AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『不死魔王』 その05



 ――っと、そんなワケで戦っているんだけど……全然やる気が湧かないんだよな~。
 相手が相手だし――

ゾンビヒーロー ???
??? ???
??? ???

ゾンビソードマスター ???
??? ???
??? ???

ゾンビセイント ???
??? ???
??? ???

ゾンビセージ ???
??? ???
??? ???

 ――ガーを吹いた時に殆どの(神氣)を使用してしまった為、詳細な鑑定を行うことができなかった。
 だが、これを見るだけでも分かるように、俺の相手をしているゾンビさん達は元々凄い人達だったみたいだ。

 まず、装備が凄そう。
 少しくすんではいるが、かつて強大な力を持ってそうな武具達。
 普通の(鑑定眼)だと無効化され、見ることはできなかった。

 次に容姿……うん、マジ美男美女。
 これが、主人公系リア充の底力かと痛感したよ。
 髪の色は少し全員バラバラだが、ゾンビ化の弊害か少し闇色が混ざっている。
 目は完全に死んでおり、瞳が映しているのは闇だけだな。
 だが、そんな状態でも美しいと言わせるようなオーラを持っているのだ。
 くっ、完全に負けた気分だよ。

 ……が、俺がやる気にならないのには別の理由がある。
 それが――


『……タオシテ……クダサイ……』

『…………』

『ドウカ……タオシテクダサイ』

『……ヤッチャッテ……』


 さっきから、聞こえちゃうんだよな~、そのゾンビさん達の声が。
 その現象は、(複眼)によって同時に発動している神眼――(死霊眼)の影響だ。
 相手が死者ということで、どんな風に視えるのかを試してみたくて使ったのだが……正直、後悔している。

 だって、ずっとこんな感じなんだもん。
 先程から剣を打ち合わせているゾンビソードマスターさんは無言だが、それでも殺してくれという意思を、剣を通じて伝えてくるしさ……。

 ――こんな相手を、貴方はなんとかしてやろうと思いませんか?

 そう決断した俺は、ゾンビソードマスターさん――面倒だし、みんな後半の部分だけでいっか……ソードさんをヒーローさんの方に蹴り飛ばし、グレイプニルを放って同時に縛り上げる。
 それと一緒に、残った二人を"絶魔結界"で封印しておく。

 これで邪魔者はいなくなった。
 俺は、ネロマンテと話すことにする。


「なぁ、ネロマンテ。このゾンビ達って……どうやって用意したんだっけ」

『……先程説明してやったのに、もう忘れたのか。こやつらは吾を殺しに来たある国の刺客なのだ。あまりにも良い輝きを持っておったからゾンビ化させてな、以降こうして使っておるのだ』

「なぁ、お前を魂魄をどうしたいんだ? それにどうしてその研究に他の奴らを巻き込んだんだ? 追い返すだけでも良かっただろうに……」

『……? 何をいっておるのだ? 研究には犠牲は不可避だろう。全ては吾の目的を大成させる為に必要なことだ』

「……具体的に言え」

『何を怒っているのだ……まぁ良い。吾の目的は、吾の魂魄を転生に耐えうる器にまで強化することだ。転生は死と共に訪れ、今までの経験全てを忘却して逝く物だ……吾もいずれは死ぬであろう。諸行無常、世に変わらないものは絶対に無いのだからな。その時の為にも、吾は魂魄を強くするのだ。だからこそメルス、お前の持つという(魂魄強化)は吾にとっての希望なのだ。それを高めていった先に、吾の求める物が見つかるかもしれん!』

「(話が面倒だな。よく分からんが……グー、つまりネロマンテは何て言ってるんだ?)」


 俺は今まで黙っていてくれたグーに纏めて貰うことにした。

 基本的に頼むまでは、自分だけで何とかしてみようという意志を眷属達は知識から理解している。
 だからこそ、今の今まで戦闘中に眷属達から念話が来ることが無かったのだ。

 ――おっと、グー先生のお返事が来た。


《要するに、魂を強くしたいみたいだね……やれやれ、魂は器を大きくするだけじゃなくて、器そのものの強度――質を高めなければ意味が無いというのに》

「(……つまりネロマンテは、このままだと失敗するのか?)」

《恐らくはね。マスターは、彼をどうする気なんだい? 彼を倒せば、そこにいるゾンビ達は魂を星辰世界に送られて転生させられると思うけど……マスターはそんなありふれた未来、望んでないよね?》


 あぁ、そんなの決まってるだろう。


「ネロマンテ。俺は、お前に一つ言いたいことができた」

『ん? 言ってみろ』

「お前の言いたいことの意味はあんまり分からなかったが、それでもお前をそのままにしていたら不幸になる者を見つけた。だから俺は――お前を止めることにした」

『ほう、不幸になる者とな。ここにいるゾンビ達のことか?』

「彼らそうだ」

『……も? ならお前の言う者とは、一体誰なのだ』


 何か怒ってますね、そんなに不正解だったのが気に入らなかったのか?
 俺はそんな不幸になる奴を指でピッと指して教えてやった。


「――それはお前だ、ネロマンテ」

『……吾が? メルス、冗談なら止めておいた方が身の為だぞ? お前が今生きていられるのは、お前の持つ(魂魄強化)というスキルのお蔭だ。あまり調子に乗っているならば吾直々にお前を物言わぬ傀儡にしてやっても良いのだぞ』


 ネロマンテの意思は本当なのだろう、目の奥の炎がより一層激しく燃えているように見えるな。


「……そうか、なら彼らはお前には必要ないよな」

『どうするつもりだ』

「なーに、ちょっと見てれば分かるさ」


 俺はドゥルに出して貰った剣を構え、再びゾンビさん達の元へ向かう。


「ちょっと苦しいかもしれないが、我慢してくれよ」


 俺は剣で注意を惹きつけたその瞬間に、"天魔の創糸"をゾンビさん達に繋ぎ、邪霊属性の魔素を流し込んでいく。


『……こ、これは! 吾の支配が解除されている……ッ!!』


 ネロマンテが闇系の魔力でゾンビさんを操作していたのは(死霊眼)で見た時に分かっていた。
 なので、アンデッド系に特化した【邪霊魔法】の力を流し込むことで、見事奪取に成功したのだ……え、剣はって?
 ハハハ、細かいことはまぁ気にするな。


「悪いな、せめてこいつらだけでも救ってやりたくてな。貰って行くぞ」


 俺は(夢現空間)を開き、ゾンビさん達を仕舞っていく。
 グーには他の眷属達に闇の間に置いておいて貰えるように指示してあるし、とりあえずは大丈夫だろう。


『フンッ、まぁ良い。お前というサンプルがあればアイツら等いなくても問題無い』

「……やっぱり、お前には教えた方が良いかもな」

『吾が教えて貰うことなど無いだろう』

「いいや、教えてやるよ。お前に、他の人に向ける優しさっていうものをなっ!!」

『何を言うと思えば……良いだろう、吾直々にお前の立場というものを教えてやろう』


 そう言ってネロマンテは、今まで被っていた黒ローブを外す。


「……なるほど、骨王スケルトンキングか」

『違う、吾は呪骨王カースキングだ』


 確かに、ただの骨と違いネロマンテの骨の色は黒い……というか呪われたような色をしている。だから呪骨王なのだろうか。


「ま、良いか。お前が何者であろうと、俺がお前を止めるのには関係無い。とりあえずフルボッコにするから覚悟しておけ」

『……フッ、やれるものならやってみろ!』


 闇色のオーラを纏った掌をこちらに向けながら、ネロマンテがそう言ってくる。
 ならば、こちらも――


「ドゥル、イニジオンをくれ」

《仰せのままに、我が王。剣を回収し、"神銃イニジオン"を転送します》


 俺の手に、何柱もの神の加護を授かった闇色の狙撃銃が出現する。
 さ~て神様、{他力本願}なわけだが……どうか力を貸してくださいな。


 そんなことを考えながら、俺はネロマンテに銃口を向けて弾丸を放っていく。



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