AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と道中



 フレンドリストに名前が追加されたことを確認した彼女は、うんっと頷いてから話を元に戻す。


「そういえばノゾムさん。既にエリアボスを倒したのですか?」

「ええ。ちょうど運が良かったので……」

「あ、昔プレイヤーのほぼ全員で挑んだことがあるんですよね。それでいっしょに――」

「本当に、運が、良かったんですよ」


 うん。俺は一言も、一人で戦っただなんて言ってないよな?
 勝手に彼女が勘違いをしただけであって、俺は何も言ってない。

 ……くっ、何だか物凄い罪悪感が。


「わたしは友達と一緒に倒しましたよ。知ってますか? 実はこのエリアのボスを、単独で倒した人が居たそうなんです!」

「……そ、そうなんですか?!」

「はい、わたしもそれを訊いた時は驚いちゃいました。凄い人もいますよね。あの猪をどうやったら全部、一人で相手取れるんでしょうか?」

「ソ、ソウデスネー」


 やべーよ、いきなり終わりそうだよ!
 なんでまだ誰も倒してないんだ、単独で!
 ナックル、ちゃんと仕事しろよ!

 幸い、彼女は顔面蒼白な俺には気づかず、話を別の方へと進ませていった。


「そういえばノゾムさんは、ウーヌムにはどういった目的で? わたしはパーティーメンバーとそこで、待ち合わせをしているんですけど……」

「私は……観光ですね。そこにしか無いものやことを経験したい、そんな理由です」

「それは……良いことですね」

「ええ、そう言ってもらえるとありがたいですよ。とは言っても、特に何かしたいというものは、まだ決まってないんですけどね」

「そうなんですか」


 それから俺は、彼女と道中を会話を交えて歩いていった。

 彼女のパーティーは、全員が女子という月の女神的なパーティーであるらしい。
 バランスの良いメンバー構成で、男顔負けの功績を誇るとのことだ(パーティーは既に最大人数まで組まれているため、パーティーを組むことはできてないぞ)。

 リーダーである少女は【固有】持ちで、『ユニーク』のメンバーとのPvPにも勝ったことがあると言っていたな。

 ……負けた奴はいしゃは、後でお仕置き確定だ。

 彼女たちの目的は、ウーヌム周辺に生息する魔物の討伐だそうだ。
闇泥狼ダークマドウルフ』と呼ばれる狼型の魔物で、薬草が採取できなくて困っているとのことらしい。

 ギルドに張られた依頼を見て、彼女たちは討伐を目指して町へ……と言うわけだ。


「それは凄いですね……ぜひ、その姿を見てみたいものですよ」

「え、ノゾムさんが!? そこ、かなりレベルが高くないと駄目だそうですよ」

「ああ、大丈夫です。隠れるのは得意ですから。……ほらね」


 再び【神出鬼没】を発動し、彼女の意識から俺の存在を消す。
 そして、唖然としている彼女の首に、剣をそっと添えて現れる。


「ノゾムさん……実は、暗殺系の職業に就いているんじゃないんですか?」

「いえいえ、私は本当に無職ですよ……ほらね?」


 剣の代わりに(偽装)ステータスを見せて、彼女を納得させる。
 代わりに(上級隠蔽)を表示させているし、交渉系のスキルでの説得でもあるから……たぶん、大丈夫だろう。


「(上級隠蔽)のレベルが90!? の、ノゾムさん。知られてる中で、最もレベルの高い(上級隠蔽)ってもっと下ですよ!?」

「ハハハッ。代わりに私には、微力な戦闘力しかありませんけどね」

「ご、極振りというヤツですか……」

「さぁ、どうでしょうね」


 そう言うと、どうにか理解してもらえた。

 ……え~、まだそこなのかよ。
 国民の中には、もう(超級隠蔽)を習得した者もいるんだぞ。
 ――全部、かくれんぼのお蔭だな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 しばらく歩いていると、目の前に頭に文章が流れてくる。


===============================
警告:ここより先では、エリア解放戦が行われます
貴方は既に討伐が終わっているため、これは任意性となります
   エリア解放戦を行いますか?

    〔はい〕  〔いいえ〕

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「……やりますか?」

「もちろん、やりませんよ?」


 俺と彼女が〔いいえ〕を押すと、視界が一瞬白くなり……別の景色へと切り替わる。

 ――道。

 そこには、見たことのない町へと続く道があった。
 変わらないのは美しく広がる青い空と白い雲、それに輝く太陽だけだ。

 整備された道の外には、デミホブゴブリンや茶色の兎がプレイヤーと遊んでいた。
 ……兎、全部で何色いるんだろうか。


「ここは……良いですね」

「ノゾムさん、ここは初めてですか?」


 そんな感想を零した俺を不思議に思ったのだろう。
 彼女は俺に、そう訊いてきた。


「あ、はい。猪を倒したら、アイテムの方が寂しくなってまして……一度戻ってからの方が良いと思っていたんですけど……そのままうっかり忘れてしまいました」

「ふふふっ。面白い人ですね」

「そうですか? ただのあわてん坊が、忘れ事をしただけですよ?」


 俺だったら呆れるな。
 でも、彼女は違うみたいだな。


「わたしのフレンドに、生真面目な子がいましてね。その娘がみんなに注意をするので、誰もそんな風にうっかりするなんてことができないんですよ。――ですからしてみたいです、そんな風に何かを忘れたまま生活してみるってことを……昔みたいに」


 そう言った彼女の顔は……酷く、寂しげな思いを秘めていた気がした。



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