AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの闇泥狼王



「ますたー、ご用件は?」


 そう言って、少女はわたしに質問をしてきます。


「可愛い」
「可愛いね~」
「可愛い……な」
「可愛い……けど、なんにも視えない」


 みんな似たようなことを思っているようですが……ノエルだけは少し違っていました。


「ノエル、どういうことかしら? 一部だけ視えない箇所があるならともかく、名前も視えないの?」

「う、うん。全く視えない。もしかしたら、隠蔽系の【固有】スキルを持っているのかもしれないけど……」


 シガンがそう訊くと、そう答えています。
 【固有】スキル……この娘もそれを持っているの?

 ノゾムさん、貴方はわたしに何を渡したんですか?


「ますたー、ご用件はなんでしょーか?」

「あ、ごめんなさい。――そこにいる狼さんたちを倒してほしいの」

「うん、分かった!」


 少女は頷いて周囲を見渡しました……すると、闇泥狼たちが激しく怯えだします。


「数は……うん、大丈夫。ますたー、まずは周りを片付けるから、十秒だけ待ってねー」


 少女はそう言って、二本の剣を抜いて――一瞬で姿を消します。


「……速い」


 誰が言ったかを気にする暇もありません。
 何かを斬るような音がすると、闇泥狼が一匹、光になって消えていきます。
 少女はわたしたちが捉えることのできない速度で動くので――その場には、斬撃音と悲鳴しか聞こえません。


「凄いね~。クラ~レ、いったい~どうやって~、さっきの~結晶を~貰ったの~?」

「先ほど話したノゾムさんという人に頂きました。第一陣ですので、恐らくわたしたちの知らない何かを知っているのでしょう」

「確か……無職だと言ったな。本当にそうなのか?」

「……ノゾムさん。出会った当初はデミゴブリン相手に苛められてましたし……たぶん、そうなんでしょう」

「「「「……えっ!?」」」」


 わたしもビックリしました。
 最も新しいAFOの参加者である第五陣のプレイヤーでも、たぶんゴブリンに負ける人はいないと思います。

 チュートリアルでは、ダメージを受けることはありません。
 本来は、その間に魔物と戦う意思というものを持つらしいのですが……本当に謎です。
 武器も持っていましたし、いちおうは戦えるはずなんですけど……。


「ますたー、小さいのは倒したよー」

「も、もう終わったのですか!?」

「うん! 次は、あの大きいのだねー」


 二本の剣を周囲で素振りし、今度は闇泥狼王を見ています。

 わたしたちが手間取ったあの闇泥狼をほんの数十秒で……いったい、あの娘はどれだけの力を有しているのでしょう。

 それに、少女の服は全く汚れていません。
 辺りには血のエフェクトが飛び散っているのに……どうやっているのでしょうか?


「行っくよー、スピードモード!」


 少女がそう言うと、マントの下に着ていた服の色が緑色に変わります。
 そして、地面を強く踏みしめて――突撃しました。

 闇泥狼王は少女をジッと見て、体の周りから闇を放出します。


「せいやっ! ……って、あれ?」


 少女が闇を斬った時、闇泥狼王の姿はその場からいなくなっていました。
 少女はそれを見て、一度こちらに戻って来ます……冷静な判断ですね。


「あのっ! その魔物は闇や泥を介して移動することができますから!」

「なるほど。ますたー、情報ありがとー!」


 少女はわたしにそう言うと、再び高速で移動します。
 散布された闇が細切れにされていくのですが、それでも闇泥狼王が悲鳴を上げることはありません。

 恐らく、泥に隠れているのでしょう。
 そして、泥を攻撃されたならば闇へ、闇を攻撃されたならば泥へ……と、隠れる場所を変えて続け、少女の体力を削っていくつもりなのだと思われます。


「うーん。なら、これならどうかな?」


 少女は魔力を足に溜めて……強く足元を踏み締めます。
 すると、今まで泥塗れであった地面が綺麗に整備され、闇泥狼王が再び潜れないようになっていきました。

 しかし、まだ闇があります。
 それは少女も分かったいるのでしょう。


「次はー、光れー!」

 ピカーン

「目が、目がぁ~! ……なんてね」


 今度は天井付近に巨大な光球が出現し、このダンジョン内を眩く照らします。
 闇は存在する場所を全て失い、ダンジョンは光に支配された空間へと変貌します。

 ずっと薄暗い洞窟の中にいましたので、少し……目が痛くなります。


「あ、ますたーごめんなさい。でも……やっと見つけた」

 GURRRRRRRR

 少女が言うように、隠れる所を無くした闇泥狼王が再び現れました。
 傷は完全に治っていて、今は強固な泥の鎧が完成しています。
 強烈な光の影響で闇は纏えていないようですが、それでも鋭い目でこちらを見るその獣性は諦めを感じさせません。


『……うん、そ……んだ。……、後……』

 GWON

 少女はわたしたちに聞こえないように、まるで闇泥狼王と話すように呟きます。
 何を言っているか分かりませんでしたが、闇泥狼王の気配が高まったので、何かしたことは間違いないようです。

 わたしたちは、その様子を黙って見つめています。
 ……少女の闘いに魅入られ、何もできないというのが正しいのでしょうか。


「じゃあ、行くよ」

 WOOOOOOOOOOON!!

 少女と闇泥狼王は、同時に相手の元へ走り出します。
 速さは少女の方が上ですが、闇泥狼王の目は間違いなくそれを把握しているように見えました。

 闇泥狼王は、一瞬だけ光の中で闇を出現させて爪に纏います。
 少女もまた、二本の剣に眩しい光を纏わせて駆けていきました。

 キィィィィイン!!

 互いに一撃を与えた構えで止まった二人。
 しばらくすると片方がグラリと揺れて……倒れます。


「うーん、これでおーしまい!」


 少女がそうやって剣を仕舞って伸びをするのと同時に、闇泥狼王は光の粒になってこの世界から消滅していきました。



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