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山田 武

偽善者と『白銀夜龍』 その02



 強者の中にドラゴン的な存在が複数居て、彼女たちから息吹を受けたことのある俺だから言えます。
 ――コイツの息吹、『柱』って言葉じゃ収められねぇ!

 拡散された様子もない高密度な魔力が、俺の視界いっぱいに飛んでくる。
 その速さはかなりのもので、(未来視)や思考加速中の俺でもかなり危険なものだと、理解できてしまうのが現状だ。

 これだけ魔力が籠められているとなると、普通に吸収しようとしても体が持たなくて多分パンクする!
 なら、俺は……。

(――"夢現返し")

 隠していても仕方が無い。
 大量のMPを対価として、当たるはずだった未来を捻じ曲げ、その息吹を透過する。

 ドゴォオオオン!!

 体を通り抜けるその一撃は、空気を震動させる程に強力であった。
 大気が啼いて悲鳴を上げるように、息吹が通るとプラズマが発生して音を鳴らしていたしな。

 俺はそんな息吹の通過を、ただ黙って観ていたわけではない。
 意味があるか、価値があるかは置いておくとしても、何か手を打たなければ即死亡な気がするからな。
 魔力解析や魔力適応など、結構いろいろとやっていたぞ。

 ――そして、息吹が収まる。

 目の前に広がる景色は銀色に染まる前と変わっておらず、ただひたすらに……強者と感じ取れる龍だけがそこには君臨している。


『……驚いたな。儂の息吹が通用せんとは。かつて挑んで来た勇者や魔王よりは骨がいりそうじゃ』


 ……いえ、勘弁してください。
 久しぶりに聞いた一人称が『儂』なその龍は、男とも女とも取れない声で、そう呟いた(体がデカいから、普通に聞こえるけどな)。


「貴方様の息吹には大変驚きましたので、もう止めてほしいですね。あ、初めまして、私はとある所から参りました。偽善者のメルスと申します。以後お見知りおきを」

『偽善者? 今はそのような天命を持つ者がおるのか? 実に不憫な者だ。……よし、一思いに儂が消し去ってやろう』


 再び息吹が放たれて、見渡す限りが銀色の世界に塗り潰される……が、その前に(転移眼)で移動して、どうにか息吹の範囲内から脱出する。


「……いえいえ、もう十分に味わいましたので結構ですよ。天命とは、職業のことでしょうか? それならば、私には定まった天命はございませんよ。何せ導士ですので」

『導士……資質ある者たちのことか。儂にはお主が、彼の者らに該当するとは思わないのだがの』


 結構酷いことをサラッと言ってくれるな。
 俺が心弱きタマゴボー□ハートの持ち主ならば死んでたぞ……あれ、死ぬのか?

 それになんでだろうか、息吹を撃つのは一旦止めてくれたけど、その代わりに俺を不憫そうな目で見てくる(ように見える)のは……顔か!
 やはり顔なのか!! もう止めて、俺のライフは0よ!


「……今の世の中は見た目だけでも中身だけでもやってはいけません。そういった片側だけでもやっていけるのは、英雄や王と呼ばれる限られた人材の身ですよ」

『だが、そういった力を持つ者も儂には何もできずに去っていったぞ。……はて、お主は一体何者なのじゃ』

「偽善者ですよ。ただの」

『……その取り繕った言葉遣いも、偽善者には必要なことなのか? 正直に言って、そろそろふつくみたくなるのじゃが』


 あ、やっぱりバレてるわ。
 今回の相手には正しい言葉遣いが大切だと思っていたのだが……どうにも敬語は似合わないそうだな(眷属に何度も言われてたが)。
 そんなに下手だろうか、俺の敬語は。


「例え会ってすぐに一撃を放ってくる相手であろうと、俺は敬意を払おうとしただけだ。特に茶化すため、からかうためといった理由はない」

『……ふむ。確かに目上の者への礼儀は大切じゃからのう。今回のことは、息吹一発で勘弁してやろう』


 またそう言って、息吹を放ってくる。
 何発撃てば気が済むんだよ!

 当たっただけで死ぬ気がするその一撃を、今度は(神脚)に統合された(瞬脚)を使って回避する。


「……勘弁してくれよ。今の一発で許してもらえたんだよな?」

『うむ。今までの所業、全て許したぞ』

「そりゃ良かった。アレをもう何度も受けていたら、いずれ消滅していたぞ」

『勇者や魔王は、アレ一発で消滅していたのじゃが』


 ……きっと、舐めプをしてたんだろうな。
 強者が挑めば、一発は対処すること間違いなしだしな。
 二大強者えらばれしものが一体何をなさっていたんだか。


「ただ、彼らが弱かった……それだけだろ。強かったなら勝てたただろうし、力以外の何かが優れていれば逃げられた。それができないなら、それは弱かったってことだ」

『ククク、違いない。儂に挑んだ王たちもまた、英雄たちと違って生き延びておったからのう』

「王もいたのかよ。俺は強くはないが、力を借りるだけの運があった。だから今、こうして会話をしていられる」

『運、か。それもまた、一種の力の形であろう。力を借りるとは……ふむ、確かにお主の器に注がれた形跡があるな。歪で奇妙な形ではあるが、注いだ者たちがどれ程の思いでお主にそれを注いだか……分かっておるな?』


 器、か。
 俺の肉体そのものが、[眷軍強化]の母体になっているかな(母親の体って意味じゃないぞ)、そういう解釈もあり得るのか。

 歪で奇妙ってのは多分、もう限界になるぐらいまで注がれているからかな?


「……その全ては分からないさ。注いでくれたアイツらの気持ちは、アイツらにしか分からないんだからさ」

『正解じゃ。もしここで分かっているとでも口にしたら、もう一発くれてやったぞ』


 勘弁してくれよぉ。
 そんな泣きたくなる心情とは裏腹に、俺と龍の闘い(?)は続いていく。



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