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山田 武

偽善者と『白銀夜龍』 その06



 再び銀龍に弾かれ、体勢を整えていく。
 ……このままじゃ駄目だ、もう少しだけ覚悟を決めないとな。

("魔迅――次元""魔迅――虚空")

 二本の槍の石突の部分に、魔力で創られた穂を取り付ける。同じく元からあった穂にもそれぞれ逆の属性を流し込んで、より強力な力を発揮できるようにした。

(――"他力本願・戦闘再現")

 中々双槍使いの者が存在しなかったので、今回は自分のイメージ通りに体が動かせるようにこれを発動させる。少しでもミスをしたら、自分の方が危険な状態だしな。

(――"夢現反転")

 先程飲んだポーションの効果は、一定時間経過毎に状態異常が追加されるというものである。……うん、俺は別にそれで何かが回復するなんて言って無かったしな。
 たった今、発動しうる全ての状態異常が出揃ったのでこれを発動すると、俺に一気に大量のバフが付く。体を無理矢理動かしていたから特に戦闘に支障は無かったけど、やった甲斐があるバフばかりだ。
 継続再生や思考活性、意識明瞭や恐怖排除等盛り沢山。これなら戦闘の幅が広がるぞ。


「さぁ、これで終わりだ!」


 籠めれるだけのMPを槍に注ぎ込み、銀龍へと槍を構える……ここが勝負所だ!


■□■□■


 この闘いで最も速い速度で駆けたメルスであるが、血を流しているとはいえ、光の速さで空を飛ぶ銀龍には中々届かない。
 自身の望む動きを、自らの肉体を操作することで可能としているメルス。その状態であろうと、攻撃が当たらなければ勝つこともできないまま肉体が崩壊してしまう。
 なので、少しでも早く銀龍へと到達する為に能力を重ね掛けして猛突する。

 瞬ッ!

 (転移眼)(瞬脚)(空間魔法)を上手く使い分けて発動し、銀龍へと少しずつ近付いていく……が、人体では不可能な移動の仕方に少しずつ体が砕けていく。それでも<物質再成>で万全の体勢を取り――銀龍へと到達する。

 ズシュクッ GUGYAAAAAAA!!

 "貫通槍撃"を発動して突き刺した槍は、銀龍の逆鱗を通じて体内で三十の棘となって破裂した。
 銀龍の体内では、決められた魔力を持つ者だけが影響を受ける毒が回り、体に魔力を流し辛くなる。全身の内臓と血管の間に棘が喰い込み、銀龍は生涯で初めて耐えられない痛覚を感じ――叫んだ。
 本来ならば刺された時点で銀龍は命を落とす筈なのだが、膨大な魔力がその運命を捻じ曲げ、防ぐことに成功していた。だが、その分生きなければいけなくなる為、そうして痛みに悶える必要があった。

 それでも銀龍はメルスを殺意に満ちた目で捕捉しており、自身の限界まで硬度を高めた尾を使って地面に叩き付ける。

 ベキャッ ゴリゴキッ グジュクッ

 聞いた者が失神するようなハーモニーを鳴らし、メルスは地面へと墜落した。だが、銀龍はそれでメルスが最期だとは思わない。今までの行動からしてまだ何かある……そう感じた。
 ここで決着を着ける! そう決めた銀龍が息吹を解き放とうとしたその時……自身の体に異変を感じた。

(……動けない。何かに縛り付けられているかのようだ。一体何が…………これは!)

 それは、一本の槍を中心に発動していた。
 メルスが刺した槍には、次元魔法ともう一つ――【影魔法】が籠められているのだ。
 こちらは、"貫通槍撃"を放つ際に新たに追加されたものである。

 次元と影、その二つから体を縫い付けられた銀龍は、魔力を流し辛い現状もあり動くことができなくなっていた。どれだけもがこうとしても、メルスが自身のMPの半分を籠めたそれに抗うこともできず、今の銀龍では脱出不可能であった。

「……さて、フィナーレと行こうか銀龍」

 ゾクッと銀龍の背筋に何か恐ろしいものを感じ取る。その感覚を頼りに唯一動く眼球を下に下げてみると、そこには――

「今のは効いたんだぞ。(攻撃無効)で銀龍の攻撃はノーダメージだったが、まさかその飛ばされて雲に叩き付けられたダメージで、HPが二桁台まで減らされるとはな~。俺、怖くて恐くて……殺したくなったよ」

 全身を自身の血で染め上げたメルスが立っていた。その手に持った槍には、メルスの血が纏わり付いており、段々と槍本来の物以上に大きく、そして鋭く尖った形状へと変化させていた。

「(ま、まて……声も出ないのか!)」

 当然口も次元と影に縫い付けられているので、銀龍はメルスを説得することすらできない。念話を使えれば良かったのだが、魔力が上手に扱えない現状では不可能だ。

「それじゃあ今までの分もお返しして、一気に止めと行こうか……これは生死を賭けた闘いなんだろう? 俺も全力全開で行かせて貰うぞ」

 ゾクゾクッと再び銀龍の体中を奔るナニカがあった……が、それにメルスが気付くことはない。
 今のメルスは深紅の輝きを放つ槍を銀龍に向けて構えて、眼は完全に据わっていた。
 ――この一撃でお前を殺す。そういった感情が滲み出る眼であった。

「……これで終わりだ、銀龍。約束は果たしたからな(――"紅閃投槍""天罰覿面")」

 スゥッ

 紅の殺意と共に放たれたその一撃は、何の抵抗も無く銀龍の心臓を貫いた。心臓を一突きされても、本来ならばその有り余る無限とも言える体力を元に復活する筈なのだが――メルスが発動した、今までに受けたダメージを何倍にもして返す<天罰覿面>の効果によって、銀龍のHPは完全に――それも一瞬で0になった。

 ドガァンッ

 魂を失った肉体は、浮力を失い空から墜落する。それでも鱗からは仄かに光を放ち、闘いで流れた血と相まい、日の入りのような輝きを魅せていた。

 メルスは既に再成された体を動かし、銀龍の元へとやって来る。
 そして、その死骸に向けて告げた――



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