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山田 武

偽善者なしのエンヴィーサーペント戦 その03



(とある鬼人王の体験記)


「ふむ、フーラとフーリも終わらせたのか。
 ならば、我もそろそろ始めるとするかな」


 我は先程から"鬼人王の威圧"で動きを止めていた蛇を相手に、そんなことを呟く。
 我は先程まで、同胞達の様子を確認していた為、少し倒し始めるのが遅れてしまった。
 ……速さを競っている訳では無いが、速く終わらせれば、我が主の元に疾く駆けつけることができる。急がぬ理由が無いだろう。
 そう考えた我は、主から授かった呪剣が【忠誠】によって進化したこの武具――忠誠剣"白牙"を構える。


「しかし……この体で実戦をするのは初めてだな。上手くいくかどうか」


 我が主の為と考え、肉体を女性に作り変えたのだが、この体で主様に統治されていない魔物との戦いをするのは初めてだ。普段の生活では、肩が重くなるなどの支障はあったのだが……主がこの姿を見た時胸をちらりと、それでいながらじっくりと見ていたので、それぐらいのことは些細なことだ。
 ……むしろ、揉んで貰っても構わなかったのだがな。
 とにかく、女になってできたこの胸が戦闘にどう影響するか、まだ分からない。まずは今まで通りに戦えるかを確かめてみるか。


「ではまずは……"鬼脚"」


 我は(鬼氣)を足に集中させて、蛇の周りをグルグルと回ってみる。――やはり胸の所為か、今までより速く走れない。(体幹)である程度バランスは取れているのだが……さて、どうする。
 何か良いスキルが無いか主のスキルの中を探してみる。……これは使えるのではないか?


「おぉー! さすが主のスキルだ」


 我がつい口で出してしまうぐらい、驚きの変化だった。
 主のスキルを共有させて頂いた途端、揺れていた我の胸は一瞬でいつものようになり、揺れが治まったのだ。
 さすが主のスキル――(肉体制御)だ。
 (体幹)を成長させるだけでは、おそらくこのスキルに達することは無いだろう。確認する為に主に会わなければいけないな。……念話で聞くだけでは、もしかしたら聞き違いが起こるかもしれないし、直接会わなければならないな。
 ……うむ、これは会わなければならない。


 SHA、SHAAAAA!

 ほう、解除したとはいえ、もう威圧から脱するか。相手もそこまで弱いという訳では無いのだな。ならば、こちらもそろそろ攻撃に行くとしよう。


「そろそろ行くぞ、蛇よ」

 SHAAAAAAA!

「――"カースペイン"」


 (呪剣術)の武技であるこの技は、相手に一定確率で幻痛を与える。まずをこれを試す。


 SHIEAAAAAAAAAAAAAAA!

 おぉ、もがいているわ。まずは第一段階成功だな。……ここからは連続で行くか。


「――"カースポイズン""カースパラライズ""カースコンフューズ""カーススリープ""カースチャーム""カースパトリフィー"……」


 SHA……

 毒、麻痺、混乱、眠り、魅了、石化、あらゆる状態異常を纏った呪いの力が蛇に襲い掛かる。武器が聖属性を帯びようとm我の忠誠剣の系統は聖・呪武具である。つまり、聖属性の力と同様に呪属性の力も扱えるのだ。
 予めこの"カースペイイン"を使ったのはそれから行う状態異常に対する抵抗を下げる為だ。おかげで全てが成功し、苦しむ蛇は再び動きを止めた。
 ……そろそろ止めと行くか。


「良い練習相手であったぞ――"白キ牙"」


 そう言って振るった斬撃は、巨大なナニカの牙となって、蛇を噛み千切った。少しやりすぎてしまったのか、千切られた断面には、ギザギザな牙の跡が残ってしまった。


「……さて、我も主の元に向かうとするか」


 早めに説明をしなければ、主に怒られてしまう。それだけは避けなければ。
 我は先程以上の"鬼脚"を使い、主の元に駆け抜けていった。


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(とある御使いの体験記)


「皆さん、既に終わらせてしまいましたか」


 私は、神聖剣で蛇を遠くに弾き飛ばしながら考える。フェニさんに鍛えて貰ったおかげで、自力での(剣術)や(盾術)の習得はできた
のだが、大型の魔物との戦闘はまだ行ったことが無かったので、つい練習台として使っていて遅れてしまった。
 メルス様は、ゆっくりでもいいから安全にやってくれと仰ってましたが……このままでは、皆様だけがメルス様と触れ合ってしまいます。


「――ですので、そろそろ倒させていただきます」


 私は神聖剣を収納し、メルス様より頂いた新たな武器――天玉"セラフ"を取り出す。
 この武器はメルス様が用意した幾つかの武器に形を変える魔道具である。
 私は氣力を流してセラフを紅い意匠が施された剣――陽光剣"ウリエル"に変える。


 SHAAAAAAA!!

 弾き飛ばされていた蛇は、再びこちらに向かって這いよって来る。そんな様子を私は、白い御使いの翼を広げて、上空から眺める。
 ……本当ならメルス様と同じような翼が良いのですが、どうにかできないでしょうか。


 SHAAAAAAAAA!!

 上空にいる私にどうにか攻撃を届かせようと、蛇は長い胴体を上に向けて私に届かせようとするのですが……私はだいぶ高い所に居る為、その体は空しく地面にドシンッという音と共に叩きつけられます。


「では、これで終わりにしましょう――"懺悔の業火"」


 太陽に掲げたウリエルは、その光を吸収しているかのように激しく輝いていく。最終的には、第二の太陽と呼べるぐらい巨大に、そして輝いていました。
 メルス様も見ていてくださるでしょうか。……今は、敵に集中しなければ!


「ハアァァ!!」


 ブウゥンッ! SHAAAAAAAAAAAA!

 巨大な剣で切られた蛇は、一瞬で斬られた体には気付かず、体を這う熱の熱さに悲鳴を上げていた。
 そんな様子を見てから、私は炎を解除して蛇を楽にしてあげました。
 蛇は、突然消えた炎の苦しみに安堵を覚えてからそのまま意識が遠のいて逝ったでしょう。そのまま燃やしていては、燃え尽きてしまいますのでここで止めなければいけませんでした。……解体ができなくなってしまいますしね。


「では、私も行くとしましょう」

 メルス様は私達にとても優しく接してくれるのですが、中々会うことができません。
 勿論、用がある時は必ず来てくださるのですが、それでもメルス様に一度接すると……もっと触れ合いたいと感じさせてくれます。
 ですのでこういった機会は、メルス様と触れ合える滅多に無いチャンスなのです。


「待っててくださいメルス様。今行きます」


 私は翼をはためかせて……文字通り、メルス様の元へと飛んで行きました。



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