AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『禁忌学者』 その02



 しばらくしても彼女は思考の海から戻ってこなかったので、定時報告をする――


《――リュシルか、知らない名前だな。そもとして己は、捕まっていたからな。情報を知る機会など無かった……。己は、メルスの役には立てないな……》


 落ち込んでいらっしゃる。
 重い、重いぞクエラムさんや。


「(分からなくても良いんだよ。俺だって分からないから訊いたんだ。クエラムは、俺が訊いた奴の順番で、最初だっただけだぞ。
 仮にクエラムが知っていたとしても、俺は他の奴にも訊いていただろうし、他の奴が知らなくても仕方が無いだろう……家の眷属たちは、事情が……その、あれだからな)」

《……そ、そうだな》


 家の眷属たちは、クエラムも含めて色々とワケありなのだ。
 生まれつき持っていたスキルの所為で地元から追放されたり、ダンジョンで召喚されたり……な。
 しっかりとした知識を持っていない奴が多いのだ。

 ……まぁ少なかった知識も、現在スポンジのように吸収しているから、俺以上の知識を眷属たちが有しているのは……言うまでも無いけど。


「(そもそも、どれだけの大陸があるかすら分からないしな。どんだけ広いんだろうな、いつか全部の大陸を巡ってみたいもんだ)」

《おぉ、それは良いな! メルス、己も連れて行ってくれ》

「(さすが、話が分かるクエラムだ! よし、今回のような厳しい環境じゃない限り、行ってみるか)」

《うむ、少なくとも一大陸はあるし、せめて一回はメルスと二人で行くとしよう》

「(そうだな、約束だ)」


 なんか話が逸れている気もするが、別に良いか。
 ――だって、楽しいし。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『……神髄を引き剥がす……(ブツブツ)』


 未だに考え中のようだが、少し聞き取れた単語――神髄とは何だろうか?
 直訳すれば神の髄――本体のような物か?
 それを引き剥がすとなると……活動停止状態に追い込むということになる。さっきの話の続きだから、やろうとしているのは運営の神たちだろう。

 ……というか、もうやったのか?
 奪ったからこそ、そいつらはプレイヤーをログインという形でこっちの世界に召喚している。

 ……いや、でもそれなら加護とはなんだ?
 運営がわざわざ俺に加護をくれる筈はないし、実際に分かる形でもらったのは邪縛だ。
 加護をくれたのが運営以外の神ならば、現在も運営以外の神が存在することになる。

 だからこそ運営の神たちは、完全に活動を停止させる為に信仰を高め、神髄を奪おうとする……これなら成り立つのでは?


「おーい、リュシルー。ちょっと訊きたいことが――」

『…………(ブツブツ)』


 変わって無かった……というより、完全に口に出して意見を出さなくなった分、さっきよりも悪化しているぞ。

 このままでは彼女の考えが纏まるまで、俺は暇を潰さなくてはならない。
 刺激を与えてこっちに引き戻すのが一番なのか?
 もっといい方法が……あっ。


≪【思考接続】申請――受諾されました≫

《ど、どうして貴方がこのスキルを!?》

「(い、いや~。成り行きでな)」


 どうやら正解のようだ。
 彼女が言ったスキル――【思慮分別】は、<千思万考>の内包スキルだ。

 ならば別のスキル――【思考接続】もリュシルは持っているのでは……? そう考えてやってみた。
 俺も持ってるしな。


「(まぁそのことは置いておくとして、幾つか確認したいことがあるんだ)」

《確認したいこと……ですか?》

「(あぁ、まずは運営のことなんだが――)」


 とりあえず気になったことを訊いてみた。


《……確かに、その考えは私も考えつきました。ですが、神髄が引き剥がされても加護は無くならないことは過去の伝承に記されていました……邪神教徒が無くならない理由でもありますね。
 えっとー、神髄でしたね。加護を授けられるのは、神髄が活動状態の神か、神髄の活動が不活性な状態でもある程度の活動が可能な神格の神かの二パターンです。
 メルスさんの話を訊くに……メルスさんの場合は後者ですね。自身の眷属や武具が持つ加護を自身に移せる寵愛……聞いたことがありません。それだけのことができるということは、創造神か、それに匹敵するレベルの神と言うことです。
 そんな方の寵愛なんて……凄いですね。
 ん? ところでメルスさんは、どうやって眷属を創ったのですか? 普通、神髄が活性状態の神しかできない筈では?》

「(あぁ、それはだな――)」

 カクカクシカジカ ウマウマスマスマ

《個有スキル"眷軍強化"ですか……。メルスさん、それって私にもできます?》

 もちろんさー(赤いアフロのイメージ)

《……なんですか、このイメージ? 私と同じスキルなのに、こんなことができるなんて知りませんでした》

「(可能だけど……良いのか? 俺の配下になるってことだぞ? 特に良いこと無いし、むしろデメリットばかりだと思うんだが)」

《良いですよ。貴方といると、面白そうなことがいっぱいそうですし。そもそもですね、加護を授かるということは注目されていると言うことなんですよ。そんな人と一緒にいたらどれだけの未知を知るか……考えるだけでワクワクしてきますよ!》

「(そういうものなのか……よし分かった)」


 ――というワケで、リュシルが俺の眷属になることが決定した。
 あ、また気絶している間にやることを考えなきゃ……ハァ。



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