AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と魔法練習 その後



SIDE アン
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 少々時間が掛かってしまいました。
 わたし達はメルス様の要望のスキルを創り出す為、念話による会議を行っていました。
 そして、会議によって出たアイデアを最適化した物をスキル化しました。
 ……ですが、今回はLvMAXのスキルが多いのと、作成に複雑な条件を有する物が多かったのが相まって、今まで以上に時間が掛かってしまいました。
 メルス様は、修練場でわたしからの念話による連絡を待っていると思うのですが、今回は折角ですので直接ご報告をしようと思っています……ご褒美もありそうですしね。
 修練場に他の人がいないのはさっきの会議で確認済み。わたしがどれだけご褒美を貰おうと、誰も気付くことはありません。

 コンコン

「……おや、返事がありませんね?」


 メルス様の返事が無い時は良くあります。
 基本的に、何かに没頭している時のメルス様は周りの音を完全にシャットアウトしています。念話で声を掛けても、全く反応をせずに、反応してくれるのはいつも何かを行った後だけです。
 耳の近くで何度も声を掛けるとその内反応してくれるそうですが、少なくとも一回で反応してくれる姿を見たことのある人は一人もいません。


「……仕方ありませんね。これはメルス様の耳元で優しく声を掛けなければなりません。……えぇ、これは仕方の無いことです」


 わたしは、自分を弁護する言葉を呟きながら、扉に設置されている掌を翳す所に魔力を通して扉を開けます(夢現空間にある扉は、魔力識別で開けることができます)。

 ――そこで、わたしは目を疑う景色を見ることになりました。


「メルス様、入ります……よ……」


 わたしはその光景に絶句しました。


 龍,死霊,地割れ,天使,毒,蟲,水,雷,岩,木,悪魔,氷,動物,炎,鋼人形,罅,妖精。
 他にも様々な物が存在して、正に混沌と呼べるような空間がそこにはありました。
 そして――


「――メルス様ッ!?」


 そんな混沌とした空間の中心で、メルス様は魔法を発動させ続けながら血溜まりの中で仰向けに倒れていました。
 慌ててメルス様の元に駆け寄り、その姿をしっかりと確認してみると、出血は鼻からのみで、それ以外の所から出血していなかったので安心しました。
 ……ですが、どうしてこんなことに。
 わたしは、とりあえずメルス様に(情報解析)を掛けて、こうなった原因を確かめました。


 原因は、魔法の同時発動による脳の限界を超えた思考演算にありました。
 どうやらメルス様は大量の魔法を同時に発動させる為に、ただでさえ脳にダメージを与える(並列思考)と(高速思考)を発動させながら、【思考詠唱】で魔法を発動させていたらしいのです。
 その上に<多重魔法>と(並列行動)も行っていたようなので、最初の三つまででしたら耐えられていた脳の限界を、軽く超えた活動を強いていました。

 本来なら魔力や血、脳の神経が焼き切れる時点で終わる筈であったこの惨劇なのですが……皮肉にも、わたしが創ったスキルである【自己再成】と(肉体制御)によって、こんな状態でも意志だけで魔法を発動させ続けていたと解りました。

 メルス様はどうしてここまでして魔法を発動し続けているのでしょうか。


「……いえ、今は考えるより止める方が先決です。メルス様、もうお止めください!!」


 わたしは当初の予定とは異なり、声を上げてメルス様の意識を取り戻そうとします。
 しかし、声を上げて反応をしてくれていたのはあくまで生産をしていた時。血を流し続けてまで、魔法を発動させ続けている今とは状況が違います。


「メルス様、メルス様! 幾ら【自己再成】で回復できるといっても、限界はあるんですよ!」


 それでも、わたしは叫び続けます。そうしなければ、気付くことすらできないから。

 【自己再成】は氣力を消費して発動する"肉体再成"と受動的に発動する"超速再生"によって構成されています。現在のメルス様は"超速再生"で集めたAPを消費して、"肉体再成"を発動することで現状を保っています……ですが"肉体再成"に必要なAPは、集めたAPだけでは足りません。
 APが尽きると言うことは、体の中に廻る生命の力が失われることを意味します。APが失われたら次はHPが代理で消費され、最終的にプレイヤーは死に戻りすることになります……ですが、今のメルス様はどうなるか分かりません……何としても止めなくては!

 わたしはメルス様の種族[不明]がメルス様によって意思を持った存在です。ですから、メルス様の種族スキルをある程度制御できます。……(適応)発動! メルス様の肉体をこの状況に対応できるように――。


SIDE OUT


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(適応)が発動されました

メルスの身体的異常を確認

血液が不要な体を作成します

"収納空間"に該当生物を確認

因子を解析……成功しました

(因子注入)を発動し、該当生物――スライムに肉体を改変……成功しました

――上位存在"アン"よりの要請を受託
要望のスキルの製作を試みます




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???


『…………』


 俺は一体何をしていたのだろうか。
 見渡す限りの真っ暗な世界で俺はそれを考える。確か、魔法の多重展開の限界を試そうとしていた筈なんだが……。


『…………ッ!』


 遠くから、誰かを呼んでいる声がする。
 だけど、俺ではないのだろう。俺を必要としてくれるような者など、誰もいないだろうしな。


『……ルス様ッ!!』


 だが――もし、俺を必要としてくれる者がいるならば……。俺が今までに行ってきたことは、彼女達にとっても、自分にとっても価値を見出す為の、機会になったのかな?


『起きてください、メルス様ッ!!』


 はいはい、今起きますよ。まったく、どうしてそんなに声を張り上げているんだか。
 真っ暗だった世界には、いつの間にか扉が出来ていた。俺はその扉を力強く押し、真っ白な光の先へと進んでいった。



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