在を相手に再び戦闘を行っている。
 手には弓と矢を離さずに持っており、一瞬の隙も生じさせないように、耳をピコピコさせて警戒してるな。
 再び突進してきた猪をヒラリと避け……ようとして吹き飛ばされる。
 猪だって、上位個体ならカーブぐらいできるだろうに。

 ん? 森人の正体と戦っている敵の詳細な情報?
 片方はともかく、もう片方は直ぐに分かるから待っていてくれよ。


「(誰か、状況の報告を頼む)」

《『種』の発芽は一切確認されていません。ただ、代わりに成長は確認されています》

「(まだ才能が有り余っているということか。とりあえず、今やっていることをやり続けてくれ。あぁ、時間になったら持ち場に戻らないと駄目だぞ)」

《了解しています》


 持ち場――それは別のダンジョンのことを指している。
 つまり森人の相手をしているのは、ここのダンジョンの魔物たちなんだよ。
 ……え? ダンジョンで修業しているんだから当然だろ?
 いやいや、俺の創造した魔物かもしれないじゃないか。

 というか、ただの弓で俺のダンジョンを破壊から守る魔物たちの防御力を突破できると本気で考えているのか?
 多少魔力で加工がされていようと、そんな攻撃では傷一つ付かない筈だ。
 本当は武具を貸そうと思ったのだが、色々とグチグチウダウダと言われたので止めておいた。


『…………』

「ふむ、コイツらは本当に徘徊している魔物なのか? か。さっきも言ったが、少々の進化があったとはいえ基本は普通の魔物だ。だからこそ、お前と対等の戦いができる筈なんだけどな~」

『…………! …………』

「……ハァ。いいか、お前達が祈念者を殺した時に手に入る経験値もな、確かに普通よりは多いんだろうけどさ。それはかなり業値と言う罪を重ねていくんだよ。お前らのルナとやらは、神聖なものなんだろう? それならさ、どうして血に染まった体がそれを降ろすに足り得ると思うんだ? ……普通思わないだろう」


 JK、常識的に考えてほしい。
 ここら辺は、長老達にも説明済みである。

 業値によるペナルティ。
 それによって進化が可能になったりできなくなる種族や職業があることを。
 大まかに分けると、聖杯戦争の英霊の属性のようなものだ――

 聖性を持つものが多い秩序。
 どちらもあるが傑出しない中庸。
 邪性を持つものが多い混沌。

 これらは人々の業値や世界への貢献度とやらで決まるらしいのだが、俺は{感情}に内包された幾つかの能力によって、中庸なのに秩序と混沌にも属している反則チーターになっているぞ。
 器用貧乏、ここに極まれたり的な感じだ。

 あ、ここにいる森人は一応業値を俺と同じように0にしておいたぞ。
 ルナとやらが本当に神聖な種族かどうかは分からないし、中庸な状態なら必要な条件を洗い直し易いしな。


「それじゃあ、次に行くぞ」

『……。……!!』

「やる気なのは良いことだな。お前の相手は幾らでも居るんだ。……さて、とりあえず成長限界までは届いてもらうぞ」

『………………!!』


 はてさて、他にも進化条件は幾つかあるけど、今はそれしかやりようがないな。

 頑張ってくれよ――イアス。


「正解は、最もルナとしての特徴を持っているとされる森人――イアスでした」


 性別は男、選ばれた理由は好奇心と嫌がらせからだぞ。



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