AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『魔獣之王』 その06



「――と言うことがあって、俺はここに来たと言うわけなんだ。分かったか?」

『メルスも大変だったのだな。突然見知らぬ場所に飛ばされるなど……』

「いや? 全然。眷属がいたから困ることが全然無かったし、スキルのごり押しで野生の魔物もなんとかなった。非常時の為に色々と準備をしておいたから衣食住も困らなかったし――本当に大変でも辛くも無かったぞ」

『……そうなのか』


 話は俺が何故ここにいるかと言うことだ。
 魔獣さんは俺がAFOを始めてからの話を聴いて、そんな感想を持ったらしいが――本当に大変でもなんでもなかったんだよ。
 むしろ、この島にいる強者の方が苦労していると思う。
 スキルの所為で飛ばされたユラルや、クソ神の無駄な干渉の所為で長い時間眠っていたリア。そして肉体を弄られてその国の道具として酷使させられた魔獣さん。
 色々と問題を抱えた人達が多くないか?
 俺の力では表面上でしか救うことができないと思うから、最終的にどうするかは本人達の意思次第なのだが……偽善者な俺は、できるだけそういった奴らに関わりたいと思っている。
 本当の主人公みたいな奴は、アフターケアまで込みで人々を救うことができるのだろうが、俺にできるのはそんな主人公様に憧れ、足掻き、悪意から一部の被害者の運命を奪って保護することであり、これ以上は無理だ。
 ……俺と主人公達の違いってのは、覚悟なのかな? 他人の運命はそんな風に簡単に関わって良いものでは無い筈だ。主人公達はそれぞれの覚悟を持って様々な人に関わっていく。一方俺は、大した覚悟も持たず、なんとなくでそれを行っている。元々流されて生きるタイプだったからか、そういったことを考える機会すら今までなかった。

 ま、明確な目的の無い偽善心だけで今まで行動をしていたが、命を捧げて民を救おうとした者と会えば、何かが変わるかな?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……それじゃあ、始めるか」


 目の前には、一つの人形が置かれている。 これは"機巧乙女"を創る前に作成した、受肉用の神器である。
 作成完了した後に鑑定をしてみると、受肉は可能なのだが、武具が完全に人形と同化してしまい再使用不可という問題があった為、使うことは無かった。
 これを使えば鎖に身を捧げた人――鎖さんが再び肉体を取り戻すことができるだろう。


 魔獣さんから外した"封魔の血鎖"を人形に入れると、吸い込まれるように鎖は中に入っていった。……本来なら、受肉するのにかなりの時間が必要になるのだが、魔獣さんの不安を取り除く為――少々張り切ってみた。

(――"時空加速")

 人形の周りを結界で覆ってからこの魔法を発動させ、時間を早回しにする。だけど、これではまだ足りない。天魔の創糸を人形に繋げて、自身が扱える(神氣)の最大量を注いでいく。
 リーが前に言っていた。
 経験値を自分達に回すことによって自身らの覚醒を促したと。
 それを応用すればあらゆるものの完成を早めることができるのでは? そんなことを昔確かめていたら……その検証は成功した。
 腐敗や促進などのスキルを使うことで、料理や耕作関連のことがすぐにできたんだ(料理は時間の掛かる工程を省け、耕作はすぐに植物が採取可能な状態まで育った)。
 本来ならその状況に応じたスキルを使わなければいけないのだが、(神氣)を使うとどんな物であろうと、すぐに効果が現れた……さすが権能スキルである。
 デメリットがあるとすれば、品質が急上昇し、販売できないような代物になってしまうことだけである。元々RANKはB以上で固定されているし、気にすることじゃ無い。


閑話休題生産チートか?


 糸から流れていく神氣の量はかなりのもので、俺自身が事前に創れる量を軽く超えていた。なのでMPやAPを変換して代用しているのだが……既に三割を切っている。


『――む、人形が光り出したぞ』


 魔獣さんが言った通り、神氣を注いでいても何も変わらなかった筈の人形が、少しずつ光り始めた。


「う~ん、そろそろかな? 魔獣さん、心の準備はできてるか?」

『勿論……とは言えないがとりあえずは』

「少しでもできていれば充分だ」


 魔獣さんの方の準備はできているみたいだし、ご対面といくとしますか。
 籠める神氣の濃度を高めたり(ただ注ぐ量を増やしただけだが)、"時空加速"の速度を速めたりして完了を急ぐ。

 ドクンッ

 そして、何度も聞いた音が聞こえる。その音を聞くと、発動させていたスキルを解除して、かつて何度も経験したあの瞬間が来るを見守った。

 ドクンッ

 その音を聞くたびに思う。
 もし、鎖さんがこうなることを望んでいなかったらどうしようかと。
 俺は鎖さんの都合も知らないで、勝手に眠りから覚まそうとしているのだから。
 これをリアが聞いたら怒るんだろうな。
 『ぼくを起こしたメルスがそれを言うのかい?』ってな。

 ドク……ピシッ

 それでも、魔獣さんが過去を知る為に、今の俺が取れる方法はこれしか無いのだ。
 魔獣さんの過去を知る為に、識る者の意志も考えずに行動する――そんな方法しか。

 ピシピシッ

 人形の罅が割れ、その中から鎖さんだと思われる人が出てくる。


『…………』


 さて、いつも通りに行うとするか。
 俺は人形から出てきた人物に、そっと服を差し出した。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品