AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と孤児院 前篇



 プグナ

 いろいろとカナタと話し合った結果、再び創作意欲が湧いた。なので現在は頭の中で構想を練るのが楽しみになっている。

 いつでも生産室に缶詰め状態になれば行えるのだろうが、それでも自分で作った柵からは逃れられない。
 いつものようにクラーレの召喚に応えて再びむさ苦しい街へ戻ってきた。


「ますたーたち、今日は何をするの?」

「最初はギルドで依頼を見ることになりますけど……メルちゃんは何か、用事があるんですか?」

「ううん、訊いただけだから」


 まあ、そんなこんなで今日の予定は依頼の確認だそうだな。
 クラーレの後に追随して、メルとしての一日が始まっていく。



 むさ苦しいといったが……男たちは別に醤油顔でもないし、筋肉を見せびらかすような集団でもない。
 うん、別にちょっと逞しい以外には問題は一つしかないんだよ。

 前に言ったよな?
 この世界は俺にとって美女ばっかりだと。
 そう、女性の容姿がとても優れており、正に楽園と称しても良いほどの環境である。

 ――なら、男性の容姿は?
 もちろん、こちらも優れている。
 男という種馬も優れていなければ、美少女という新たな命は誕生し辛いだろう(0とは言わない)。

 今まで会って来た人々を思いだしてもそのほとんどが容姿に困らなさそうな奴らばっかりだ。逆に容姿が俺達の同士級であるブサイク奴なんて、大半が裏で何かをやっている悪人だ。
 始まりの町で集めた資料が、そう物語っていた。

 ――なんだか虚しくなってきたな。
 いつの世も、悪人は嫌われるような顔をしているのだろうか。
 俺も<正義>による業値の変動停止が無ければ、<畏怖嫌厭>も相まって世紀の大犯罪者に仕立て上げられていたかも知れない。
 あれ? もうそうなっているんじゃ……。


 さて、そんなマッスルなイケメンがうんざりする程集まっているギルドの中。
 彼女たちはそんな熱気から離れた一角で掲示板に張られた依頼を吟味している。

 俺はそんな彼女たちの近くで周りにいる者全てを対象に、(鑑定眼)を発動して情報を集めていた。
 個人の平均ステータスや持つ装備のランクなど、視ることはとても重要なことだと理解したんだ。

 ……それに今の俺が(一般)スキル程度ならば視認するだけでその全貌を丸裸にすることができる。その情報を元に眷属にそれの改良版を作ってもらうことが可能なのだだ。

 いつか起き得る戦いに向けて、戦力は少しでも多い方が良い。なので、他人の努力スキル犠牲にコピーして俺は強くなるのである。


「……ちゃん、メルちゃん」

「――っ! ごめん、どうしたのますたー」

「メルちゃんって、たまにそうなりますね。今日行う依頼が決まったので、メルちゃんに伝えておこうかと」


 そう言っていくつかの紙を見せてくる。
 ……ふむふむ、地域密着型の依頼だな。
 本来はこうしたことを行っていたギルドであったとのことなので依頼内容に不可解な点も見受けられない。


「分かったよ、私はどうすれば良いの?」

「メルちゃんは、わたしとこの孤児院の依頼に来てほしいんです」

「はーい」


 こうして俺とクラーレは孤児院に向かって依頼を行うことになった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 プグナ 孤児院

 ませた子供たちが、俺とクラーレに襲いかかって来る。クラーレは一人一人丁寧に、優しく対処しているようだが……俺には無理。


「おい、チビ。お前も冒険者なんだろ? 早く面白いことの一つぐらいやれよな」

「…………」


 嗚呼、思い返せばうちの国民たち。
 最初の頃はルーンの者たちともいろいろと揉め合った。なんせ国の簒奪者だからな、いきなり好印象を持てとは言いづらい。
 時に国の膿を浄化し、時に国の傷を癒していった。

 国を好くしていくためにできることなどモブには分からないので、イベントの力で盛り上げて俺は人畜無害なマスコット的な地位を手に入れようとそれなりに行動したんだ。

 その結果大人も俺を受け入れてくれ、今の環境に慣れるように努力を始めてくれた。
 だが子供とは、基本は感情的に動きやすい生物である。
 どれだけ理詰めで語ろうと彼らのご機嫌が良くないと、事実を捻じ曲げて自分の都合のよい結果を算出する。
 ……まあ、要するにそれなりに最初は嫌われてたんだよ。

 (遊戯世界)で楽しいゲームを行ったり華景品で釣ったりすることで、少しずつ子供たちと仲良くなれた。
 アレはあくまで自分の世界の国民であったからやったことなのでわざわざ外国で行う必要などこれっぽちもない。


「おい、聞けよチビ!」


 何が言いたいかというと、俺がここの子供の世話をする必要は皆無だということだ。
 それも──妖女状態メルモードの俺を思いっきりチビとディスるようなクソガキは。


「こらっ! ファイ、駄目でしょう」

「痛っ! 何すんだよミーラ!」

「ミーラじゃなくてミーラお姉ちゃん。全くもう、ファイはいっつもそうやって来た人にちょっかいを掛けるんだから。ごめんさいねメルちゃん、この子も悪気はないのよ」

「おい、余計なことを言う――痛っ!」


 クソガキは依頼人であるシスター風の女性に叩かれている……いい気味だな。
 頭を摩るクソガキを置いておくとして、彼女との会話をせねば――。


「ううん、別に気にしてないよ。それより、私たちは子供たちの世話をするんだよね?」

「ええ、その通りですよメルちゃん。本当なら他のシスターもいたのですが、あいにく出払ってしまっていて……今回の依頼を出したのです」

「そうなんですか……分かりました。子供たちのお世話は、こちらに任せてください!」


 ま、クラーレもそう言ってるみたいなので仕方ない。
 俺は偽善者だし、それなりに将来有望な子供たちに恩でも売りつけておくかな。



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