AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者なしのダンジョンイベント その04
「ところで、設置したという転移門は?」
「……ああ、それでしたらそちらに」
レンが指し示す先には――壁があった。
「えっとー、壁なんですけど」
「ええ、壁ですよ。見える所に転移門など設置したら、バレてしまうではありませんか」
「う、うん。そう、だよね……」
この発言にはユウも反応し辛い。
確かに侵入者が転移門を見つけた場合、彼らは転移門を有効利用するか破壊しようとするだろう。
念のために説明しておくが、レンが指差したのは洞窟の奥側へと続く壁である。
この洞窟は40坪ぐらいの広さであり、彼女たちが居る場所も、それなりの広さを誇っている。
だが、それでも彼女達が居る場所は10坪程で、あとは全て壁で覆い尽くされていた。
これは、DPや魔法で掘ることを運営が予想してそのようにしたのであり、罠の設置や隠し部屋など、様々な使い方をできると思われてのことだ。
……だからと言って、通り道も無いのに壁の奥に設置して、一体どう使用するのであろうか。
――その答えは、すぐに理解できた。
「……さて、そろそろ皆様に連絡をしなければいけませんね」
レンがそう言って目を閉じて暫くすると、この場に新たな人物が現れた。
壁の向こう側から現れたワケでも無く、唐突に、場に出現したのだ。
「――レン、せめて我たちが出てくる間、開いたまま置いてもよかったのではないか?」
「――ダンジョン内での転移の権限がある者はそれでよいかも知れないが、我はそうはいかないんだ」
「――[スキル共有]で通り抜けないといけないんだよ。レンお姉ちゃんも注意してね」
「……申し訳ありません、全員が移動できる場所且つ、普通のプレイヤーが移動できない場所が中々見つからなかったもので」
一人目は腰に妖しくも目を離せない、炎のような剣を提げた女性。
二人目は背中に白い牙の様な大剣を背負った、頭に角を生やした女性。
三人目は人形サイズの、背中から生えた小さな羽を広げて浮かぶ少女。
三人は先に来ていたレンにそう言うと、ユウたちへ歩み寄る。
「我はフェニ、"天魔迷宮"で第二層フロアマスターをやっている。よろしく頼む。……前のイベントではクースと名乗っていたぞ」
「我はリョク、リーン国で国王代理を務めている……ティンスとオブリは久しぶりだな。
他の者もよろしく頼む」
「私はミント、"天魔迷宮"の第一層フロアマスターをやってるよ。よろしくね」
"天魔迷宮"――それは一部のプレイヤーだけが知ることを許された、ダンジョンでも屈指の難易度を誇る、個人運営型のダンジョンである。
今までに最強ギルド(一人欠席)や最強サモナー(一人を除いた場合)、有力な者達が挑んだのだが、誰一人として一層を突破できていない……そんなダンジョンだ(一人を除く)。
そんな中、ティンスはリョクをジッと見つめ、何かに気付いた途端、恐る恐るそのことについて尋ねる。
「リョクさん……なの?」
「ん、どうしたんだティンス? 何やらとんでもないものを見たような顔をして。我の顔に変な物でも付いているのか?」
「いや、顔じゃないんだけど……だって――貴方、女性じゃない!!」
ティンスがかつて見たリョクは、そりゃあもう、イケているメンを持った男であった……主が妬むぐらいには。
――しかし、それがどうであろうか。
今のリョクは女性だ。
頚部と腹部の間にある、大きな山脈が何よりの証拠である。
主にも一度そのことを尋ねられ、既にそういった質問が来ると予測していたのだろう。
リョクはスラスラと問いに答える。
「……あぁ、そのことか。結論だけ言うと、我のスキルの効果で女性になった」
「「――女性になった」じゃないですよ! そこにいるTS勇者は置いておくとしても、リョクさんが女性化する理由なんてないじゃないの!!」
「……おい、俺は置いておくとしてってどういうことだ」
「そのままの意味よ!」
自分の理不尽な扱いにツッコミを入れるTS勇者を無視して、ティンスはリョクに質問を続ける。
だが、フェニがそこへ割り込んで話す。
「いいか? ティンス。リョクにもリョクの事情というものがあるのだ」
「……事情?」
「そうだぞ。自分のご主人に尽くしたいという、ふっか~~い事情がな」
「……そう。結局、あの人の所為ね」
「まぁ、そうとも言えるな。ご主人も初めてこの姿のリョクに会った際は、何度か自身の正気を確かめたそうだが……最後には、受け入れておったぞ」
「器が広いわね……」
TSだろうと何だろうと受け入れる。
別の意味では確かに器――というか許容範囲が広いのであろう(実際に世の中にその器の広さが求められているかどうか、そこは別の案件だが)。
「リョクさん、可愛くなったね」
「そ、そうだろうか……。主にもそう言われたが、あまり実感が湧かないのだ」
「大丈夫だよ、可愛いって。ミントちゃんもそう思うよね?」
「うん! パパが可愛いって言う人は、本当に可愛い人だけだもん!」
フェニとティンスが話している間に別の場所ではそんな会話がされていたのだが、プレイヤーたちはミントのある言葉を訊き、自分の耳が幻聴を聴いたのかと思った。
オブリも不思議には感じたのか、ミントにそのことを尋ねる。
「……ミ、ミントちゃん、パパってどういうこと?」
「パパはパパだよ。私を生んでくれたからパパ、他に理由が必要?」
「……あ、うん! それもそうだよね!」
その説明を聞いて、プレイヤーたちも冷静になる。
ダンジョンのフロアマスターだということは、ミントはダンジョンが生み出した魔物ということになる。
主が【ダンジョンマスター】であることは周知の事実であるため、そこさえはっきりとしていれば、ミントがそのように言うことも理解できるのだ。
……生むを産むと勘違いして、妄想に耽った者はいない……と思いたい。
「レンさん、結局どんなスキルを使えば、転移門に向かえるんですか?」
今更――だがそれでも重要なことを、イアが確認する。
「透過できるスキル――(聖霊化)や(霊化)などのスキルを使っています。魔法でも同じことは可能ですが、そちらは【邪霊魔法】しかありませんので……」
「聖霊って……。今のアイツはどんな状態なのよ」
「そういえば、言っていませんでしたね。折角ですし、ダンジョン改変中の話の種として説明するとしましょうか」
そう言って、レンは主の現在の状況を説明し始める。
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