AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの闇泥狼 中篇



 闇泥狼は森の奥地、それも湿地帯に巣を作り生息しています。
 近づいた来た相手には、誰であろうと容赦なく迎撃するため、プレイヤー以外は誰も向かうことがありません。

 そして、闇泥狼は餌を補給するため、雨や雨が降った直後に行動をします。
 それは恐らく、闇泥狼の持つ能力のよる影響でしょう。

 泥と闇を身に纏い、武器をも弾く鎧のような堅固な硬さを有し。
 周りの泥と闇を操り、泥と闇が近くにある限りその鎧を何度でも再生させ。
 泥や闇の中を高速で移動し、相手の死角を突いての攻撃。

 プレイヤーの一人がその戦闘の記録を掲示板に掲載していなければ、ただの噂だと信じ込むような能力を、闇泥狼は複数所持していました。
 彼女――シガンの【固有】スキルがあれば確かに倒せる相手です。
 なのですが……。


「何を考えているかは分からないけど、私は私の予定を守るために力を使うわ。【固有】スキルだって、その例外じゃない」

「そ、それでも……わたしは――!」

「はいはい、クラーレ。リラックスリラックス。二人共、ちょっと落ち着いてね」

「……コパン。私はクラーレと大切な話をしているのが分からないの?」


 そう言ってコパンを忠言しようとする彼女でしたが、コパンがまぁまぁ、と言って再び言葉を告げます。


「リーダーがリーダーで何かを信念に動いているように、クラーレにもクラーレなりの信念ってものがあるんだからさ。リーダーだって、クラーレがみんなのことを思っていつも動いているのは知っているでしょ?」

「…………当然よ」

「なら、今回のことだってきっと、クラーレには何か考えがあるんだよ。そうだよね? クラーレ」

「はい、その通りです」


 わたしは、迷わずコパンの言葉に肯定しました。

 ――【固有】スキルは危険です。

 彼女の守るべきであった信念を、少しずつ変質させていきます。
 それがもし、【固有】スキルの成長とリンクして起きている現象であるならば……できるだけ彼女が、それを使うことを止めなければなりません。


「今回の闇泥狼討伐依頼。シガンはアレを何度も使わないでください。一度も使うな、とまでは言いません。ですがせめて、控えるようにはしてほしいです」


 わたしがそう言うと、彼女はわたしの目をジッと見てから……言います。


「確かに……アレは一度使えば今回の闇泥狼程度ならば倒すことができるわ。だけど、どうして私がそんなことをしないといけないのかしら」

「そ、それは――」

「アレは使えば使う程優位に立てる力よ。消費が激しいならともかく、効率も良い便利な力。それを使わないのは、ちょっとおかしいと思わない?」

「…………」

「反論はできないわよね。……だいたい、どうして回復職の貴女がそれを言うのかしら。せめて戦闘力を持った誰かだったなら、その言葉を言う資格もあったのだけれど……戦えない人にそれを言う資格はないでしょ?」

「――っ!」


 その言葉に、わたしは衝撃を受けます。
 ……いえ。正確には、かつての彼女の言葉との矛盾に、ですが。


『――貴女は、貴女のできることをすればいいのよ。力の有無なんて関係ないわ。人は支え合う生き物だって言うし、もし困ったことがあればいつでも私に言ってちょうだい』


 かつて、わたしは彼女のその言葉に救われたのです。
 何もできずに泣いていたわたしに、彼女はそう言って手を差し伸べてくれました。

 そう言ってくれたから、今のわたしはあるというのに……。


(……力。それがあれば、今の彼女もあの頃のように戻ってくれるのでしょうか?)


 そう考えたわたしは、無意識に先程貰った結晶を手に握りしめます。

 彼は言いました。
 それが正しいことである限り、現れる者は必ず手を貸してくれると。

 わたしは、彼女をあの頃の――優しかった頃に戻したい、そう思っています。

 使い時は近いかもしれません。
 わたしは密かに、そう考えます。


「クラーレ、もう何してるの? もうみんな先に行っちゃってるよ。ほら、早くいっしょに行こうよ」

「は、はい! すぐに行きます」


 そしてしばらくして、わたしたちは泥狼と接触しました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 彼女が【固有】スキルを手に入れるまで、わたしたちはとても連携の取れたパーティーであったと自負しています。
 ディオンとノエルが攻撃を防ぎなし、その間にコパンとプーチで一撃を与える。
 わたしはみんなの支援をして、シガンが足りないところを埋めていく。
 そういった戦い方をしていました。

 今も基本的にはそれは変わりません。
 ですが、変わった点もあります。


「……シッ!」


 シガンが闇泥狼の近くで剣を翳し、剛直に振り下ろします。
 闇泥狼はその行動を無意味なことと考え、ディオンとノエルを相手に戦闘を続けます。

 シガンは確かに闇泥狼の近くで剣を振り下ろしましたが……それは確実に剣が届かない所での話。
 何も知らない魔物が、それに気づけるはずがありません。


「5、4、3、2、1――0」

 GUROOOOOOO!!

 彼女のカウントダウンの間に、ディオンとノエルは泥狼を先程シガンが剣を振り下ろした場所へと誘導していきます。

 そして、彼女が0を告げた瞬間……突然闇泥狼は、ダメージを受けて倒れ伏しました。
 闇泥狼は何が起こったか分からない様子でしたが、彼女は冷たい眼でそれを見て、二人に指示を送ります。

「今よ、止めを刺して」

「はぁイ!?」「分かった……ってえ゛!?」

 AWOOOOOOOOOON!!

 ですが、もう限界だと思われた闇泥狼は、雄叫びを上げて立ち上がります。
 油断していたわたしたちは、雄叫びに籠められていた何かの効果で、体が動けなくなります。


(これは……恐慌!?)


 視界に見える状態異常を表すマークは、今の状態を恐慌だと示しています。

 なんとか回復をしなければ、そう考えている間に、闇泥狼は体を引き摺って、雄叫びと共に現れた(と思われる)穴の中へと潜っていきます。

 動けなくとも、プレイヤーにはウィスパーという連絡機能が有ります。
 わたしたちは逃げる闇泥狼を見ながら、すぐに作戦会議を始めました。


【あれは、ダンジョンですか?】
【さっきの雄叫びとの因果関係を考えると……そうなるわね。みんな、ダンジョンに潜って止めを刺すわよ】
【え、大丈夫なの? ダンジョン攻略の準備はしてないよ?】
【今できたばかりなら、恐らくそう深くはないだろう。行ってみるのも手ではないか?】
【そうだね~、行ってみようよ~。駄目だったらすぐに引き返せば良いし~】
【そうそう、罠は私に任せなさい】


 賛成が半数を超えていましたので、わたしたちはダンジョンへと突入しました。
 ……魔法が無ければ、泥塗れになるところでしたよ。


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