AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とバーリ街道
バーリ街道
その日はクラーレたちに召喚されて、お手伝いとなった。
最近はクラーレを近接でも戦える物理系回復職に改造する計画を行うため、いろいろとやらせてみている。色んな武器を振るわせたり、気や気配を察知できるようにしたりな。
……その結果、色んなスキルが習得可能状態にしてしまって他の奴らにも同じことをしてほしいとも言われてしまった。
いや、きっと才能がクラーレにあったからそうなったんだよ。俺って別に、指導の才能があるわけじゃないからね。
バーリ街道はウーヌムとその東の街を繋ぐ街道で、ある程度整備された景観が広がる街道である。
……道の外に一定間隔で結界を生成する魔道具が設置されており、道を通っている限りは魔物との戦闘が避けられるという便利な街道だ。
――もちろん、これもタダでは無い。
本来ならば結構な金を支払うことができた者だけが使える道だ。
かつて行われた緊急依頼の報酬。
選択制の報酬の中にこの道が一度だけ無料になるというチケットが入っていたんだよ。
一枚あればパーティー全員が使えるというそのチケットを、慈悲深いクラーレ様が交換したため――彼女たちは街道を使って悠々と次の街へと進んでいた。
あ、なんとこの道を通るとエリアボスとの戦闘も回避できるらしい!
今のプレイヤーの平均レベルだとまだ突破できないものだったらしいので、そうして街の開拓だけでも……と思うプレイヤーは他にもいたらしい。
AFO内ではそうしたボス戦を回避する特殊な道はいくつか存在している。
図書館で読み漁った本にはそうした例の一つとして、飛行船が載せられていた。プレイヤーが空を飛んでエリアボス戦を回避しようとしても、特定の条件を満たしていない者は結界に阻まれて先へ進むことができない。
だが、飛行船を使って空を飛んだ場合は、結界に阻まれることなく先のエリアへと進むことができる……と記されていたぞ。
俺は先ほど言った条件の一つを満たしているので、空を飛んで別エリアへと行くことができる。
転移門を開放して何か特典があったならそうしていたかもしれないが、別にAFOではそういうものがないのでそんな面倒なことはやってしない……座標さえ分かれば、そもそも転位で向かえるしな。
「……ちゃん、メルちゃん?」
「どうしたの? ますたー」
おっと、少し思考の海に沈み過ぎたかな?
俺の方を心配そうに女神様が見ていたよ。
「いえ、少し訊きたいことがあったので、メルちゃんに訊こうと思ったんですけど……」
「ん? そういうことなら言ってみてよ。答えられるなら答えるよ!」
「な、なら――メルちゃんは、いつまでわたしたちといてくれるんですか?」
「……へ?」
ああ、そういえばすっかり忘れてたな。
いや、うん。
当初は【固有】狩りをすることを、せっかくだからと思って彼女たちの旅に便乗したついでにしよっかなーと、思ってたんだ。
だけど実際に見つけたのは、ここに召喚される切っ掛けになった【未来先撃】のシガンだけである……全然だな。
いやまあな、今までの遭遇スピードが異常だったと思うんだよ。
最初の月で数個も見つけて、撲滅イベントでは有力なプレイヤーの【固有】スキルを集めまくり、俺は参加していないがダンジョンイベントでもユウたちが【固有】スキルを回収してきてくれた。
本当、集めてきたよなー。
彼女たちならプレイヤーの心も折ってから回収していそうだし、まあ折れたかどうかは確認しなくてもいいか。
――誰のスキルか分からないし。
「わたしは、メルちゃんとずっと冒険をしていたいです。も、もちろん戦いを強制することはしませんよ。純粋に、メルちゃんと一緒に旅をするのが楽しいんです!」
「…………」
「みんなも、メルちゃんに何かを強要なんかしませんよね?」
グルッと他のメンバーの方を見ると、みんなうんうんと頷いている。
そっかー、そうなのかー。
「――なら、私が生産活動をしなくても、大丈夫だよね?」
『……ッ!?』
誰が、と追及する気はしないのだが明らかに息を呑むのが聞こえてしまう。
「私は、自分が食べたくなった時に食べ物を作って作りたくなった時にしかアイテムを作らない。そうだねー、例えば昔こっそりとお菓子を求められたら作ってたけど……今度からは、断っても良いんだよね?」
「もちろんですよ! ね? みん、な……」
『……………………』
クラーレはセリフの途中で勢いを失う。
黙秘だ、みんな黙秘しているよ。
クラーレには普段からいろいろとお菓子をプレゼントしていたが、他のメンバーはそうした嗜好品を中々口にできていなかった。
なので、こっそりと俺に話しかけてはいろいろと交渉をして手に入れていた……うん、素材とかを貰ってたよ。
だが、それが突然途絶えると言われれば人は黙ってそれを了承できるのだろうか?
「……クラーレ、ちょっと来なさい」ガシッ
「え、みんな? ちょ、ちょっとどこに連れて行くんですか? は、話し合いなら、メルちゃんと一緒でもできますよ?」
「いってらっしゃーい!」
「メルちゃーん!!」
可哀想な女神様に俺はただ祈ることしかできない。
ま、俺のせいなんだけどね。
引き摺られながらも俺の偽名を呼ぶ彼女を見て、少しほんわかとした俺であった。
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