AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者なしの闇泥狼 前篇
それから少しの間は何事も起きず、平和に過ごしていた。
第一世界で技術発展を行ったり、ウーヌムの町の観光をしたりとかな。
町の特徴を探してみたんだが……食べ物以外はあんまりなかった気がするよ。
魔物の素材を使った料理や、地域の素材を活かした料理など……なかなかに楽しめる料理であった。
ま、俺は食べるのに【暴食】を発動しているから、もしかしたらその素材が体に不備を起こすものであったとしても、全く気付かずに食べてしまう。
……故にみんなに配った時に被害が起きても分からない、なんて問題もあるんだがな。
普段は多めに買って、国民の一部に任意の試食をしてもらっている。
先に解析をして毒などが無いかは、いちおう視ているけど心配なんだ。
あ、他にも第一世界の海を改造したな。
自分の世界では俺の制限が殆ど解除されているので、自分のやりたいことが自在に行えている。
あるときは世界をAFOから完全に隔離して、またあるときはダンジョンを巡ってフロアボスたちと会話をしたり……それはそれでとても有意義に楽しんでいた。
――そう、その瞬間までは。
「……意外と早く、使われるもんだな~」
時間を調整して先ほど挙げたことをやっていたのだが、まだ新鮮なことがないかと町を
フラフラと歩いていた。
プレイヤーからしてみれば、まだ数日しか経過していないはずだろう。
そんなあるとき、俺の足元で魔方陣が展開していく。
……うん、自分で設計したモノだからよく分かるよ。
必要に応じて俺を召喚する魔方陣。
これにも制限を解除する効果が籠められており、俺が召喚先で無双するために用意した道具となっている。
「行き先は……ダンジョンか? なんでそんな所に行ってるんだろうね~。あと、必要な情報は……うん、特にないか」
普通のプレイヤーがそれなりに苦戦する相手ならば、俺はそれに小指一本で勝ってやる的なフラグも立てられる。
しかし、今回はいろいろと準備しておいた方が良いのかもしれないな。
◆ □ ◆ □ ◆
SIDE:クラーレ
わたしはクラーレ。ギルド『月の乙女』のメンバーである、普人族の司祭です。
ノゾムさんいう第一陣のプレイヤーといっしょにウーヌムの町へ来た後、ギルドのみんなの元へと向かうため、一度町から出て、森林地帯へと移動しました。
「クラーレ、遅いじゃないか」
「……わたしも、急いで来たんですからね。いつの間にかこっちに来ていただなんて……ハァ」
「まぁまぁ、良いじゃないの別に」
「ノエル……もう少し、待ってくれればノゾムさんにも会わせられたのに」
そこには五人のパーティーメンバーが、わたしのことを待っていました。
「ノゾム? それって男? 女? それとも無しか両方?」
「男の人でしたよ。第一陣の無職だと言ってました」
「へぇ~。第一陣にそんな人がいるんだ~って、無職ってなに~!?」
最初に話したのがディオン、堅固な鎧を身に纏って戦う『盾騎士』です。
その後にわたしたちを宥めたのがノエル、回避を得意としている『くノ一』です。
ノゾムさんの性別を訊いたのがコパン、巨大なハンマーを振り回す『魔壊士』です。
そして、わたしと同じツッコミをしたのがプーチ、宝石の埋め込まれた杖を使って大量の魔物を一気に倒す『魔女』です。
「クラーレ、遅かったわね。集合場所を変更したのは悪かったと思うけど、貴女の実力ならもっと早く来れたんじゃないの? もしかして、その男と何かしていたのかしら……」
「いえ、町に着くまでは歩いてましたので」
「感心しないわね。MPの温存があるんだから魔法を使用して、とまではいかないけど、それでももう少し急いだ方が良かったわ。あの魔物は私たちだけが狙っている物じゃないのよ。だから誰よりも速く向かって、倒さないといけない。それを理解しているの?」
「……それは」
わたしにそう言ってくるのは、時計型の魔道具を装備した伏し目の少女。
ローブに身を包んでいますが、腰には剣も携える――いわゆる、魔法戦士というタイプです。
彼女こそがわたしたちのギルドのリーダーであり、固有スキルの持ち主――シガンなのです。
彼女はわたしに遅刻したことを注意してきますが……わたしの心はその反省とは別のことを意識してしまいます。
(やっぱり、だんだんと厳しくなってる)
もともと、彼女はここまで時間に厳しい女性ではありませんでした。
わたしと彼女は、リアルでも友達なので良く分かります。
このゲームを始める前の彼女は、確かに自分自身が時間を守ることを大切にしていました……が、それを他人に押し付けるようなことはしませんでした。
――ですが、AFOを始めてからある日を過ぎて……彼女はその有り様を、少しずつ変質させていきました。
とあるクエストで魔物を倒した時、彼女はある魔道具とスキルを手に入れました。
それこそが、彼女が今も腕に巻いている時計と【固有】スキルなのです。
当初は彼女もその魔道具やスキルの力を純粋に喜び、仲間と共に楽しんでこのゲームをしていました。
しかし、時が経つにつれて……彼女から楽しさというものが失われていきます。
効率を考えた行動。
それを最も尊び、何をするにも時間を最重要としていきます。
そして、最近はわたしたちにもそれを押し付けていくように……。
「――さぁ、みんな行くわよ」
「「「「はい!」」」」「……ええ」
こうしてわたしたちは、討伐対象の住まうテリトリーへと入っていきました。
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