AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と天上の転生者 前篇



夢現空間 客間


「さて、そろそろ訊かないと駄目だな――その『転生者』について」

『はい、あの娘と同郷である旦那様には言うと決めていましたから』


 翌日、客間では重要な会談が行われようとしていた。
 場では俺とフィレルが対座しており、深刻そうな表情をしている。

『転生者』――異なる命へ生まれ変わった、極めて稀有な存在。
 その中でも、異世界からの転生者に関する事例……しかも、俺と同じ日本からの転生者ともなれば真面目にもなるさ。

 確かに、小説では転生物と呼ばれるジャンルもあるにはある。
 だが、正式稼働中のVRMMOへの転生などは、中々小説としても使われにくい(普通、転生者は異分子だからな。運営もすぐに排除するだろうし……)。

 しかしAFOは、とある理由から転生者を受け入れられる……ほとんどのプレイヤーはそれを知らないが、一部の者は知っている。
 一般人の中でそれを聞けたのは、多分まだ俺だけだと思うがな。

 転生した理由は置いておくとしても、いつの時代からの転生者かを確認しておかなければならない……俺より未来からの転生者ならば、俺の知りたいことを知っていたかもしれないからな。

 ――そして、対談が始まる。


『あの娘の名前はウタダ・アイリ、こっちの世界ではアイリス=タピュ=ウータと呼ばれる少女でした。旦那様が通ったあの都市を要とした王国――ウータの第四王女ですよ』

「生まれ変わったら、王族って……転生前に神と交渉でもしたのか?」

『はい、確かそう言っていましたね』


 神様! 何をやってはりますの!
 転生者にサービスをくれるなら、俺にもいくつかくださいよ!


『わたしはあるとき、空を彷徨っていたあの都市を見つけ、交渉をしました。自分がこの都市を守る代わりに、わたしの居場所を作ってほしいと。……ここは家庭の事情がありますので省きますが、その後わたしの世話役として選ばれたのが――その娘、アイリスだったのです』

「へぇ~、仲は良かったんだよな?」

『彼女の第一声は『ファーンタジ~!』でしたが。色々なやり取りをしていく内に、次第に親友と呼べる程の仲になっていきました。そして、彼女の秘密を聞いたのです』


 昔を懐かしむような目でそれを語っていくフィレル。
 その発言、確かに転生者ならではのセリフだよな~。
 こっちの世界をファンタジーと考えられるそれ自体が、この世界と異なる世界の経験がある何よりの証拠だ。


「それで、そのアイリスとやらは何か特別なことをやったのか? 転生者としての知識を流用して」

『いえ、その辺は既に彼女の知識より都市の方が優れていたらしく……確か、ぷろぐらむ方面で活躍すると言っていました』

「プラグラムね~。ん? この都市は元々浮いていたり、あの文明を築いていたのか?」

『はい。彼女によると『こりゃあ神様の言った通り、高度なプログラムと魔法を導入した技術……魔学技術かな?』とのことです。過去の文献を洗い、初代国王が空を探検中にこの都市を見つけたということまでは調査できたのですが……それ以前の都市に関する情報は、皆無であったと』


 そうなると、これは運営の仕業か?
 初代が何故空を探検していたかは……まあ気になるが、今調べることじゃないな。

 それにしても魔学か……科法じゃ駄目だったのかな?
 そんな感じのタイトルの小説も存在していたが……そっちは口に出すのもアウトだ。


「話を戻すか。フィレルが封印された理由はとりあえず置いておくとして、そのとき彼女はどうしてたんだ?」

『その件に関しては、少し語弊があります』

「……語弊?」

『はい。そもそも、神々が天空都市に来た理由は、わたしではなく彼女だったのです。天空都市のぷろぐらむを改変し、全ての空を飛べるようにしてしまった彼女を狙い……神々は、あの場所へ現れたのです』


 血が出るんじゃないかと思う程に、拳を激しく握りしめるフィレル。
 自然治癒力をこっそり高めて、傷が残らないようにしておく。


『……ありがとうございます。この話は思い出すだけで少々、感情が高ぶってしまいますので』

「……大変なら説明しなくても良いんだぞ。ほら、記憶から直接読み取るアイテムもあるからな」

『いえ、そちらも使いますが……今はわたし自身の口で旦那様に説明したいのです』

「そう、か。あんまり力を入れ過ぎるなよ」


 その言葉を聞き、一旦スーッと深呼吸をするフィレル。
 そして、再び説明が始まる。


『――彼女が行ったぷろぐらむは、都市の人達に甚く感動されました。今までも便利だった機械たちの動きが、より人間に近いものへと昇華したとのことですので。彼女はそれをスキルによるものだと言っていましたが、実際にはどうだったかは良く分かりません。
 ――ただ一つ言えるのは、それが神々には邪魔な行動であったということです。
 あの日、神々は自分の眷属や使徒を連れて降臨しました。何を言っているかはあまり理解できませんでしたが、あの都市の成長が異常だと言っているのが聞き取れましたし、執拗にあの娘を狙っていましたので、何となく目的が理解できました。
 わたしは彼女を守るために、持てる力を振り絞って抗ったのですが……最後がどうなったかを見ることなく、わたしは封印されてしまいました。彼女が無事逃げられたのなら良いのですが……』

「――ん? 多分無事だと思うぞ」

『……へ?』


 今までで一番可愛らしい声を上げたフィレルを見て、俺はニヤッと笑った。

 さて、会ってみますか――転生者に!



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品