AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしのダンジョンイベント その13



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 ピンポンパンポーン
≪それでは、貴方がたを始まりの草原に送り返します。報酬は一週間後に前回同様カタログとして配布いたしますわ≫

 声の主がそう言うと、全プレイヤーの足元に再び魔方陣が現れ、彼らを白い光に包んでいった。
 そして、その後――。

≪ああ、アア、嗚呼! やっと、遂に見つけましたわ!
 唯一難易度十のダンジョン『偽・世界樹の迷宮』! あんなものが短期間で造れる筈がありませんわ!
 やはりいたのですね! これで会えるのですね! 何度も何度も姉と妹から聞かせれてきた貴方に! ああ、アア、嗚呼!≫

 ――声の主は何かに歓喜しながら、再び何処かへと消えていった。

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リーン王国


 始まりの草原に転送されたユウ達は、自身の持つ"Wifone"のアプリ――転移アプリを使い、リーン王国へと移動していた。
 そして、住宅区の中に存在する、ティンスとオブリに用意されていた家の前に集まる。

「アイツと決闘した後にここを用意されたのよ。プレイヤーの眷属なら、誰でも使って良いって言ってたし……」

「けっこう広いんだよね~」

 ティンスとオブリはそう言うが――

「そんなレベルじゃないからね!」
「何……ここ、豪邸?」
「周りから浮き過ぎでしょ」
「ここは……さすがに気が引けるな」

 他の者はかなり遠慮していた。
 彼女たちがいる場所、例えるなら花○君の家ぐらいの豪邸である。
 噴水や庭園まで設置され、屋敷自体もかなりの大きさ。
 ここから見ることはできないが、中には地下室まで存在している。

 調子に乗った製作者の、趣味が至る所で光る仕様であった。

「だけど、ここを断ると次はあそこしかないわよ」

 ティンスが指差したその先には、豪邸よりもでかい建物――王城があった。

「そもそも、メルスお兄ちゃんのお城の方がデッカイからね」

「……そういえば、上にあるものね」

 ティンスとオブリの二人は、上空で漂っている『天空の城』の存在を知っているため、それが理解できる。
 飛行の石を積んでいそうなあの城が、○輪君の家の大きさに負ける筈が無いことも。

「とにかく、選択が無いことは分かったんだし、さっさと中に入りましょう」

「レッツゴー!」

 二人の誘導に従って、彼女達は豪邸の中へと進んでいった。

◆   □   ◆   □   ◆

 豪邸の中に入った後も、そこに置かれた芸術品に感動したり、実はそれを作ったのがメルスであった為に驚愕する等、色々とあったのだがそれは割愛する。

 彼女たちは、談話室にやって来た。

「――それで、みんな籠手は送ったの?」

「さっき全員でやったじゃないの」

 ユウたちは、自分たちが模倣を行った『摸倣の籠手』を既にメルスへと送っていた。
 便利すぎる『Wifone』があればこそ、できる芸当である。

「でも、どれくらいで完成するのかしら」

「ご主人様でもすぐにはできないと思うが」

 本来はスキル結晶を創ることすら、プレイヤーには不可能な所業だ。
 大量のスキルが噛み合うことで創られたメルスのスキル結晶は、一度でも情報をペラペラと話す者が知った場合……全プレイヤーから追いかけられる羽目になるだろう。

 何故なら彼らにとって、メルスは金の卵を産む鶏より貴重な存在であるのだから。
 スキルを自由に作れる? ならずっと作って俺達に寄越せ! それが世の常であろう。

 そんなことを話していると――

 たらたった……ったったったったら……

「あ、電話だ」

「完全に本家のパクリじゃない!」

 ――オブリの『Wifone』に、突然電話が掛かってくる。

「はい、もしもし……あ、お兄ちゃん!」

「「「「「……っつ!!!?」」」」」

「え? スピーカーを押せ? えっと……はい、押したよ!」

 オブリ以外全員が驚いた。
 今まで全くという程連絡の取れなかった本人から、いきなり電話が来たのだから。

 眷属越しならば情報を掴めていたが、実際に話すのは久しぶりであるため、本当にビックリであった。
 そして、声が聞こえてくる。

『……お? ありがとう、オブリ。みんな、ひっさしぶりー。元気してた? 俺は状態異常的には元気だよー。いやー、まさか俺無しでダンジョンイベントが始まってるとは思ってもいなかったよー。プレイヤーを省いてやろうとするなんて、運営もイケずなことしてくるよなー』

 ……限り無くウザい口調であった。
 本人もそう思い、一旦咳払いで空気を戻してから話を続ける。

『――っと、ふざけるのは冗談にして、本題に入るとしよう。お前達から回収した『摸倣の籠手』のスキルは全て結晶化した。
 オブリのは少し別だから、代わり用意した聖霊スキルセットをプレゼントするぞ。
 全員の"収納アプリ"の中に入っていると思うから、後で使ってくれ。
 あ、シャインもしっかり働いているのを確認したぞ。お前を眷属として認定するから、スキル結晶と別途で用意した眷属結晶を使って眷属になってくれ。これからも頼むぞ。
 えっと~、まだ言うことあるか?』

「あるに決まってるでしょ!」

 一度にたくさんのことをスラスラと述べていくメルスに、一人の少女が物申す。

『お、アルカか懐かしいな。極振りしたから更に強くなったらしいが、俺のニューアイテムには敵わないと思うぞ。……それで、俺は何を言えばいいんだ?』

「私たちへの……その、ね、労いとかがあるでしょうが!!」

 実際、彼女たちはかなり頑張った。
 本来ならば自分たちのやりたいように行えたイベントを、メルスのために働いたのだ。
 それが当然の権利、乙女の思考回路がそうした答えを算出したのだが――。

『……いや、電話を切る前にそれは言おうと思っていたんだぞ。途中で言うと……その、恥ずかしくて気まずくなりそうだから』

「……ご、ごめんなさい」

『い、いや、もう良いんだ。別に』

 本当に気まずくなってしまっているが、メルスは咳払いをして気を取り直してから、労いの言葉を告げる。

『みんな、今回は本当にありがとう。お蔭でこっちでやっていくための力がより増えた。感謝する。こっちから戻ってきたら、お前たちの願いを、叶えられる範囲で一つ叶えると約束するよ』

「「「「「…………」」」」」

『……ま、いらないならその時に言ってくれれば、無理には押し付けないから安心してくれ。……な、なんか恥ずかしいな。と、とにかく、今日はありがとうなー!!』

 ガチャッ ツー ツー ツー……

 電話が切れた後も、彼女たちは中々次の行動へと移ることができなかった。

『――お前たちの願いを――一つ叶えると約束するよ』

 この言葉がどんな未来を生み出すのか、このときのメルスには知る由も無かった。


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