AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『永劫の眠り姫』 その06



『……にほんは凄い物ばかりあるね。てれびやげーむ、どれもこれも魔力を使わなくても動くなんて……』

「だから説明したろ、あれは全部機械と言って、電気を使っているんだって」

『(雷魔法)で代用できるかな?』

「あぁ、試してみたが可能だったぞ。……そのままだと回路が焼き切れるから、電力を弱める為の魔力回路が必要だったけどな」

『ハハハッ! その失敗した時の状況も見てみたかったな』

「……勘弁してくれ」

『ハハハハハハッ!』


 俺達は日本での道楽を楽しんだ後、再び最初に居た空間でこんな話をしていた。
 好奇心が高めだったらしいリアは、見たこともない物ばかりの日本で……めっちゃはっちゃけていた。


『ねぇ、あれは何だい? 馬もゴーレムもいないのに馬車が動いているんだけど』

『うぉっ! え、えっと……「メルスだ」メルス。箱の中に人が入っているじゃないか!』

『えぇい、クソ、メルス、何をやってるんだい! 君も早くアンデットを撃ってくれ!』

『……ふぅ、良い働きをしたね、ご褒美として、ぼくをリアと呼んでも良いよ』


 途中でゲームセンターに寄った時の反応が一番凄かった。ゾンビゲームの存在を説明すると、直ぐさま倒すといって俺を引っ張って行った。そして、ひとっしきり駆逐すると満足したのか、そのゲームセンターを後にした(その時、リアと呼んで良いと言われた)。


『……それで、ぼくをここに連れて来た理由はいったい何なんだい?まさか、観光とは言わないだろうね?』


 先程までの笑い声をピタッと止めたリアが訊いてくる。彼女の目は真剣な目をしていたので、俺もしっかりとした答えを告げた。


「実際そうだし、事実そうだ。俺はお前に俺の故郷のことを教えたかったから、日本を紹介したんだ」


 リアに夢にいるだけでは体験できない面白いこと――それも、異世界の様々な物を知れば、少しは心変わりをすると思ったのだが。


『ぼくは帰らないと言っただろう! 大体、メルスはどうしてそこまでぼくに関わろうとするんだい! ぼくはこの夢の世界で過ごしてきたんだ。……もう放っといてくれよ!!』


 怒らせてしまったみたいだな。
 リアは自身の周りに茨を創り出すと、それらを俺に向けて告げる――


『――どうやってメルスが強制排除に対抗しているかは知らないけど、この茨を使えばさすがに追い出せるよね?』

「おい、止めろ! その茨には魔女の――」

『――呪いが掛かってるんだよね? 自分の使うスキルだよ、なんとなく分かるよ。……目が覚めるのが遅くなるんだよね? 前に使った時に、自分の体がより深い眠りに沈んだように感じられたからね。……そうかい、その顔はやっぱりそうだったんだね。だけどね、その効果は好都合だ。ぼくはこの夢の世界に居たいんだ、メルスも追い出せるし眠れる時間も伸びる……一石二鳥じゃないか!だからメルス、ぼくを早く起こしたいなら、とっとと出ていって欲しい、な!!』


 な!! の部分で茨が振るわれ、俺へと襲い掛かって来る。俺はスキルを使い、それを回避しながら会話を続ける。


「クッ! どうせ、俺が出て行ったって、後、で勝手に、使うん、だろう!!」

『もちろん、メルスが帰ったら、また日本にでも行く夢を見る事にするよ。今度は一人でゆっくりと観光するのも一興だ、よ!』


 茨は彼女の意思を汲み取るかのように、勢いを増して俺の死角を狙って向かって来る。
 ……今は(一般)スキルだけで躱せているけど、このままだと躱しきれなくなるかな? その前に説得をしたい所だ。……だけど、この腹のムズムズはなんなのだろうか。リアがうだうだ言っているのを聞くと、だんだんと強くなっている。
 そして遂に、茨を避けている間にムズムズが頭まで達した――


「……ふざけんじゃねぇ(ボソッ)」

『ん? 何か言ったかい?』

「ふざけんじゃねぇって言ってんだろうが!このバクテリアがぁ!!」

『何なんだいそのバクテリアというのは、それにメルス、目の色が赤色に……』

「んなことどうでも良いだろう! なぁおい、お前は本当に夢の中にいるだけで良いのか!」


 ――俺は頭の中で考えていたリアに言いたいことが、理性と言う枷が外れて洪水のように流れ出て行く。


「お前は俺が日本を案内した時、確かに楽しいと思っていたよな? 日本は凄いって言ってくれたよな? 俺が機械を作るのを失敗しているのを見たいって言ったよな?」

『そ、それと、これとは、別の話だろ「いいや、関係ある!!」……ッ!』


 嗚呼、俺は【憤怒】し怒っているのかもな。
 彼女に、彼女に呪いを掛けた魔女に、彼女の運命そのものに。


「本当にただこの世界に居たいだけなら、わざわざそんなこと言わなくても良いだろう!
 リア、お前はただの引き籠りだ。魔女の呪いを理由にただ逃げている臆病者だ。
 明晰夢なんて見られるんだから、お前は起きようと思えば起きれるだろ!
 なのに起きない、興味本位で自分が紡錘に触れたことで起きた、この展開に気付きたくないんだろう。『……れ』
 お前は好奇心の塊だ。だから日本も楽しめた。だから日本観光中に空間を戻すことも無かった。『…まれ』
 いい加減目を覚ませよ眠り姫。お前の世界を見ろy『黙れって言ってるだろうっ!!』」


 いつの間にか茨は消滅しており、俺の中のムズムズも消えていた。俺は一度深呼吸をしてから、荒い息を吐いているリアに話を語り続ける。


「……リア、俺と一緒に外に出ないか?」

『ぼ、ぼくにはこの世界がある。外だって、この景色を切り替えれば――』

「脳は体験した記憶を元に行動するように各機関を刺激するから、経験もなく知識もない全く無の状態から有を意識することはできない。夢も、それまでの体験・知識を元に、直接的・間接的に認識して、そのもの、あるいは違ったものに置き換えて物語をつくり夢となるんだ。……リア、お前の夢はこの国から出ることはできるのか?」

『……ッ!!』

「つまりお前の夢は、お前が眠る前の15年に行動した範囲で経験したことからしか再現できない。できたとしても、物語の中の話が限界だろう……違うか?」


 そう、彼女が夢を自在に操れるとしても、それは記憶の再現と転写しかない。最初にリアが指を鳴らした時に出来た過去の城、スキルで周りを調べると、国の周りは真っ白な空間になっていた。夢は夢でしかない。それは地球でも異世界でも変わらないんだ。
 ここまでの考察をリアに言うと、リアは少し間を空けてから口を開く。


『……その通りだよ。ぼくはこの国から出ることはできないし、昔見た物語の絵の中に入ることしかできない。だけど、ぼくはそれで充分なんだ! ぼくが紡錘に触れた所為でこうなった眠りに、いきなり現れたメルスが何をしてくれるって言うんだ!!』


 リアは夢の牢獄に縛られている。
 本当は脆い筈の檻の格子を、リアは自責の念で硬い物へと作り変えている。
 なら俺が壊してやるよ、自責の念ごと全部丸ごとな!


「外に連れ出すって言ってるだろう!!」

『同じことを何度も言わせる気かい? ぼくはここから出る気は――』

「何度でも言ってやるよ、俺はお前を外へ連れ出す。そして、お前に見せるんだ。お前が見たことの無い景色や、お前が知らないような物。そして、お前が知っている筈のお前の父と母の愛情を。俺の世界の『茨姫』では、父と母はお前が寂しくならないようにって、自分達も永い眠りに就くんだぞ。俺はお前を会わせたいんだ、お前を待って今も眠っている父と母に!」

『だ、だけどパパとママがにほんの話みたいに待っているとは限らないじゃないか。もしぼくを待つこと無く普通に死んでいたら、ぼくはこの先、一体何を希望に生きればいいんだ!!』


 やっと吐露した彼女の思いほんね
 俺はそれを聞いて、口をにっこりとさせてから、リアに言う。


「それなら俺がずっと傍にいる。お前が何年寝ても一緒にいる。お前の希望が無くなったなら、俺がお前の【希望】になる」

『メルス……』

「だからリア、俺と一緒に外に行かないか? 色んな景色を見て、色んな知識を知る。そして、リアの父と母に会う為に」


 俺がそう聞くと、リアは俺に聞いてくる。


『本当に、一緒に居てくれるの?』

「あぁ、ずっと一緒だ」

『ぼくの、生きる希望になってくれるの?』

「あぁ、なってやるよ」

『そうかい……ならぼくも覚悟を決めるよ。
 メルス、ぼくは君と一緒にこの世界を出ることにするよ。偽りの世界ともお別れだ。メルスと一緒なら、良い夢が見れそうだしね』

「あぁ、見せ――」

 バリンッ!!

 「――てやるよ」と言おうとしたその時、空間が罅割れる音がして、そこから何かが現れた。


『少し時間は遅れたけど、おまえにはしっかりと死んで貰わないとね』


 それは、黒いローブを身に纏った老婆だった。……恐らく、こいつが呪いを掛けた魔女なのだろう。


『運命神様から言われた通りだよ。まさか、今更こいつを起こそうとする様な王子様が現れるなんてね』

「俺は王子様には向いてないよ。俺が似合うのはせいぜい偽善者ぐらいだ」

『ヒッヒッヒ、そうかもしれないね。甘い誘惑で希望を持たせても、あんたはこいつを守り抜けないまま、死ぬんだからね!!』


 老婆の体がミシミシと鳴ると共に、体が異形の物へと作り変わっていく。
 そして、音が止む頃には、老婆は巨大な黒龍へと、姿を変えていた。……というか、今運命神って言わなかったか? 本当に碌なことしないな。でも、魔女を倒せば呪いを解除できるんだよな。倒せれば呪いも外せるんじゃないかな?


『メルス、どうするの?』

「う~ん、とりあえず試してみるから、少し下がっていてくれ」

『……うん、分かった』


 リアは俺がそう言うと、少し躊躇ってから後ろに下がった。
 さ~て、俺は王子様では無いけれど、お姫様の為にやってやるか、龍退治!!



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