AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と暇潰し



 第一世界 天空の城

「あぁ~もうやだ。何もしないで一日中ずっとごろごろしてた~い」


 ガキ共との交流で精神を摩耗した、俺の現状はそれだけで説明が済む。
 体に力を入れることすらままならず、ベッドに同化する勢いでグデーッと倒れている。

 正直ソウと闘った時以上の疲れっぷりだ。
 あのときは素で行動すれば済んだのに、ガキ共と会う時は常時メルモードにならなければいけないという面倒な展開。
 ……その内本性を晒して全力で扱くことにすればいっか。

 まあ、そういうわけで再び体が【怠惰】一直線になってしまったのでこうしてベットの上でゴロゴロしているんだよ。


「ああ~~~~。ダ~~ル~い~~!」


 俺という人間は一々感情を口に出すタイプの人間だ。暑ければ暑いと言うし腹が空いたなら空いたと叫ぶ……面倒なタイプだよな。
 とにかくベットの上でわちゃわちゃと体を動かして感情を表現していく。

 だいたい、暇潰しでできることが少ないんだよなー。魔法の実験に武術の鍛錬、アイテムの生産に他者との交流……あれ、結構あるみたいだ。
 それでも、なんかこう……一瞬で時が過ぎ去るような充実感が発生する行動がなかなか見つからないんだよ。
 生産が一番それに近いんだが、このままだとゼンマイ仕掛けの世界を創る規模にまで生産が発展しそうなので少しは自重することにした。
 ……人の三大欲求を満たすのも充実に近そうだが、食は不要で物は生産で満たしているから必要ない。
 残るアレは問題だらけだしな。

「ああ、そういえば頼まれ事があったような気がする……」


 いつのことだったか、誰かと会う約束を取らされた気がするな。
 期限は未定だし、そいつがどこにいるかも分からないけど……暇だから探してみるのも良いかもな。


「――よし、いっちょやるかぁあ……ハァ」


 上げようとしたテンションも、結局は上がること無くむしろ下がってしまった。
 ……早く見つけられないかな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 第一世界 リーン


 意外と早く見つかった。
 そういえば、彼女たちには家を一軒用意してあったんだよな。しかも、大人数が住むことを予想してかなりデカい物を。

 まずは下に広がる国を探索しよう。
 そう思いリーン国の中を散策し始めたのだが……まさか普通にそこでバッタリ出会うとはな。

 今はソイツらの家の中に上がり込み、話を聞いているところだ。


「……で、用件は何なんだ? あまりに暇すぎてしょうがないから、今なら大体のことを聞き入れちゃうぞ」

「気持ち悪いわね、何が『ちゃうぞ』よ。私はアンタに召喚獣について訊きたかったんだけど……って、何よその顔は」

「おい、それは嫌味なのか? 召喚系のスキルを所持していない俺への嫌がらせなんですか? ――イアさんや」


 そう、召喚といえばこの人。
 龍人族にして『職業:幻獣召喚士』であるイアさんであった。……さらに進化してたよこの娘。
 何、その男心が擽られてしょうがないその職業は!


「今のアンタは(召喚魔法・偽)だかいうパチモンを持ってるんでしょ? なら、私の質問にも答えられるわよ」

「偽物はあくまで偽物だよ。俺の場合は召喚に関する魔方陣を扱えるようにしただけで、他の誘因とか合成とか、そういう特殊な技がまったく使えないんだよ」


 そう、もともと(召喚の心得)は何も召喚するだけのスキルでは無かったのだ。
 魔物を誘き寄せたり追い払ったり従魔を合成したり感覚を共有させたりといろいろできるスキルである。

 だが、俺のパチモンではただ召喚することしかできない。従魔登録ぐらいなら可能であるが、感覚共有や合成はできない……というかする必要が無い。
 感覚共有は眷属ならできるし、合成はそもそも必要ない。その気になれば俺が因子を注入することでソイツに変化を齎せる。
 ――つまり、マジで必要ないんだな。

 最もな違いは、召喚陣に召喚対象に関する安全機能が付いているかどうかなんだが……今はカットで。


「――で、そんなパチモン使いの俺に訊きたいことってのは? 魔王召喚や勇者召喚、神族召喚ぐらいなら手伝えるぞ」

「……そんなことやるわけないでしょ。魔王も勇者も神族も全部、アンタの眷属でしょ」

「ああ、そういえばそうだったな」


 ユニークな魔王たちに変態なTS勇者、あとは『のだ』邪神とかか?
 ――実力はあるんだよ、実力は。


「私が訊きたいのは召喚できるものについてよ。アンタ確か、従魔以外も召喚できるんでしょ? 少し見せてみなさいよ」

「――よいしょ、食ってみろよ」

「……美味しい。一体こんな物、どこから召喚したの? まさか、犯罪に手を!?」

「おいおい“空間収納”とかインベントリ機能から取り出したって答えは無いのか。……別に、このケーキが置かれていた座標を指定して召喚しただけだ。幸い、俺のこっちでの記憶力は異常な程に高いからな」


 そう言って、今度は美味しい紅茶を召喚してイアに差し出して飲ませる……うん、満足そうな顔だ。
 今回の召喚、{夢現空間}の冷蔵庫に冷やしておいたショートケーキを俺は出してみた。
 特に理由は無いのだが、どうせ食べ物を出すなら甘い物かな? と思ったんだよ。


「それで、従魔以外を召喚できるとして、イアはいったい何を調べているんだ? 今日一日で分かることなら俺も調べるからさ」


 そう言うと、彼女はティーカップを皿に戻してから口を開く。


「……実はね、最近掲示板で噂になっているのよ。魔物じゃない女の子を召喚して、闘わせているパーティーが。そんな種類の召喚魔法は知らないから、調べてみたいと――」

「ああ、それ俺だから問題なし」


 一瞬で(変身魔法)でメルになって、この話は終了する……ハァ、暇潰しにはなったけどあんまり続かなかったな。

 ポカーンとした表情になったイアを眺めながら、湯呑に入った飲み物を啜って飲む。
 ――嗚呼、お茶が美味い。



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