AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者なしの偽善者戦 その01
イベントエリア
風も吹かない広い草原の中で、その者は一人佇んでいた。
「な、何なんだよアイツは――ッ!!」
一人のプレイヤーが、そう叫びながら消えて逝く。
周囲のプレイヤーたちも、先の彼と同様の意見を胸の中に秘めていた。
目の前には、たった一人の人間がいる。
艶のある黒いジャージを着こみ、誰よりも速く走れそうな靴を履いていた。
両手の指先には光る糸のようなものを括りつけ、右手には水晶を。
首にチョーカー、指に複数の指輪を嵌めている。
そして、とても平凡な顔立ちをしていた。
――だがプレイヤーたちは、そんな見た目に関する事柄で、何かを思うわけでは無い。
「なんで、たった独りで全員を相手にできてるんだよ!」
プレイヤーが恐れたのは、その存在の一騎当千を誇る力であった。
その者が手を薙ぐと、数十のプレイヤーが切り刻まれ光へと変わる。
その者が指輪を光らせると、周囲のプレイヤーの姿がその者へと変わり、狂った目で同士内を起こしてしまう。
その者がチョーカーを光らせると、その者へと向かっていた魔法が跳ね返り、近くのプレイヤーがその魔法を受けてしまう。
そして何より――水晶が光ると、千差万別の形を成してプレイヤーを殲滅していく。
剣・槍・弓・盾・鎧・矛・鎖・刀・銃・大鎌……エトセトラエトセトラ。
どれこれもが強力な武具と化し、彼らに一撃を放っていた。
魔法もまた強力だ。
業火や嵐、氷河や地割などの天変地異が何度も起き、水晶の力が届かない所にいたプレイヤーをも光へと変えて逝く。
『………………』
その者は、それらを無言でこなしていく。
まるで意思が無いかのように、虚ろな目であった。
機械のように淡々とプレイヤーへ襲い掛かり、処理していく姿は、見る者全てへ恐怖と絶望を与えていく。
「一体、何者なんだよ……」
少なくともそのプレイヤーに、答えを出すことはできなかった。
そうやって、疑問を残すことができただけ幸いであろう。
無謀に突撃し、何を残すでもなく、ただ消えて逝った者よりは……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「やっぱり、師匠は強いねー」
「あれって確か、闘技場で私たちとやった後の状態なんでしょ? なら、まだ本気じゃないってことよね」
「装備からしてふざけてるわよね。ジャージに○足ってどういう気よ」
「理由など、無いのではないか」
「確かにアイツって、たまにふざけるわね」
「私達と決闘をした時も、お兄ちゃんはそれでかなり焦ってたよね」
少し離れた場所――そこには、七人のプレイヤーが残っていた。
全員が現実世界ではありえない輝きを魅せる装備に身を包み、戦いの行方をワイワイと眺めている。
「……というか、どうして運営はアイツの昔のデータを持っているのかしらね」
「昔の姿とはいえ、アレを見ると感想も変わるわね。武技も使わないであそこまでできる奴って、アイツだけよね」
「ご主人様は、何と言っても俺のスキルも使えるとのことだからな。【勇者】の技は一つだけ取っても一騎当千になるようなものだ。それに匹敵しそうな【英雄】や【神殺し】……俺たちに勝つことができるのか?」
「勝てるかじゃなくて、勝つのよ! 昔のアイツに勝てないで、どうやって今のアイツに勝つって言うのよ!!」
「ユウお姉ちゃん、お姉ちゃんは勝てると思う? 昔のお兄ちゃんに」
「う~ん……能力値だけなら圧勝してるんだけど、師匠だからね。ありえないようなことが起きそうな気がするよ~」
彼女達はその者の正体を知っていた。
現在、プレイヤーを相手に無双している者の名前は――メルス。
彼女たちの主にして、全プレイヤー中最強の存在だ。
だがそれは本人のことであり、その場にいる者の話では無い。
彼女達が見つめる先にいるのは――メルスの複製体。
運営が何らかの理由より生み出した――過去の亡霊である。
そのことを(何故か知っていた)本人より知らされた彼女たちは、亡霊の討伐を行うために現在情報収集中だ。
――正確には、頼まれたのは彼女たちの内の一人なのであるが。
フードを深く被り、その身を外界から隠す少女は周りに問う。
「……無理、じゃない、の?」
「大丈夫だと思うよ。師匠だって、完全なコピーはできてないって言ってたんだし。完全に眷属の人たちまでコピーされてたら勝てないと思うけど、全員が装備されていないみたいだから……うん、何とかなる」
そもそも、コピーが完全であるならばこうして話す余裕も無かっただろう。
あらゆる物を創り出す【生産神】の力。
瞬時に指定した場所に迷宮を生み出し、大量の魔物を解き放つ【ダンジョンマスター】の力。
望むままに世界を改変する【世界創造士】の力。
これらが一つとなってプレイヤーたちへ猛威を振るった場合、数秒もせずに彼らは死に戻りを行うだろう。
「あの、狐の、お姉、さんとか?」
「狐? 直接の面識は僕には無いけど、その人も師匠の眷属なんだよね?」
彼女――ペルソナが見たと言う狐の女性とは、【強欲】の魔武具『強欲の魔本』が人化した存在――グーである。
九つの尻尾が生えた、いわゆる九尾の獣人になれる眷属だ。
「私、の、スカウト、に、来た人」
「なら、眷属の内の誰かだよ。師匠が外部の人に、そんなことをやらせるはずが無いし」
「……本当、にどん、な人、なの?」
ペルソナがそう訊くと――
「理不尽よ、理不尽。もう駄目~とか言いながら、全部できちゃう超人よ」
魔法使いはそう答え、
「俺のご主人様だな」
闇色の勇者はそう答え、
「女の子を囲ってる淫獣ね」
龍人の召喚師はそう答え、
「何でも創れる生産者、かしら?」
吸血鬼の大剣使いはそう答え、
「頼れるお兄ちゃん♪」
妖精の少女はそう答え、
「僕たち全員の主で、僕の専属師匠だよ」
鉾の無い柄を握る魔法剣士の少女は、そう答えた。
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