AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の扉



 修練場

 俺の目の前には、巨大な扉が聳えている。
 半透明だが豪華な装飾がされており、見る者が見れば、その価値は計り知れないと思われるだろう。

 そんな扉には鍵穴が存在していない。
 存在はしていないのだが、押しても開くことはないのだ。

 ある特別な条件を満たすことで、この扉は開かれるのである。
 ――それが、いつもの扉であった。


「……なあ、なんか光ってねぇか?」
「……光ってますね」


 俺とガーは、その光景を眺めていた。
 扉は普段の半透明な色から変色し、灼熱の炎のような色を帯びていた。


「これってさ、赤色の世界と繋がってるってことか? 運営神の赤色っていやぁ……」

「たしか、シーバラスだったかと」


 説明しよう、シーバラスとは暴走中の運営神(火属性担当)である。
 しかし、アイツの神気とその色に関してはすでに知っているので、扉の先がシーバラス関連の何かで無いことは間違いない……と思うし思いたい。


「……また、鍵だけ作って放置しておいた方が良いのかな?」

「そうですね。わざわざメルス様のお手を煩わせずとも、扉はいずれ光を失います。そうするのが賢明かと」


 そう、一度この扉が光った際、俺は座標を登録した鍵だけ作成して放置した。

 すると、勝手に扉が光を失い元通りとなっていたのだ。
 俺が行かなくてもこの現象が治ることは分かっているので、気にしなくてもこれっぽっちも問題は発生しない。
 ……発生しないのだが――。


「でもな~、なんか行ってみたいんだよなー異世界」

「そそられますからね」

「扉の先は異世界って、もうそれだけで男のロマンをそそってるよ。前は面倒だったから行かなかったけど」


 そのせいでリオンにぼこぼこにされたことは、今でもはっきりと覚えているよ。
 ……よし、解析完了。座標は分かった。


「でも、これってどこに繋がってるんだ?」

「そこだけは、本当に調べようが有りませんからね」

「……行ってみる?」

「いえ、それは控えてください」


 ガーを誘ってみるのだが、そこはあっさりと断られてしまった……冷たいなー。

 それから少し問答を行っていくのだが、決してガーは俺が行くことを許してくれない。


「なー、暇なんだよー。行かせてくれよー」

「だ、駄目ですよメルス様。暇ならば、私たちとともに何かすれば良いではないですか」

「だから異世界探検に行こうって言ってるんだよー」

「ですから、それが駄目だと言っているのではありませんか」


 話し合いは平行線、どちらも自分の主張を全く譲らない。
 このままではこの討論だけで一日が終わったしまう……そう思ったそのとき――。


「ふっふっふっふ……、話は聞かせてもらったのだ!」

「だから、ちょっとだけ行ってみて、駄目そうだったらすぐ戻ってくれば大丈夫だって」

「戻って来れなかったらどうするのですか。私たち、その世界滅ぼしますよ」

「……そちら」

「滅ぼす予定なら、先に下見に行くべきだろう? 選抜隊として、行かせてもらいます」

「ですからそうならないように、メルス様にはここに居てほしいのです」

「そちら、話は聞かせてもらったのだ!」

「「聞こえて(まし)たから」」

「──なら、反応をしてほしいのだ!!」


 丁度近くをうろついていた、邪神様がやって来た。
 ……運営の仕事をしなさいな。プレイヤーたちが困るでしょうが。


「ここはわれに任せるのだ。異世界の情報などわれにかかれば、ここからでもだいたい把握できるのだ!」

「おぉ、さすがリオンだ!」
「略してさすリオですね」

「……褒められた気がしないのだ。とにかくメルス、そちは異世界に行きたい――」

「まあ、そうだな」

「ガーはそんなメルスを危険な目に合わせたくない――」

「そうですね」

「なら、われが調べて問題のない世界なら、二人で行って来ればいいのだ! メルスの心配はそちがすれば、万事解決なのだ!」


 ……と、提案してきた。
 本人的には胸を張ってムフーッとしているぐらいに自信のあるアイデアらしい。

 俺としちゃあ、最初からそう言ってるんだけどな。
 ガーってば駄目の一点張りだったから、聞いてくれてなかったよ。


「ガー、それじゃあ二人でデートと洒落込もうぜ。記憶は隠蔽できるし、二人っきりの思い出を作ろう」

「ふ、二人だけの……思い出……」

「ちょ、メルス!」

「ああそうだ。困ったら(最後の審判)でガーがどうにかしてくれるんだろ? それなら、俺に危険は訪れない。お前がいてくれるだけで心強い。だから一緒に異世界に行こうぜ」


 実際、それを使ったら世界が滅ぶけどな。
 眷属の中でソウとガーは、破壊能力に長けている。
 ソウは世界最強を冠していた圧倒的な戦闘能力を、ガーは武具の頃から保持するスキル(最後の審判)を振り回すことで世界はその力に屈してあっけなく終わりを迎えてしまう。
 ソウはMだから連れていけないし、ここはやはりガーに頼み込むしか……。

 っというわけで交渉をしてみたら――。


「……分かりました。メルス様は私が止めようと、本当に行きたいのならば勝手に行ってしまいます。それならば、私が監視として共に居た方がよろしいですよね」

「そ、そち。簡単に騙されるでないのだ! これはメルスの罠なのだ! 実は裏で、世界の破壊に関することを考えていたのかもしれないのだ!」


 ……邪神様、エスパーでもあるんですか?
 リオンが思いの外、俺の考えていたことを当てたことにビックリするのだが、それでもガーは止まらない。


「でしたら、リオンも一緒にどうですか?」

「……われも?」

「お、そりゃいいな。リオン、いっしょに異世界に羽を伸ばしに行こうぜ……まあ、お前は仕事が終わってからだが」

「仕事はとっくに済ませてあるし、分体を残せば問題ないのだ。それよりガー、われもともに行って構わないのだ?」

「本当なら私は、眷属全員を誘ってメルス様の警備に努めたいのですが……それはさすがにメルス様もうんざりして逃げ出してしまいそうですし、リオンと三人で行くならば、メルス様も逃げ出したりしませんよね?」

「ああ、さすがに全員だったらまた狙われそうだし、三人でデートぐらいだったら、二人が納得してくれるなら問題なしだ」


 ……あ、ちなみにだが、いろいろとあったから眷属同士も仲良くなっているぞ。
 普段から名前やあだ名で呼び合っている姿が見られる(一部の者はまだ硬めだが)。


「――それで、どうする? 行くか、行かないか……」

「わ、われは――」


 そして、リオンの選択は――。



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