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山田 武

偽善者と『勇魔王者』 その01



???


 浮遊感に身を委ねたまま、現在穴の中を急降下中だ。
 垂直落下する絶叫マシーンのように、空の上でパラシュートを広げた時のように、フワフワ下へと落ちていく。
 早いか遅いかも分からないまま、長い長い通り道を落ちていき……遂に――。


「――っとと、危ねぇ危ねぇ」


 俺の足は地に着き、地下世界的な場所へと到着した。
 (暗視)によって確保された視界には、特に異常は見当たらない。

 洞の先にはしっかりと道があり、その先があることを暗示している。
 外の景色はまだ確認できないが、一体どんなものなんだろう。


「よっこいしょーいちっと……おぉ、こりゃあすげぇや」


 洞から出た先で見たのは、光が燦々と降り注ぐ洞窟であった。
 下りてきた木の洞を覆い尽くすように壁が周りを囲み、天井に空いた小さな穴から細かな光がポツポツ洩れてるって感じかな。

 そんな幻想的な空間には、奥へと続く一本の通路が存在している。
 そこからは誰かの気配が漂い、目的の地であることを実感させた。


「さってっと、そろそろ前に進むとするか」


 手に持った双銃を強く握り、俺は誰かのいるその場へと向かう。


◆   □   ◆   □   ◆


 歩いて向かった先には、巨大な魔方陣が展開されていた。
 少し開けた空間には紫色の妖しい光が広がり、ここにいる気配の持ち主を苦しめるための魔法が発動している。


「発動しているのは……ティンスの鎖と似たような魔法だな。対象から魔力を徴収して結界の維持を行う……非人道的だが強者の回復力を考えればかなり効率的に発動が可能だ。
 しっかし……それならどうして小さくなる魔法を結界に組み込んでんだ? 別に、わざわざ小さくなっても困る奴なんて、妨害が無ければ特に誰もいないだろうし、何だ? あのが実はショタやロリが嫌いとかそういう感じの展開なのか?」


 魔方陣の中心には、少し汚れているが高級そうな衣装を身にした一人の少女が、虚ろな眼をした状態で座っていた。

 朱色の髪を後ろに纏めてポニーテールのような髪形を作るその彼女には、一本の白い逆角が生え、彼女の普通の者では無いことを示している。


「……おーい、聞こえてますかー?」


 呆然としている理由が分からないが、とりあえず声も掛けてみた……が、彼女の藍色の瞳が動き、こちらを見ることは無かった。

 なら、問題は無いかな?


「鑑定しますよー」

『……ッ!?』


 鑑定をしようとそう言うと、突然彼女がピクリと動き、彼女の周りから威圧のようなものが吹き荒れる。

 まるで見るなと言わんばかりの脅しを掛けてくる……が――。


「――はいはい、挨拶もしないでいきなりの脅しはどうかと思いますよ、お嬢さん。確かに貴女様が相当にお強いことは、それで分かりますが……それをやられると、体の弱い方などすぐに心肺停止で死んでしまいますよ」

『…………』

「ありゃあ、しかとですか。しかとって意味分かります? 大したことがない、という意味の言葉から派生したという説と、俺の国に伝わる花札っていう遊戯に書かれた鹿の絵がソッポを向いていたからって説があるんですが、どちらも他人を放っておいて無視するという意味なんですよ」

『…………』

(フゥ、こりゃあどうすりゃいいんだか)


 (多分眷属のお蔭だが)俺にはその威圧が効かなかった。
 なのでそのまま会話に持ち込もうと思ったのだが……完全無視である。

 『しかと』の豆知識……折角温めておいた渾身のネタなのに。


《ごしゅじんさまー、どうするの?》
《鑑定という単語に反応していましたから、何かトラウマでもあるのだと思われますね》

「そうなんだよねー。わざとトラウマを抉って反応させるのも良いし、精神世界に潜入して理由を知るのも良いし……色々とやるための方法はあるんだけどねー」


 全てが可能な世界……それは、選択肢がほぼ無限に存在していることを意味する。
 本来、人に選ぶことができる選択肢の数などある程度決まっている……のだが、ハイスペックな武具っ娘や強者たちの影響により、俺という一般ピーポーの選択肢は半端ない程に増大したのだ。


「やれることはたくさんあるしやりたいことも幾つかあるけど、何が彼女を傷付けるのかが全く分からないんだよ。鑑定できれば何か分かるかもしれないけど、一応鑑定しなくても大体のことは分かる……かな?」


 俺がそう言うと、微かに肩を震わしているのが確認できる。


「仮定の話だし本当のところがどうかは分からないけど、お嬢さんの頭に生えている角は本来左右に生えているような形状の物だ。それが片側に生えていないということは、切断されたか――元々そうだったかってワケだ」

『――!!』


 轟ッ!! と、先程よりも辛辣で強烈で苛烈な威圧が彼女から解き放たれる。


「……え? 何だって? 言葉で言わなきゃ分からないことってあるらしいよ。まあ、言葉だけだと分からないことも多いですし【矛盾】だと思いますがね。お嬢さんが何を悩んで苦しんでいるのか全く分からないし、私にそれが解決できるかどうかは分かりませんけど……人ってのはとりあえず手を出そうと考える生き物だと私は偶に思ってますし、お嬢さんもそれに則ってやらせて貰いますね」


 俺はそう言って、この空間に来てから一歩も動かしていなかった足を動かし、彼女の方へと近付いていく。
 再び怯えだす彼女を一時的に無視をして、魔方陣の所までやって来た俺は、その場で屈みこんで描かれた文様に触れる。


「……それでは、貴方を解放しますので、それからやりたいことをやってみてください。ま、自殺をするならば止めますけどね。
 ――"魔法破壊マジックブレイク"」


 掌から過剰な魔力を魔法陣に流し込み、強制的に魔方陣の発動を無効化する。

 そして、バキッという音と共に、彼女は解放された。



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