AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-22 撲滅イベント前哨戦 その14



「剣はブラウッド、盾はテイト。槍はカンヒで如意棒はショカツ。兜がナックルで、靴はアラネ。そして、杖がセイラ……どうして卵の主がお前になるんだか」

「何よ、文句でもあるの?」

「……まあ、予想通りだなって」

 思考詠唱スキルを発現させるようなヤツなのだから、思考系のスキルを俺以上に使いこなしていることだろう。

 そして、武具の選定はジャンケン……スキルで物理的動きも高められるなら、アルカが敗北する可能性は極めて低い。

「いくつか言っておかなければならないことがあるんだよ。たとえ俺の話でも、これだけは本当に重要なことだ」

「……分かってるわよ。そこまで念押ししなくても、それぐらい弁える」

「よかった。卵はさっき言った通り、お前の経験や感情を糧に成長する。擬似的にはあるが、ログイン時の感情も糧にするだろうから現実での行動すらな。俺が望むのは一つ──躊躇わず、望むままに育ててくれ」

 主と共に成長する武具。
 響きはいいが、要するに寄生しているような物だろう。

 善き者には善き力が、悪しき者には悪しき力が宿る……それは本人の在り方が、それを望むが故の成長である。

「……ちなみにそれ、あんたへの復讐は含まれているのかしら?」

「いや、それなら大歓迎だ。俺を殺すための力が身に付くなら、俺はそれを超えることができる……楽しみだな」

「壊れてるわね、あんた。でも……それでいいなら構わないわ。絶対に、あんたを負かしてみせるんだから」

「そりゃあ頼もしい。殺せるものなら殺してみろ、挑むたびに対価は頂くがな」

 アルカは無限に成長する。
 俺はその成果を拝借し、彼女は再び目標を胸により強くなってくれるだろう。

 まさにWinWinな関係……ではないかもしれないが、先のことも考えて見ればあながち悪い提案でもない。

「じゃあ、最後に一つ。卵には、成長に関するスキル以外にも(自我ノ芽)というスキルが内包されている。それはいずれ花が咲いてお前を助けてくれる。もしそうなったら、俺に見せてほしい」

「どうしてかしら?」

「気持ち悪いと思うかもしれないが、ある意味武具は俺の子供みたいなもの。特に意思が芽生える武具は特別……な?」

「別に、どうも思わないわよ。ただ、そのときはまた全力で戦ってもらうだけ。その方があんたも、やる気が湧くんじゃないの?」

 ゾクッとした感覚を覚えたのは、俺がアルカに恐怖を覚えたからか……はたまた、叩きつけられた挑戦状に、意識が高揚したのか。

 目の前の勝気な少女は、俺に勝つ未来を信じて真っすぐに見つめてくる。
 ……俺の方がステータスは上のはず、なのにそんな未来が訪れると感じてしまう。

「……まっ、俺が負けるわけないけど」

「なんですって! ──このっ!」

「甘い甘い。だいたい、こんな場所でいきなりぶっ放すなよ」

 突如魔法を思考詠唱で撃ちだしてきた。
 なので俺も同じように思考詠唱を使って、“奪魔掌マジックテイカー”で魔力を奪い取る。

「チッ……何よその能力。あの大会で見せたヤツよね?」

「ふはははっ! これを攻略するまでは、先ほどのような台詞は言わないことだな! せめて、武術でも磨いておけば別かもしれぬがな……おっと、SPスキルポイント足りないか!」

「──ッ!」

「うわー……」

 アルカを軽くからかうと、望んだとおりに多種多様な魔法をぶっ放してくる。
 なので魔法は“奪魔掌”で吸収し、研究材料として使わせてもらおう。

 ……なぜかユウが引いているみたいだが、理由が分からない。
 アルカはストレスを発散できて、俺は研究材料が増える──これもWinWinだ。

「ねぇ師匠、さすがに挑発するのは……」

「挑発? いや、ただこれからも頑張ってほしいって応援しただけだろ?」

「……嘘、言ってないんだ。もしかして、師匠って……ううん、師匠は師匠だよね」

「なんだか知らないけど、急に温かな視線を向けてきたな。文句があるなら、はっきりと言ってほしいんだが」

 なんだろうか、可愛そうな奴に同情するようなあの目は。
 その視線そのものには慣れがあるけど、この世界で受けると……ややダメージを負う。

「“心身治癒グランドキュア”、効くか? ……ああ、意外と落ち着いてきた」

「ちょ、何よその魔法!」

「治癒魔法だが?」

「……回復系の最上位魔法じゃないの」

 心にクるダメージを治していると、そんなツッコミが入る。

 アルカの言う通り、本来は膨大なSPを消費して習得するスキルだ。
 彼女は『魔法使い』から始めたようだし、回復魔法の適性が上がらないんだよな。

 あとから適性スキルを取ればいいんだが、それはそれで消費するわけだし。
 なのでアルカ、回復魔法はカンストさせても進化していないようだ。

「魔法に関しては、頑張ってくれ。自分で使えずとも、仲間と協力して足りない部分を補い合う……それが普通のMMOだしな」

「──というとつまり、お前さんもそれをしてくれるってことでいいのか?」

「とりあえずはな。なんだ、盗み聞きなんていけないことをするなよナックル」

「……あんな魔法をぶっ放した後の会話で、聴かないはずないだろ」

 そういえばそうでした。
 音を遮断する魔法もあるし、必要な状況に応じて使うことにしよう。

「いろいろと訊きたいことがあるんだが、それについてそれなりに真面目な答えを返してほしい……礼はするぞ?」

「ならいいぞ。ああ、それでも言うことと言わないことはある。嘘は言わないでやるし、金を積めば言うこともある……おっと、女性陣から冷めた目が」

「……理屈は分かるが、あんまり堂々と言うことでもないな」

 金の切れ目が縁の切れ目、ちょうどいいと思うんだがな。
 ナックルは社会人っぽいし、それを俺以上に理解しているみたいだ。

 ──とりあえず、名前以外はそれなりに開示しておくとしようか。


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