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山田 武

偽善者と『不死魔王』 その06



 ――バンッ バンバンッ

 光の弾と闇の玉がぶつかり合い、相殺していく。
 そんな光景が、何度も何度も繰り広げられている。


「おいおい、まだまだ本気は出してないぞ。俺に立場というものを教えてくれるんじゃなかったのか~? それともなんだ、フルボッコにして欲しいという意思表示か~」

『クッ、言わせておけば!』


 俺が挑発するとそう言って、ネロマンテは俺に放つ玉の大きさと数を変えてくる……のだが、イニジオン様には関係無いことだな。

("拡散弾・光芒"に変更)

 頭でそう念じると、イニジオンから放たれる弾の種類が変わり、巨大に、そして膨大な数となった黒い玉を再び消し去っていく……その光景は、蛍を幻想させるものであった。


「ん~? えっと、言わせておけば……なんだって?」

『……ッ!!』


 遂に黙ってしまったよ。
 もしかして今のがネロマンテの奥の手だったのか?
 ……だけど、物凄く魔力が高まっているんだよな~。
 今のは本気じゃなかったのかよ。

 おっと、発動するな――


『いい加減にしろ! ――"怨恨の絶叫"!!』

 ――KYAAAAAAAAAAAAA!!

 ネロマンテがその能力を発動させると、辺りから様々な絶叫が聞こえてくる。
 それは若い女性の悲鳴のようにも、年老いた老人の苦痛の声にも、子供が泣き叫ぶ声のようにも聞こえる。

 そんな声達が自分の近くで一気に聞こえてくるんだぞ。――耐えられると思うか?


「――まぁ、こっちでは平気なんだけどな」

『な、何故だ! この叫びに耐えられた者など、今まで一人も――』

「なら、俺が初めてなだけだろう。お前のそれは、心を強く保てば何も影響が無い」

『そ、そんな次元の能力では無い! これは吾が今までに使った魂の叫びだぞ!』

「……チッ、そんなもんまで使ってやがったのか、一体どこまで他人を巻き込めば気が済むんだ、お前は」

『吾とは違うものは全て、吾を高みへと昇らせる為の踏み台として存在しておるんだ。それをどうしようと、吾の勝手であろう』


 あ~もう、【憤怒】し怒りたくなるな~。
 俺はイニジオンを背中に背負ってから、今まで使っていなかった籠手――"救世の籠手"に力を注ぎ込む(これにより、世界に干渉することなく使用可能らしいが……詳しいことはあまり知らん)。


「さ~て、フルボッコの始まりだ♪」


 俺は(天駆)を使い、一気にネロマンテの元に迫る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ――ドゴッ ガッシ ボカッ バキッ ドン!

 龍球のような効果音が付きそうな闘いが繰り広げられている。だが、その実際の光景を見てみると――


「――オラアァァァァァ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!」


 奇妙な冒険をやっているかのように、俺はネロマンテをフルボッコにしている。
 籠手の参考になった彼女は、傷付いた者を殴り癒していたが、彼女は大体一撃だった気がするし……スタンドを使っていたアイツの方が、殴るのには最適だよな。


『…………』


 ネロマンテなんて、殴られ過ぎたのか意識が吹っ飛んでいるぞ。
 魔女に殴られた六連星曰く、殴られるのは気持ち良いらしいので正直心配だ……このままだと変態勇者シャインの二の舞じゃないのかな。


「おいおい、俺の中の曲はまだまだ終わってないぞ……お前に理不尽に殺されて逝った者達に捧げる鎮魂歌は、そんなすぐには終わらないぞ!!」


 俺はそう言って、再びネロマンテを殴っていく(鎮魂歌なんて、大げさなことを言っているが、流しているのはKnights 。f SidoniaのEDだぞ)。


 ――別に、ネロマンテが魂魄をどうしようがそこはどうでも良い。
 それを自分自身や、進んで助力してくれる者だけで行うのなら。

 ……だが、こいつは違った。

 ネロマンテは俺にこう言った。『――今までに使った魂』と……そしてこうも言った。
 『自分以外のものは踏み台である』とも。

 偽善者は自分の優先の心理を捻じ曲げてまで、善行を行う聖者(劣)……そんな存在だと俺は思っている。まぁ自分の本心を偽り、人に優しくしたりする……そんな我田引水わがままな奴だとも思っているけどな。

 そんな自己中な偽善者にも、守らなければいけないことがある。
 "関わった人に最後まで責任を取る"ということだ……まぁ簡単に言えば、好き放題やるからにはその責任は自分で取れや! と言うことだぞ。

 今までの俺は色々なことをやってきた。
 リョク達を保護したり、ネイロ王国を運営から強奪したり、対立したプレイヤー達を殲滅したり……とかな。

 だがそれでも、その後の衣食住ぐらいはどうにかした。
 それ以上は俺が干渉すると逆に悪くなりそうだからやってはいないが、行った政策を後から本として読んで、改善点を上げるぐらいのことはやっているぞ。


 何が言いたいのかというと――他人を踏み躙るやり方は、俺の性に合わないということだな。

 だから偽善者らしく、ネロマンテの道を改めさせる……例えそれが、ネロマンテにとって価値観が引っくり返るようなことであろうともな。


「――"縛れ、グレイプニル"」


 それを行うには、最終勧告とやらが必要だしな。
 俺はグレイプニルでネロマンテを縛ってから、必要そうなものを準備し始めた。



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