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山田 武

偽善者と浴室



浴室

 カポーン

 良く漫画などで見る事のある擬音語だが、夢現空間にある浴室ではそれを実際に聞くことができる……鹿威ししおどしがあるからな。
 浴室は、俺の所持する魔法数によって設備が増える部屋である。
 俺がこのスキルを入手した時に所持していた魔法の数は約80個。
 ――それがどれだけの設備を俺達に齎したと思うか?

 大浴場と呼べるような大きな風呂は勿論、蒸し風呂や水風呂、電気風呂や泡風呂等々、ありとあらゆる風呂が存在している……風呂の勇者も、風呂だけなら顔負けの凄さだ。

 しかし、そんな浴室には一つ問題がある。
 ――それは、男女で分かれていないという点だ。

 入る者の大きさは全然問題無いんだよ。
 実際、ブルーラグーン(地球最大の露天風呂)並みの広さを持つ場所もあるのだから。

 だが、そんな場所も一つしか存在しない。
 クエラムは別として、俺の眷属には男が一人もいない。
 今まで何度か一緒に入ろうと言われてきたが、そんな女性だらけのパラダイスに入る訳にはいかないので必死に断って来た……のだが――


『ティルちゃんって、スタイル良いね』

『え? そ、そうかしら』

『……【神呪魔法】を……』

『リー、深呼吸して』

『……グー、洗って』

『了解したよ、先輩』


 現在、俺はそんな花園の中に入っている。
 最強ゲーマーの兄ですら、中には入ったことが無いその空間は、健全とは言い難い、男心を擽るものでいっぱいであった。
 だが、俺もそれを眺めているだけではいられない――


『――さっ、メル様の体を洗いましょう』

「……やっ、自分でできる」


 アンにそんなことを言われたいるのだ。
 そう、彼もできなかった女性化を可能にしてしまった俺は、第一関門――洗いっこにぶち当たっていた。


『いいえ、自分で行っていては分からない洗い残しがあるかもしれません。しかも、今回はいつもとは違う肉体です。ですのでわたし達に任せてはくれませんか』

「……ぃゃ(フルフル)」

『……くっ、なんという破壊力。ですが、今回は従って貰いますよ』


 普通に従って欲しいなら、まずその男が良くやる怪しい手つきを止めなさい。


「……今回だけだからね」

『ふっふっふっ、わたしのテクニックに溺れること間違い無しですよ』

「……それは無理だと思うけど」


 ハァ、どうしてこうなったんだっけ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『――一緒に浴室に入って貰います』

「嫌ッ!!」

『却下します。今のメル様にそれを断る資格はありません。それに……メル様の今の状態が刑であることを忘れないでくださいね』

「クッ……殺せ……ッ!!」


 アンの提案を必死に突っぱねようとしているのだが、それは全く意味を成さなかった。
 せめてもの抗いに姫騎士のセリフを言ってみたが、このセリフはティルしか使えないしな~(リアは剣持ってないし……姫だけど却下だな)。


『自身でも分かっていると思いますが、それはあのティル様しか使えませんよ。今までわたし達の誘いを拒んできたんですから、同性の時ぐらい一緒に入ってください』

「で、でも……」

『お願いします』


 アンの目はいつも通りハイライトが無かったが、それでも真剣なことは分かった。


「……ハァ、今回だけだよ」

『ありがとうございます……では、早速行きましょうか。大丈夫です、皆様既に揃っていますから』

「安心できる要素が無いんだけど」


 そして、俺は浴室まで連れて逝かれた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『どうでしたか?』

「うん、良かったよ……手付きだけは全く変わらなかったけどね」

 しかし残念、触覚を遮断する魔法を体内で仕込んでいたので問題無かったのだ。
 ……眷属達の前で喘ぐだなんて、俺は絶対に嫌だしな。


『そうでしたか……では、わたしも洗って貰えませんか?』

「まぁ、洗って貰ったし……女の子はそういうものなの?」

『えぇ、洗ってくれた相手も洗う。まさに洗いっ娘ですね』

「……上手くないと思うな」


 そんな会話をしながらも、浴室に備え付けられていたボディーソープをスポンジに付けてアンを洗おうとするのだが――


『……何をやっているのですか? メル様』

「え? 何って、体を洗う為にボディーソープの準備だけど……」


 手順を間違えたのかな?
 と考えていたんだけど――


『――メル様、洗いっこは手で行うものですよ。スポンジ越しなんて変なことは止めてください』

「……いや、騙されないからね。さっきアンもスポンジ使っていたよね?」

『――チッ。メル様、洗いっこは手で行うものですよ』

「いや、聞こえてたから。二回言っても意見は変わらないよ」

『……スポンジで良いです』


 全く、油断も隙も無いな。
 俺はスポンジに泡を馴染ませてから、アンの体を洗い始める。


『……お、お上手ですよ、んっ、メル様』

「止めてくれない? 少し色を持った声を出すのは」


 まったく、おれがなにをしたっていうんだろうか。どうせいとして、じっくりていねいに、かみのてをつかってあらってあげているだけじゃないか。
 たとえ、すぽんじごしであろうと――

『そ、そう、言われましても、んあっ、メ、メル様の、あ、洗い方が――っ……』

「…………」

『ひぁっ! ご、ごめんなさい……っ、こ、このような、あの、こ、ことを頼んで……んうぅっ……しまって……ぇえ!』

「…………」


 アンの嬌声は可愛いな~。
 そんな場違いな考えをながらも、俺は目を紫色・・に輝かせながら、アンを洗い続ける。


「えーっと……うん、良いんだよ、別に」

『~~~~~ッ!!』


 さっきまで遠慮していた場所を洗い始めると、アンは遂に声を上げられなくなったみたいだ。
 床にペタンと脚を付けて、息絶え絶えの状態になっているよ。

 ……フッ、お子様だな。
 だが、まだまだ洗い残しがあるからな。


「――ふぅ、これで終わ……り……」


 そして、浴室のタイルでピクピクしているアンを綺麗にし終ったので、お風呂巡りをしようと思っていた俺の前に――


『……洗って』

『先輩は僕が洗ったばかりですよ。……マスター、僕を洗ってくれないかい?』

『おじょうさま、ぼくも洗って!』

『ぼ、僕も洗ってくれませんか?』

『メル、私も洗ってください!!』

『メル、私も』


 ――他にも女性陣が洗ってコールをしてくる……って、全員じゃないか。


 結局俺が浴室を出たのは、眷属達が全員へたり込んでからであった。



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