AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『極塔之主』 その08



≪――こちらは、JAラルゴです≫

「さて、CMも終わりましたし、そろそろネロの行動について解説していきましょう」

『……なぁ、さっきのCMって何なんだよ』

「何……と言われてもな。うちの国で、本当に流してるCMだが?」

《マスター、何を言ってももう無駄なんですよ。大人しく諦めましょう》

『あぁ……そうみてぇだな』


 なんだか扱いが酷いなぁ。
 CMを流しただけで、どうしてこんなに可哀想な子として見られないといけないのだろうか。
 JAラルゴで作った野菜は、美味しいから人気なんだぞ。
 ちなみにキャッチフレーズは――『全ての恩恵に、祈りを籠めて』らしい。
 誰の……何に対しての祈りなんだか。


「本当に酷い奴らだな。……もういい、ネロの説明に入るぞ。まずは映像を観てくれ」

『……普通の死霊魔法に見えるが?』

《死霊魔法自体はかなりレアなものと把握しておりますが、やっていることはただの降霊術のようですね》


 映像の中でネロは、自身の周りに妖しい瘴気を垂れ流しにしながら魔法を唱えているようだった。
 それは亡者の霊を召喚し、使役する為の儀式のようにも見える。


「だが惜しい。カナタ、交霊術って知ってるか? 交わる霊の術と書く方の交霊術だ」

『交霊術? いや、俺が知ってるのは降ろす方の降霊術だけだ』

「そう、こっちの世界だと普通、降霊術しか使われていないんだよ」


 ここら辺はネロやリュシル、禁書の知識から学習してある。
 降霊術……つまり死者召喚術がこの世界では死霊魔法としての王道であり定番であるからか、交霊術……つまり死者交渉術は、それの派生系統にも認められず、草葉の陰に隠れてしまっているのだ。


「中途半端な知識だけど、俺はそれをいちおう覚えていたからネロに曖昧な感じで説明したんだが……なんか昇華されたからか、凄い巫女みたいな感じになった」

『ハアッ? 巫女?』

「まあ、見てれば分かるよ」


 そう言って、映像に注目させると……ネロがそれっぽいことをしている。


『――彼の地に眠りし亡霊よ、吾の体に集いて、その想起、授け給え――"憑坐"』


 ネロがローブを脱いで、その中に着こんだ黒と藍でデザインがされた巫女服を纏うと、瘴気の中で踊り始める。

 それは、神に捧げる神楽では無い。
 それは、人を楽しませる芸能では無い。
 それは、死者を供養する踊りでは無い。

 ネロが舞うのは――死者に捧げ、死者を楽しませ、死者を呼び起こす舞である。
 ……逆だよな、普通。
 邪の巫女みたいだしな、そんなことをやる巫女ってさ。

 ネロが踊る度に、瘴気が形を成して――亡者へと変化していく。
 ネロの魔法と瘴気の力を糧とすることで、ダンジョンに喰われた魂の残滓が再起していくのだ。


「――まあ、それもあくまでカスだけどな」

《つまり、霊そのものを呼び出せるわけでは無いのですか?》

「そう。ダンジョンに喰われてるんだし、完全な状態で召喚するのは不可能に近いだろ。
 ――だから、記憶がちょっとでも残ってる霊を召喚して……」


 ネロは舞を終えると、自身の周りに集まった亡者たちを一目見て――


「――残りカスを全部喰らい尽くして、そこから記憶を引っこ抜く」


 文字通り目の色を変えて、亡者たちを体の中へと取り込んでいった。
 緑色の炎が目の中でユラユラと揺れ動く姿は、まるで喰らった死霊たちを燃料として燃えているようにも見える。


「死者を操るのに長けた奴だからな、アイツは。その気になれば、生前の記憶をなぞらせて、ほぼそっくりの人形を作り上げることも……って、どうした? そんな顔をして」

『《……うわぁ》』


 ドン引き。
 その単語が頭に浮かんで来るぐらい、気まずそうな顔をしている。


「え? どうしたんだ二人共。お前たちだって人を……魔物を殺しまくっただろ?」

『いや、まぁ……そうなんだけどよぉ』

《言い方が酷いです……が、確かにそうですよね》

「アイツ、元は眷属の中ではかなりやらかした方なんだよな~。まあ、いちおうは改心したんだけど……うん。とにかく、死霊系の能力の扱いがだいぶ上手いんだよ。自分ができることをやっているんだし、別に問題はないだろう?」


 昔はまあ……ちょっと俺も怒っちゃったけど、悪用はしないように(体へ)誓わせたから大丈夫だろ。


「……と、いうわけでダンジョンの情報を入手したネロであるが……カナタ、実際のところこのダンジョンって、どこまで侵攻されたことがあるんだ?」

『うん? 確か……五十階層ぐらいまでだったけか……コア、どうだったか?』

《ええ、この世界に来る前。最高難易度の強さを誇るNPCが、そこまで到達したと記録されています》

『――だ、そうだ。つまり、アイツはそこまでの情報しか入手できないってことか?』

「そういうことだ。誰も行ってないところの情報が手に入るはずもないしな。いや~俺が死霊状態になってネロの所に現れれば、ここに来るまでに読み取った地形・魔物・罠などなど……沢山の情報を教えられるんだが」

『……おい、止めろよ。絶対にやるなよ』

「三度目は?」

『言わねぇよ! 誰が好き好んでフリみたいなことするもんか!』


 全く、面白みがない奴だな。
 駝鳥の倶楽部がアッチの世界にもあることは、アイリスに確認済みだぞ。


「おっ! もう十階層に行ってるじゃん。カナタ、映像回して回して!」

『まあ、良いけどよ』


 カナタが俺の指示通り、十階層へ映像を回すと……そこでは、階層ボスとの戦闘を行う眷属の姿を見ることができた。



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