AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と『極塔之主』 その12
「――視聴者たちは応援したであろう。彼のスライムが眷属を蹂躙する姿を。だが甘い、甘過ぎる。うちの眷属たちが、たかが触手如きに負けるはずがないだろう。いつの間にかスライムが対応できない毒でも盛ったのか、気体化と再生が行えなくしていた。だんだんと体積が減っていくスライム。限界まで追い込まれた希望の星は、核を剥き出しにして暴れ回ろうとした……が、行動パターンは完全に解析されていた。結界の中に完全に密閉され……そのまま自滅していったのだ」
《アレは、そうなることが運命であったのです。マスター、アレはもう二度と蘇生させないことが賢明であるかと思われますが》
『……アァ、ソウダナ』
「ちょっとやり過ぎたかな? もう説得の最後ら辺なんか、目が死んでたしな」
《ええ、ですのでこれから修理します。メルスさんには申し訳ありませんが、お一人での解説をお願いします》
『…………スライム、ダメ、ゼッタイ』
「わ、分かった」
修理なのか? せめてそこは、修正にしてやった方が良いんじゃないか?
それからは、眷属たちの戦いを独りで寂しく実況していった。
九六階層からのボスバトルも、とても激しいものとなっていた。
九六階層、大地獣王ベヒモスとの戦い。
最高の生物と称されるその魔物は、河馬と犀、それに象をミックスしたような姿をしていた。
沼のような地形での戦いということや先程のスライムとの戦いもあり、不潔なものへの嫌悪感が眷属達から滲み出ていた。
そのため、まずは地形を整えるところから勝負は始まった。
とある学者が【森羅万象】を使ったり、とある白熊の獣人が結界で足の踏み場を作ることで、沼地という地形を消していた。
その次に戦闘である……速過ぎないか?
せめて解析とか、相手がどういう動きをするかとか見るもんじゃないか……って、俺もそれをするわけじゃ無いしな。
よくよく考えたら即戦わされていたっけ?
しかし、相手は最高の生物――神の傑作とも言われる怪物である。
屋久杉級の巨大な尾と強固な金属のような骨を持ち、眷属達の攻撃を振り払い、跳ね返し、防いでいた。
何度も言うが彼女たちは制限を掛けられており、本来の実力を発揮できない。
実際にはすぐ倒せる魔物だが、あくまで道楽の少ない国民たちへ盛り上がりをプレゼントする企画であるため、ある条件を呑んでもらい実力をセーブしてもらっているのだ。
最終的には反則ギリギリの擬似的な混沌魔法によって、強固な守りを崩された隙に、体の内部をグチャグチャにされて倒された。
全員で同威力の魔法をバランスよく混ぜ、かつての王都で行ったように魔法を撃つことで可能になった混沌魔法……みんなで力を合わせる魔法って、なんかカッコイイよな。
「――そしてベヒモスもまた、素材へと変換されたのであった……って、あれ、カナタは何処に行ったの?」
《マスターはいちおうここのダンジョンマスターですので、装備に身を固めてラスボスっぽくしたいそうです。ですので、現在別室で最強装備を着けています》
「へぇ~、そうなのか。……だが、それは駄目だな」
《……なぜでしょうか》
「このままだと俺の出番がなくなる。それなら、最後に俺とカナタで勝負をつけた方が面白くなりそうだ。眷属たちに任せると……最悪殺しかねん」
うっかり初撃でオーバーキル……な~んて展開になっても困るんだ。
いちおうでも一緒に話していた仲だしな、偽善者的に助けるのは当然のことだ。
《……それは不味いですね。分かりました、この件は早急にマスターへ連絡します。ですので――》
「了解だ。眷属たちにも最後に俺の見せ場が欲しいと言っておく。呆れられるが、カナタの身の保証はされるんじゃないか?」
眷属たちにこの話を連絡すると、あっさり許諾を得た……俺の貞操の危機を代償に。
どうしてだろうか、毎度毎度俺は死と違うは何かによって危機を迎えている気がする。
「ま、悩んでいても仕方ないか。コアさんは実況を手伝ってくれよ」
《畏まりました》
それからは先、再び誰かと一緒での実況となる。
俺のつまらないトークよりは、視聴者たちも楽しめるだろう。
九七階層は、荒れ狂う海と所々に小島が浮かぶ階層であった。
その中心には巨大な渦が発生しており、そこにはボスモンスターである魔物――荒海獣王レヴィアタンが咆哮を上げていた。
ベヒモスが最高であるなら、レヴィアタンは最強を冠する化物である。
クジラのような巨体を持ち、竜のように炎や煙をしたり……。
おまけに強固な鱗を持ったその海蛇は、ベヒモスとはまた別ベクトルの面倒臭さを持っていた。
――簡易的な不死を持っていたのだ。
発動条件はなんらかの意思を持つこと。
それが勝とうとする意志で無かったとしても、考えを持つだけで発動する能力である。
ただでさえ硬い装甲も、レヴィアタンが暴れ回るために暴虐の意思を持つだけで……何度でも再生するのだ。
面倒ったらありゃしない。
ま、これも対策は簡単だがな。
とあるメイドと神様の卵、それと眠り姫が力を合わせて、奴の精神に干渉した。
心と呼ばれる概念を内側からズタボロにされたレヴィアタンは、思と考の両方をできなくされたのだ。
再生は止まり、装甲は着々と減っていく。
最後にはとある蛇の獣人と猫の獣人が綺麗に料理して……俺の手元に刺身が届いた。
「……意外とイケるな。コアさんも今度一緒に食べようぜ」
《いえ、ワタシには食べる器官がありませんので》
「それは大丈夫……ふぅふぅふぅ~」
《なんでしょう、少し嫌な予感が》
この後、人形のストックが一つ減ったとだけ伝えておこう。
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