AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
04-32 撲滅イベント その10
俺たちとアイツ──ノゾムは、共に非リア充グループと戦い続ける。
アイツの支援魔法は素晴らしく、前衛も後衛も関係なく恩恵にあやかれるものだった。
特に俺はそれを味わったモノだ。
能力値は跳ね上がり、魔法の詠唱速度や性能なんかも軒並み上がっていたからな。
そんなこんなで死に戻りをさせ続けていくと、俺たちの獲得ポイントは全員が欲しかったアイテムを貰えるほどになっていた……これまでのイベントを参考にすればだが。
「やっぱり凄いなお前! いやー、いっしょにやってくれて助かるわ!」
「そう言ってもらえて何よりでした。皆さんの連携はとても上手く、しっかりとした絆が結ばれていることがよく分かりました……感謝していますよ、皆さんには」
リーダーとノゾムがそんな会話をしているのだが……俺はこのとき、ノゾムの発言に違和感を覚えた。
「おい、ノゾム。今……」
「カンタ、急にどうしたんだ? そんな張り詰めた雰囲気を出して」
「……なんで、過去形なんだ?」
「それぐらい、気にすんなよ! なぁ、ノゾム…………ノゾム?」
リーダーは最初、気にしていなかった様子だったが……俺、そしてノゾム本人の表情に気づいたようだ。
今の奴からは、これまでは潜めていた強い意思のようなものを感じる。
瞳もなんだか狂気染みた光を爛々とさせているし──別れの時か。
「カンタさんの仰る通り、これらはすべて過去の話です。皆さんのお陰で、単なる力押しではなくチームワークが大切だと学ぶことができました。その点に関しては、まずお礼を言っておきましょう」
「……まっ、分かっていたことだ。それで、お前は俺たちをどうするんだ? ──例の天使様のお告げを邪魔しないように、予め俺たちを殺しておくか?」
「「「──ッ!?」」」
俺以外のメンバーは、そのことを頭に入れていなかったのだろうか?
……いや、そうじゃない、単純にコイツがそれを忘れさせていたんだよな。
意識していないと、コイツへの警戒心が薄れる時が何度かあった。
薄れるというか……隠される感じだが、ともかくそれが逆に怪しむ理由になる。
何を企んでいるのかと思ったが、ノゾムは両手を上に挙げた。
まるでそれは、降参でもしているかのような振る舞いだ。
「ふざけているのか?」
「まさか。お礼代わりに返答するならば、私は皆さんを生かします。生きたうえで、見届けてください……私の解答を」
「どういうこと……って、おい! ちょっと待て──ぶぎゅっ!」
ノゾムはそれ以上何も答えず、この場から離れようとする。
追いかけようとするリーダーだが、その途中で急に動きを止めた。
パントマイムのように、まるでそこに壁があるような反応。
現実ならともかく、魔法のあるこの世界ならすぐに分かる──結界だ。
「せっかくですので、皆さんには安全な場を提供いたします。では、これから私には準備が必要とですので……少々お待ちください」
最後にそう告げて、ノゾムは消えた……おそらく転移系のスキルか魔法を使ったな。
これまではまったく使っていなかったのだが、やっぱりいろいろと隠していたのか。
「カンタ、なぁどうにかできないのか!?」
「……サツキに魔力の濃淡を視てもらって、薄い部分に一斉攻撃をすればあるいはってところか? まあ、アイツは対策をしているだろうから無駄だろうけど」
「その通りですね。この結界、ムラがいっさいありません。芸術的と言えるほどに均一な魔力で創られています……しかも、私たち全員の魔力を足しても足りないほどです」
すでに調べていたようだが、サツキが伝えたことは脱出不可能を確定させる内容だ。
結界で守ると言っていたので、これから行われるのはこれが無いと耐えられないこと。
「……絶対に壊すなよ。たとえ壊せても、俺たちが死に戻りして、欲しかった景品が貰えなくなるだけだ」
「け、けどよぉ!」
「それに、戻ってくるかもしれないだろ? 同じゲームをやってる仲間なんだ、永遠の別れってわけでもないだろう」
「……分かったよ」
リーダーの説得を終えて、しばらくは何もせず傍観することに徹する。
そして、それから起きたのだ──
『さぁ、祈念者の諸君。これより試練を始めよう──“英雄試練・怪力無双”』
圧倒的強者による蹂躙が。
……なお、俺たちは結界に投影された各地の映像を、ひたすら[スクリーンショット]や[ムービー]機能で撮影していました。
◆ □ ◆ □ ◆
突如現れたのは、巨大な山。
地上からは認識できない、雲を突き抜けるレベルで高い山だった。
それと同じくして、無数の魔法陣がイベントエリアの至る所に出現する。
多種多様、何がコンセプトなのかすぐには分からないラインナップ──
とても皮膚が堅そうな獅子。
九つの首を持つ紫の水蛇。
黄金の爪と青銅の蹄を持つ牝鹿。
獰猛かつ巨大な猪。
吐き気を催すほど汚れた牛。
翼・爪・嘴が青銅製の怪鳥たち。
血走った狂暴そうな、しかし奇麗な牡牛。
ビキニアーマーな美女たち。
陽炎のように熱で辺りを歪める赤い牛。
百の首を持つ茶色いドラゴン。
三つの首、獅子の鬣、竜の尾を持つ犬。
──同じような生物が二度、三度出たり、人も混ざっている気もするのだが……要するに、これは何かの再現。
「英雄の試練……怪力無双。現れた十二個の魔法陣……そういうことか」
「知っているのか、雷電!?」
「雷電言うな。むぅ……とか言ってねぇ。それに、どうせ説明してくれるだろう」
真面目に神話を勉強している、あるいは特殊な病気に罹ったことのあるものならば、分かることだろう。
残念ながら、うちのメンバーはリア充街道まっしぐらなメンツなので、そういったことには疎いんだよな。
『彼の英雄ヘラクレスは、この試練を乗り越え神へと至った! 相容れぬ者を滅ぼし、己が正義を貫く者たちよ! 俺こそがすべての張本人! 争いを生みだし、狙われし者!』
ヘラクレスの十二の試練。
心臓が十二個とか、バーサーカーとかで有名になっていそうな話だ。
その試練の内容こそが、今回ノゾムが用意した魔物たちによるもの。
すべてが戦闘というわけではないが、たしかに戦った神話も存在している。
というか、アイツだったのかよ……あの天使が本当にパートナーだったのか?
全然見合わないと思ったんだが……まあ、世の中にはいろんな趣味嗜好があるからな。
「……物凄い勢いで蹂躙しているな」
「俺たちが参加していたら、どうなってたんだろうな」
「普通に死に戻りしていたわよ。どれか一つでも、勝てるのかしら?」
サツキの言う通り、俺たちが挑んでも勝てないだろう。
だからこそ、人は徒党を組んで挑む……それでもなお、あの魔物に勝てずにいる。
支援職が強化し、強力な武技や魔法が試練の魔物たちに攻撃を放つ。
だがそれでも、ほんの僅かに皮膚を傷つけるだけ、もしくは完全に無効化されている。
「けど、やっぱりいるんだよな……強い奴も所々に」
「あっ、あれは分かるぞ! 『ユニーク』、最強のクランだろ!」
リーダーが当てた通り、とある場所では有名な最強クランが無双していた。
彼らが相対するのは百の首を持つ茶色のドラゴン──怪物ラドン。
黄金の林檎を守護し、現在の『りゅう座』のモチーフとなっている存在。
顎の関節が尾にある不思議なドラゴンを、『ユニーク』のメンバーは打ち倒していた。
他にも少数精鋭のパーティーや、魔物と共に戦う従魔師系の祈念者などが魔物を倒すことに成功している。
決して不可能ではない。
そう期待を抱いた祈念者たちは、次々と魔物たちを倒すことに成功するのだった。
それでも、難易度は高い。
試練の魔物たちがこの場からいなくなったとき、死に戻りのストックが残っている者は大幅に激減していた。
『──三十人、ずいぶんと数が減った。おまけにすでに証を示している者が半数……もう半数のみが、試練を受けし者か』
キャラが変わったとしか思えないノゾム。
アイツがそう言うと、今度は彼らの足元に魔法陣が展開される。
『案ずるな。次なる試練の舞台へ、送らせてもらうだけだ。そこですべてに蹴りを付けよう……俺を倒せば、このイベントの覇者になれると約束してやろう』
そんなことを言うと、ノゾムは魔法陣の上に載っていた者たちを転送した。
このイベントエリアに残されたのは、アイツと……俺たちだけだ。
『──申し訳ありませんが、一度撮影を止めてください。真偽はこちらで把握できますので、安全が確保できるまでは、その状態のままにさせていただきます』
俺たちは指示に従い、これまでやっていたことを中止した。
すると映像が途絶え、結界が解除される。
そして──ノゾムがこの場に降り立つ。
「申し訳ありません。結界を張って閉じ込めなければ、あの魔物たちに巻き込まれてしまう可能性がありましたので……」
「なんで……俺たちを殺さなかったんだ? それに、あの口調は……」
「もちろんこちらは、演技していますよ。ただ、皆さんと共に居たのはこちらのノゾムですので。──そうだ、今さらですけど、良ければ[フレンド]登録しませんか?」
俺、そしてサツキとメイは怯んだが……さすがはリーダー、肯定を即答してサッサと登録し始める。
やっぱり敵わないなぁと思いつつ、俺たちもノゾムと[フレンド]登録を行う。
「……文字化けしているんだが?」
「名前を偽っているので。本名を知られると少々厄介なことになりますので、そちらの方で分かりやすい名前にしておいてください」
プレイヤーネームが読みづらい奴とかも居るからか、表示名を設定できる……アドレス帳みたいな設定が可能だ。
俺たちは文字化けした部分に『ノゾム』と入力し、分かるようにしておいた。
──その間に用意したのか、奴は俺たちの何かを放り投げた。
「それ、取っておいてください。いつかまた出会えることを……祈っていますので」
そう言って、アイツはまた消える。
ネックレス型の、いろんな武器の衣装が施さた彫金に、小さな珠みたいな物が付いているデザインをしたアイテムを残して。
鑑定スキルで調べてみるが、文字化けだらけだ……今回の文字化けは、単純に鑑定のスキルレベルが足りなかったからだ。
それじゃあ詳細が分からないと思ったが、それを予測していたかのように、一枚の紙が挟まれていたことに気づく。
「これって……」
「まあ……」
「アイツ……」
「……何でもありだな、あの野郎」
これ以上この場に居ても、何もすることなど無いだろう。
自分たちに近づいてきた不思議な、そして新たな友のことを思い、俺たちはイベントからリタイアするのだった。
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ちなみに渡したアイテムとは──
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試作型魔道具07(名前変更可能)製作者:?
魔道具:首飾り
ランク:S 耐久値:300/300
装備補正:All+10
特殊な方法で造り上げた首飾り
幾つかの武器の形状を取ることができる
武器それぞれに異なる能力がある
扱う持ち主によって、取れる形状の数と形が異なる
装備スキル
(形状変化)(使用者識別)(高速自己修復)
(サイズ調整)(耐久自然回復・大)(武器の魂)
(絆の連武)(ウィスパー:製作者)
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