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山田 武

偽善者と『禁忌学者』 その06



 それからも、掲示板に挙げられた攻略法を幾つか試したが――全く歯が立たなかった。


「リュシル、もう小細工は無駄なのかな? 例えどんなことをしても、後からお前が思い出した機能によって潰される気がしてきた」

『し、失礼ですよ。私だって、好きで忘れていたワケじゃ、な、無いんですから』


 色々と手を打ったはみたが、マシューの攻撃のパターンが多過ぎて殆ど意味が無い……こんなことが何度も起きれば、そう思いたくもなるだろう。


「――と、いうワケで、次は俺自身で行ってみることにしよう。ドゥル、"偽・デュランダル"をくれ」

《仰せのままに、我が王。》

『なんですか? その剣』


 俺の手には黄金の柄が特徴の、両刃の片手剣が装備された。


「絶対に壊れない、岩を斬る剣だな」


 不滅の刃を意味するこの聖剣には、壊れても直るようなスキルを入れてある。
 うん、適当に扱っても大丈夫だろう。

("不可視の手"……からの、不明天蓋)

 分かる人には分かる体に黒布を纏うアレのパクリだが、見えないからビジュアル的に虚しく感じてしまうものだな(もし、天魔状態でこれをやったら……完全にアウトだったな)。

(――"異端種化・聖霊2:機人1:スライム1")

 物理無効になる種族を二つ、様々な状況に対応できる種族を一つ注入し、最適な体を形成する(機人オンリーの失敗は体験済みだ)。


『……どうして、そこまでするのですか?』

「どうしてって……記憶は見たんだろう? いつだって、俺が張り切るのは偽善の為だ。
 リュシルがここから出られるようになる為には、マシューをどうにかしなければいけない……なら、やることは一つだけだろ?」


 そんなセリフじゃ駄目だったのか、リュシルが続けて言う。


『――やはり分かりません。記憶を視ても、貴方がここまでする理由は一つもありませんでした。何の悲劇も使命も意志も無い、空っぽな記憶。在ったのは、本や映像で学んだ虚像の世界の英雄譚。
 貴方の持つ意思は、意志ではありません。 存在しない偽りの――死んだ世界の主人公たちの行動をなぞっただけの……遺志です』


 おぉ、上手いな。
 意思と意志と遺志、全部使っているぞ。
 要は、俺の意思が欠けていると言いたいんだろう……当たりだけど。


「記憶を観るだけじゃ、その時の心情までは分からないからな。分からないのは仕方ないかな? ……ユラルとの会話は知っていると思うから多少省くが、俺はこの世界で女性という存在を知った――今まで見て来た女が別の動物かと思えるぐらいに美しい女性をな」

『そ、それはさすがに言い過ぎでは……』


 何を言う!
 現実で人の顔を全くと言っても過言ではない程に覚えられない俺が、こっちの人々の顔ならしっかりと認識していられるんだぞ。
 どんだけインパクトがあるんだよ(基本、良い意味でだぞ)!


「意思とか意志とか――そんな頭の良い言葉はあまり分からないが、人の言葉を聴いて、行動を改める人は結構いるだろう」

『で・す・か・ら! 貴方の場合は、それが酷いんです。もし、貴方が復讐をしているとして、眷属の誰かがその人を助けてあげて欲しいと言ったらどうしますか?』

「そりゃぁ助けるだろう」

『普通はそんな即答しません!!』


 そう言って、地団駄を踏むリュシル。
 いや、きっとどこかにいる主人公君ならやるんじゃないか?
 俺だって眷属の頼みなら、死ねとか(色んな意味で)死ねとか以外なら引き受けるし。


『メルスさん、貴方自身が本当にやりたいことはなんですか?』

「……やりたいことか~」


 それを訊くか?
 こっちの世界は冒険者で食っていけば生きれるだろうが、地球にそんな利便性のある職業は無い。
 殺しだけで生きていけるのは、限りなく黒に近い者だけだ……一般ピーポーな俺には、武術の覚えも無いからそもそも無理なんだけどな。

 しっかし、やりたいことね~。
 眷属に尽くしたい――ってのは知っているだろから、もっと別のことか……あっ!


「……とりあえずので良いか?」

『まぁ良いです。さぁ、教えてください』

「俺は――」


 俺のやりたいことを聞くと……リュシルは俯き、何やら思案し始める。

 そして、暫くして。


『――とりあえずでそんな理想とは、あんまり信じられませんね』

「こっちの世界には(不老)や(不死)があるしな。長大な時間を使えば可能だろう? ま、長生きしたいという願いもあるが、それに関しては今は言えないからな」


 視界に映る巨大なゴーレム、あれに挑む時点で夢と【矛盾】している。
 何故長生きを望むのに、命を賭けるのか?
 それを聞かれても答えられる自信が無い。
 先程と同じ、誰かの言葉を借りれば余裕だが、本心となると……どうだろうか。

 幸い、リュシルはそこに深く触れることは無く、話は進んでいった。


『ですが、結局それも誰かが望んだ願いなのでは? ありましたよ、その願いを実現しようとした主人公の記録も』

「そもそも、この願いはどの世界においても一人ぐらいは考えつくことだ――命懸けでその日暮らしをしている子供だとしても、生死の境を彷徨っている老人だとしても、明確な範囲は異なるかもしれないが一度は願うさ。
 ……リュシルは無いのか?」

『……私の人生は魔人族の平均寿命のまだ半分もいってませんから。まだありませんよ』

「主人公の野郎が命のコストについて話していたヤツ、アレ観たか?」

『観ましたけど……』

「勝手に死ぬのは【傲慢】だと言ってたが、長生きし過ぎるのも【傲慢】に入るのかが疑問だった。命を作るのにコストが掛かるとして、コスト以上に生きていることは良いことなのか悪いことなのか……。いつまでも生きていてそれが何になるのか。
 よく不死の奴が、自分の長過ぎる生に絶望して死ぬ為に色々やったりするけど……あれはあれで、長生きできたってことで良いんだろうな。
 生まれる前に死んでしまう……そんな奴らよりはな」

『話、逸らしてますね。
 ……ならメルスさん、これだけは教えてください。
 貴方のそのデッカイ理想を叶える為に、今やりたいことはなんですか?』


 うちの眷属達はどうして直ぐに気付くんだろうな。俺は別に妹持ちな夜を支配するものヴァンハ○イア・バットではないのだがな。
 おっと、だけどその質問ならちゃんと答えられるかな?


「頭の良い――それこそ、神に目を付けられて辺境の地まで飛ばされそうな学者を、夢の協力者として引き入れることだな。
 リュシル、誰か良い人を知らないか?」

『……そうですね……。一人だけ、思い当たる人がいますが……。その人は自分の発明したゴーレムを乗っ取られて困っています。
 メルスさん、貴方はそんな愚かな人の為に……どうしますか?』

「決まっているじゃないか」


 ――誰かに手を伸ばす、それが偽善者ってもんだろう。



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