AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『永劫の眠り姫』 その05



 結論から言うと、俺は彼女自身に起きて貰うことにした。いや、それ以外に起きる方法が書いて無かったし、童話通りに起こす気も無かったので(誰が会ったばかりの合法女子にこっちからキスをするって言うんだ。できる訳無いだろう。恥ずかしい)、彼女の精神世界に入ってそこで彼女に起きるよう、説得をしてみることにしたのだ。

 やり方はいたって簡単だ。
 まず、彼女の体ギリギリの所に<夢現空間>の入り口を創ります(扉を創る為に、彼女の近くまで一度戻って<夢現空間>を発動させたのだが、いつ茨が動くのかビクビクして、かなり怖かった)。
 次に夢現空間越しに手を伸ばし、グーが教えてくれた(禁書魔法)"精神侵入"を使い、彼女の夢の中に潜ります。
 そして彼女を説得して脱出、無事完了! ……と思っていた時期が私にもありました。


『答えはNOだよ』


 夢の世界で見つけた彼女は、そりゃもう、宝塚顔負けのイケメンフェイスでそう俺に告げてきた……しかも男装で。
 彼女と話をしてみると、俺が聞いたことのある『茨姫』と同じような話であった。それから彼女と状況の摺り合わせをしてから、自分から目覚める様に説得した途端に言われた言葉が、これであった(彼女が眠った後の話は断言ができない為、言うのは止めた)。
 俺は少し、こめかみをピクピクしながら説得を続ける。


「……ははは、ご冗談を。貴方今、すっごく眠ってますよ。大体100年ぐらい。父上や母上に会いたくないのですか?」

『う~ん、そう言われると少し悩むところもあるけど……パパとママが生きてるって保障ないよね?』

「…………」

『やっぱりね。ならぼくにわざわざ現実を見る必要は無い。だってここなら――』


 そう言って、彼女が指を鳴らすと、先程まで真っ白だった空間は、いつの間にか夢に入る前に居た部屋(眠りの間だったっけ?童話的には)に切り替わっていた。違う所を挙げるとすれば、茨が無く、城が古くないという所だろう。


『ぼくだって、伊達に長い時間を眠っていた訳じゃ無いからね。夢のコントロールぐらいできるようになるさ。この中なら、ぼくは何だってできる。パパやママと一緒にいることだってできるし、冒険をすることもできる』

「…………」

『だからぼくはこの世界から出ないよ。悪いけど、君にはここから出て行って貰うよ』


 彼女が再び指を鳴らすと、突然、前方から強い風でも吹いたかのように、俺の体が飛ばされそうになる。彼女の言葉からして、吹き飛ばされたら、俺はまた茨と揉めなきゃいけないんだろうなぁ。
 そんなことを思いながらも必死に抵抗していると……。


『あれ、どうして飛ばされないんだい?』

「私は侵略者ですから。目標を達成するまでは、ここから出る訳にはいかないのですよ」

『そうかい、ならもう少し強くしてみるか』


 そんな、虫を追い払うかのような口調で言われた一言で、俺を追い出そうとする力はより一層強くなっていく。……さすがにヤバくなってきたな。俺は困った時の正義の味方へと、助けを求める。


(「助けて、アン!」)

《私はパンでもマンでもありませんよ。
……とりあえず、精神攻撃に対応できるようにすれば良いのですか?》

(「あぁ、そんな感じだ」)

《分かりました。――(適応)を発動します》


 ……書き換えるんだ、この状態に耐えられる体に。俺の頭の中では、血とか細胞とかに電気っぽい物が走って、最終的に魔法陣的な何かが割れるイメージを浮かばせていた。


《あながち間違ってませんけど、別にそんなエフェクトはついてませんよ。書き換えているのは否定しませんけど。……書き換え完了しましたよ。スキルの説明は後にしますが、とりあえず飛ばされないようにしました》

(「あの、まだキツイんですけど」)

《最初はLv1ですからね、LvUPするまで耐えてください》


 アンがそう言ったように、最初はキツかった圧力がだんだんと弱まって来た。彼女も楽にし始める俺に気付いたのかなんとか追い出そうとするが、Lvが上がった後の俺にやるには少し遅かった。


『…………い?』

(「なぁアン、それで結局どんなスキルを創ったんだ?」)

《今回創ったスキルは(心意強化)です》

(「……何、そのSA○みたいな能力。遂に武器の記憶を呼び起こせるようになるの?」)

『…………るかい?』

《それは別で創っておきましょう。……単純に言うと、意思の力が強くなります。似たようなスキルである(精神強化)が外部に強くなるのならば、(心意強化)は内面を強くするものです》

(「ちぇー。マントで翼の生成とか、斬撃の射程距離を強化したりしたかったのに」)

《ですから、後で用意しますから。……それにメルス様は飛べるじゃありませんか》

(「あ、それもそ『いい加減に聞き給え!』……ハァ、いきなりどうしたんだ、彼女は」)

《いえ、わたし達が会話をしている最中も、どうやらメルス様に話しかけていたらしく》

(「あぁー。悪いことをしたな」)

《では、わたしはこれで》

(「おう。ありがとうな、アン」)


 さてと、アンとの念話も終わったし、彼女の方を何とかするか……と思ったのだが――


『……グスン』

「(うわー、面倒臭い……というか、メンタル弱いなー)」


 話を聞いて貰えず、声を上げて怒った筈なのに、それすらも聞いて貰えなかった彼女が泣いているのを見て、メルスは面倒だと感じた。……大半が自身の責任でもあるのに。


「(まぁ、仕方ないか。折角だ、彼女をあやすついでに、色々と試してみるか)」


 俺は彼女がやっていたように、指を鳴らして、空間を創りかえようとした。

 カスッ

 ……そんな寂しい音がしても、空間はしっかりと俺の意思を汲み取って景色を変えた。
 ……この世界は、マジ優しいっす。


『…………ここは?』

「ここは俺の居た世界、地球だ」


 見渡せば一面ビル、車、タワー――鋼鉄のジャングル日本に、俺はこの空間を移し換えた。


『ちきゅう? そんな所聞いたこと無いけど……そんな国ができたのかい?』

「国じゃない世界だ。それと、多分お前が生まれる前からずっと存在しているぞ。……見つけられなかっただけで」

『え? それって、どういうこ……』

「じゃあ、さっそく楽しむとしようか!」

『ちょっと、ちゃんと説明してよ!!』


 それから俺達は、地球をかなり楽しんでいた。



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