AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの前日譚【煌雪英雄】 前篇



SIDE アマル
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 ――これは、私達が彼に会う為の前日譚。


『さぁ、アマル――【煌雪英雄】よ。今こそフィール古城に巣食う【不死魔王】を討伐してくれ!』


 私達は今までの功績を認められ、国の最北に位置する古城を乗っ取り、国を脅かすアンデッドの魔王を退治することを国王に命じられました。

 なんでも、魔王は死体を操作するスキルを持っているらしく、軍勢を送ることができないらしい。
 そこで白羽の矢を立てられたのが、少数で大活躍してきた私達というワケです。


「はい、お任せください! 私達が国を脅かす魔王、倒して見せましょう!」


 私達はそう王に答えた後、魔王討伐の為の準備を整えて古城へと向かった。


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「しかし、魔王ですか……私達も有名になりましたね」


 私はそう言って昔のことを懐かしみます。
 ……思えば、色々なことがありました。


『あぁ、二人で鍛え合ったあの頃が懐かしく感じられるな』


 ――と、俺の親友であるウルスが答えてくれます。
 俺とウルスは同じ村で育った仲で、いつも一緒に行動していました。
 家族に内緒で森へ散策に行ったり、内緒で作った木剣を打ちあったりと、村の中ではかなりのワンパクさで、大人達にはよく怒られたものです。


「えぇ、あの頃は自分達がこんな職業に就くなんて、思ってもいませんでしたよ」

『……まさか俺が【剣聖】、お前が【英雄】に選ばれるなんてな』


 成長し、神殿で水晶に触れた私達は、自分達の頭に浮かんだ職業のイメージを感じて驚いたものです。
 昔見た物語に描かれるような職業に、自分達が成れるのですよ。
 私達は当然、それらの職業に就くことを選びました。


「それからは、色々なことがたくさん起こりましたね。近くの谷に竜が住み付いたり、魔物の群れが街を襲ったり……」


 今から行く古城の近くにある谷の底に、火炎竜"イグニート"と呼ばれる竜が出現した時は、ギルドの精鋭達が討伐に向かいました。
 その時ウルスは、谷に眠っていた魔剣を抜き、竜を火炎の息ごと斬り裂いた事から、職業が新たに【炎魔剣聖】へと変化しました。
 谷で手に入れた魔剣"ティソーナ"を振るい敵を斬り倒していく姿は、裏では女性達に人気なんですよ。

 また、魔物の群れが襲って来た時、私達は先に向かったギルドの仲間達を救う為に最前線で戦ったのですが――戦闘の最中、私は突然神様より加護を授かってその力を振るった結果、【煌雪英雄】へと覚醒しました。
 私は、いつも武器は加護と共に入手した神器"煌雪神之魂剣ティーゼ"を使っているのですが、他の人達からは何故か『その武器強過ぎじゃないか?!』と言われてしまいます。
 ……何故でしょうか?
 剣が閃光を放ったり、粉雪のように分裂して相手の体内に侵入し、その中で剣状に戻って相手を貫くぐらいのことしかできないのですが……。


 まぁ、今は置いておきましょう。


『他にも、お前がギルドで女を賭けて決闘したりとかな』

「あ、あれはただ、困っているように見えたからで……」

『それがまさか、竜すらも倒したギルドの精鋭達を相手に、無傷で勝利するような暴力女とは、知らなかったしな』

『――ちょっとウルス。それは、一体誰のことを言っているのかしら?』

『――ワタシも気になりますね。ウルスさんは、誰の事を言っているのでしょうか?』

『さ、さぁ、どんな奴だっけな~』


 そう言って私達の会話に入って来たのは、私達のパーティーメンバーである、シャルとウェヌスです。

 シャルは森人の魔法使いであり、(森人からしたら)若くして【賢者】の職に到達した天才です……偶に、私達を魔法実験に巻き込むことから、ウルスには天災と呼ばれていますけどね。
 彼女は広域殲滅を得意としており、いつも魔物を相手に発動しています……ウルスを巻き込んで。
 色々な魔物とウルスに魔法を撃ち込み、【森賢者】になった今でも、彼女は私達で実験を行います。


 ウェヌスは女神コラーニ様に仕える、【聖女候補】でした。
 しかし、私達との冒険の末に女神様からの授かった加護が祝福に変わったらしく、職業が【聖女】へ変化しました。

 彼女の回復系のスキルはパーティーの中でも随一で、彼女の存在無しでは勝利することもできなかった相手がいたと思います。

 成長をし、【守護聖女】となった彼女は現在、コラーニ様の神殿に常駐して欲しいと言われる程の求心力を持つ聖人です。


 ギルド内で男達に囲まれた彼女達は、すぐにその男達を倒し、それを止めに入った精鋭達も倒してしまいました。
 私とウルスは防ぎ切ったのですが、どうやらそれが当時のシャルのプライドを傷付けたらしく、それから何回か衝突がありました。
 ですが、それ以上の共闘の末、二人は私達のパーティーに加わることになります。

 それからはそんな三人の仲間と共に、今までの冒険を行ってきました。


『ちょっと、アマル。何ボーっとしているのよ。アンタからも言ってやってくれない? ウルスは身長ぐらいしか取り柄の無い、駄目剣士だってね』

『……このチビ娘が(ボソッ)』

『……ちょっとウルス、今なんて言った?』

『い~や、何も言っちゃいねーよ。別に何処かのダメエルフの身長が足りないだなんて、言っちゃいないぞ』

『言ってるじゃない! ウェヌス、今言ったわよね! 絶対に言ってたわよね?!』

『フフフ、はて、どうでしょう……』

『ちょっとウェヌス?!』


 全く、これから魔王へ挑むというのに、このパーティーは……。


「はははははっ!」

『おっ、どうしたんだアマル? これから伸びる見込みの無い可哀想なエルフの将来が目に浮かんだのか?』

『……ちょうど試したい魔法があったのよ。ウルス、アンタは的になりなさい』

『フフフ、アマルさんもやっぱりそう思いますか?』

「えぇ。やっぱり、みんなは最高の仲間だと思いますよ」


 魔王を相手にする前でも、こんな風に笑っていられるんだ。私達の冒険はまだまだこれからですね。
 ――そう、まさかあんなことになるだなんて、誰も思ってもいませんでした。


TO BE CONTINUED



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