AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの偽善者戦 その06



 全プレイヤーが挑んでいた偽者に、たった七人で挑み始める彼女たち。
 本来、この行動は無謀のように思えるのだが、実は少数で挑むのが最も勝算があった。

 本者が有していた称号スキル(一騎当千)、それが運営によって昇華させたスキル――:万夫不当:を持つ偽者は、相手が多ければ多い程強くなる。

 大人気のヒット作であるAFOを行うプレイヤーの数は、日々増え続けている。

 ――数の暴力は純粋な力に屈したのだ。

 自身の(一騎当千)について良く知っている本者から、その辺に関しても面倒な程詳細に聞かされていたため、彼女たちは少数精鋭で偽者へと挑んでいくのだ。

「……とりあえず、降ってくる物をどうにかしましょうか。このままだと他のプレイヤーたちが、殆ど死に戻っちゃうわ」

「なら、私が妖精さんにお願いしてみる。アルカちゃんは妖精さんが防げなかったら、それをお願い」

「分かったわ」

 防御担当であるアルカとオブリは、自分たちの役割を決めていた。
 大まかな防御をオブリが、討ち漏らしをアルカが行うようだ。

「それじゃあ、妖精さんたちお願い――"オーロラカーテン"!」

 (妖精魔法)を用いてオブリが妖精に願ったのは、プレイヤーの周囲を包み込む巨大な壁であった。
 "オーロラカーテン"とはその名の通り、上空にオーロラが出現し、周囲の攻撃を防ぐ光による防御魔法だ。

 今まで必死に攻撃から身を庇っていたプレイヤーたちも、突如出現したオーロラに驚きはしたが、それが自分たちに害意が無く、むしろ守ってくれていることに気付くと、すぐに他にできることを行い始める。

 ……だが、全プレイヤーを包み込むために壁が通常より薄めになっていたからか、偽者の攻撃を完全に防ぐことはできず、一部の物がプレイヤーに襲い掛かる。

 ――そこに、一人の少女が立ち塞がる。

「後は任せなさい! ――"絶対防御"!!」

 アルカがそう叫ぶと、あらゆる魔法が有する防御系統の魔法が展開され、討ち漏らした攻撃を全て防いでいく。

 "絶対防御"という単語自体には特に意味は無い。
 "絶対防御"とは、彼女が思考内で膨大な数の防御系統の魔法を発動させるための――いわゆるマインドスイッチなのだ。

 アルカが創り出した防御魔法は、残った偽者の攻撃を完全に防ぎ、蟻一匹も通すことは無かった。

「アルカちゃん、そんなに魔法を使って……大丈夫なの?」

「アイツからのプレゼントのお蔭で、MPの方は気にしなくていいのよ。今は……この子もいるしね」

 そう言ってアルカは、両手に持った本と短杖を示す。
 本とはダンジョンイベントの際に贈られてきた物で、短杖とは……かつて行われた撲滅イベント時に贈られた卵が孵化した物だ。

「消費MP九割カットと、一度発動させた魔法の詠唱を省略、おまけに威力増大……。本だけでも厄介な能力が付いているのに、この子はそれ以上の能力を持っているから……まだまだいけるわね」

「さすがお兄ちゃんのアイテムだね」

「……本当、同感よ」

 一旦止んだ偽者からの攻撃に警戒しつつ、彼女たちは戦場とは思えない程に気を抜いて休みを取った。

◆   □   ◆   □   ◆

 一方、召喚用の魔法陣を破壊するために行動し始めた二人――ティンスとイアは……。

「――面倒わね~。ティンス、もう制限を解除してやっちゃわない?」

「駄目に決まってるでしょ。ここで私たちが指示を守らなかった時のアイツの反応……分かるでしょ?」

「……絶対にウザいわね。だけど、強力な一撃って言ってもどれくらいか分からないじゃないの」

「多分だけど、そこまで本気を出さなくても壊せると思うわよ。一応は全プレイヤー用のイベントだしね、イアは息吹を吐くか従魔の一斉攻撃で充分よ」

 魔方陣の破壊方法について話していた。
 プレイヤー側の眷属たちには、能力値に制限が掛けられている。 
 これは互いに了承して用意したものであって、別に嫌がらせというわけではない。

 現在、眷属が[眷軍強化]によって受ける能力補正は[+51800]。
 これは封印される前の本者の能力値より、偽者のステータスの一部よりも上である。

 かつて本者が経験した通り、過剰なステータスを持つ場合は、肉体が能力値に追い付かずに制御不能になることがある。

 その危険性をどうにかするため、彼女たちには制限が用意された。
 肉体にあった能力値が自動的に調整され、本人へ悪影響が無いように実力が勝手に偽装される……[眷軍強化]から干渉することで、可能となった技術だ。

 そんな状態で魔方陣を破壊する……現在の彼女たちの能力値では、簡単にそれを行うのは不可能に近い。
 ペルソナは自分や彼女たちに仕掛けられた制限から、二人の攻撃の最大威力が破壊を可能とするものかどうかを割り出し、彼女たちへ指示を出したのだ。

「ま、できるのならやりましょう」

「そうね、今回は息吹にするわ。今の私の従魔を公開すると……ちょっとややこしくなりそうだしね」

 長い修練の果てに、イアの従魔たちはかなり成長した……のだが、あまりに成長しすぎてしまい、他のプレイヤーの従魔と隔絶した性能を有している。

 なので今回はその秘密を守るため、イアは自身の攻撃で魔法陣を破壊するようだ。

 ティンスは剣、イアは体内に力を練り込んでいった。
 それは本来隙だらけで実戦では使えない技なのだが……オブリとアルカという最強の盾が攻撃を防いでいる今、その対となる最強の矛を止める者は誰もいない。

 二人は、力を蓄え……一気に解き放つ。

「"奇跡の閃撃"!」「"龍の息吹"ィイイ!」

 七色の斬撃、強力な龍の加護を受けた龍人の放つ魔力の塊。
 それらの攻撃を受けた魔方陣は――その周囲ごと一瞬で消滅した。

「……さ、次に行きましょうか」

「……ええ。一度で終わらないわね」

 彼女たちの一撃は、魔方陣を全て破壊できるほど広範囲に届かない。
 彼女たちは、別の魔方陣の元へ移動する。


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