AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者なしの闇泥狼 後篇
闇泥狼の巣穴
そうマップに記されたダンジョンは、確かにあまり深くはありませんでした……が、
「まさか、闇泥狼がこんなにいるとは、な」
迫って来る闇泥狼の攻撃を盾で押し返しながら、ディオンがそう言います。
ダンジョンの中は地面が全て泥塗れで、少しずつ魔法で固めていかないと不意を突かれそうです。
ディオンは、地面を固める前に迫って来る闇泥狼たちから、そうして時間を稼いでくれています。
「まあ、ものは考えようよね。一匹でも報酬たっぷりな現状が、何十倍にも膨れ上がるんだから」
「でも~、この数はちょっとね~」
そう言った二人は、そうして固められた地面の上で戦っています。
ノエルが忍術を織り交ぜて攻撃を躱し、その隙を突いてプーチが強力な魔法をぶつけていきます。
その魔法はノエルをも包み込む程に大きいものでしたが、ノエルはそれをあっさりと躱して会話していました。
「一気に倒そうよ――“波状槌”!」
「“音速斬”――2、1、0」
一刻も早く、ダンジョンの奥へ向かいたいのでしょう。
コパンとシガンは、武技を発動させてどんどん前へと進もうとしています。
彼女の【固有】スキルのカウントは、長ければ長い程威力を向上させますが、カウント時間が少なくても通常の威力を発動させることができます。
なので、武技を用いた今の攻撃の場合、先程の5秒のカウントダウンよりも強いものでしょう。
そう、この場所には闇泥狼が複数居ます。
先程から侵入者であるわたしたちを、何十匹もの闇泥狼たちが束になって、迎撃の為に襲ってきているのです。
「……■■■“範囲強化攻撃”!」
わたしは彼女たちの攻撃力を高める魔法を発動して、それを援護します。
……早く終わることができれば、彼女が【固有】スキルを使う必要はなくなります。
ならば、ダンジョンの奥地までは迅速に向かうことが最適解、そう思ったからです。
◆ □ ◆ □ ◆
そして、そうしてダンジョンの中を闇泥狼と戦いながら進み――ついに、わたしたちはダンジョンの奥地まで辿り着きました。
このダンジョンに入ってから、何日経っているか……現実よりも加速しているゲームの中ですので、長期的な討伐を行っています。
あとで、シャワーを浴びたいです。
あれから彼女は、最低限の回数しか【固有】スキルを織り交ぜた戦い方をしないでいてくれました。
……しかし、それはわたしの言葉を聞き入れてくれたのではなく、恐らくこの戦いで複数回行使するための温存でしょう。
どれだけ効率が良いとしても、消費は必ずします。
そこは彼女も理解しているのでしょう。
そして、その場所には一体の巨大な闇泥狼が座っており、わたしたちを恨むような瞳で睨み付けています。
「……この闇泥狼、多分最初の奴だよね。あの時リーダーが付けた傷跡があるし」
「そうだけど~、デカくな~い?」
「痛みを糧に成長したのだろう。クエストでそういった展開になったということも、掲示板に書かれていたぞ」
「名前は……『闇泥狼王』、そのまんま王様だね。ボス扱いになってるから、これを倒せば依頼終了よ」
四人はそう言って武器を構えます。
闇泥狼王、王系の魔物は配下となる魔物を何度でも召喚可能だと聞きます。
今回もそうなると……激しい戦いになりそうです。
「クラーレ。この状況ならば、私がアレを何度も使うことに問題はないわよね?」
「…………待ってください」
「……クラーレ?」
長時間のカウントダウンを行った彼女の連撃ならば、このような戦いでも優位に持っていけるでしょう。
――それでも、わたしは彼女にこれ以上変わってほしくない!
これは、わたしの我が儘なのでしょうか?
例えそうであっても、わたしはこの選択が間違ったものだとは思いません。
わたしは、仕舞っていた結晶を取り出し、シガンに見せます。
すると、それを視たノエルが呆然として様子で、わたしに訊いてきました。
「クラーレ……それ、何なの? (上級鑑定)が全く効かないんだけど……」
「これが、わたしの力になります。シガン、もしこれであの魔物が倒せたなら……アレを使うのは、もう控えてください」
ノエルの質問にはそれだけ答え、シガンをジッと見てそう伝えます。
今の彼女は、資格とやらを戦闘力に求めています。
なら、わたしが力を持ちさえすれば、話を聞いてくれるはずです。
そう思い見ていると、シガンはわたしに答えます。
「……そうね、まずは観てみないとね。その代わり、私たちは何もしないわ。そんな条件であの魔物を倒せたのならば……考えなくもないわ」
「ッ! シガン、それは「構いません」……クラーレ、お前もか!」
「その条件で充分です。……やってみます」
わたしはそう言って、一人で闇泥狼王の方へと向かっていきます。
そんな弱そうなわたしを睨むように見て、闇泥狼王は雄叫びを上げます。
UWOOOOOOOOOOOON!!
その声に呼応して、地面からは何十体もの闇泥狼が現れます。
ですが、この状況で引き下がるわけにはいきません。
「お願い、力を貸してください!」
そう言ってわたしが結晶を地面に叩き付けると、結晶は粉々に砕け、その場に魔法陣が展開されます。
「なんなの、あれ……」
「凄い魔力の奔流~。たぶん~あの魔力を使うだけで~、ここらへんの~魔物を一掃~できると思うよ~」
「ほぉ、それだけの魔力を溜めこむことができるのか、先程の結晶は」
「クラーレ……貴女、どこでそんな物を」
「あれ? でも、出てきてるのって……」
魔方陣からは、小さな帽子が……そして、最後には足が出現しました。
魔方陣から出て来たのは少女。
長い白色と黒色が混じった髪をポニーテールで括り、腰には二本の剣を拵えています。
金の刺繍がされた黒いマントを羽織ったその少女は、わたしの元にとてとてと歩いて来ました。
そして、オッドアイの瞳でジッとこちらを見てこう訊いてきました――。
「ますたー、ご用件は?」
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