AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
04-16 撲滅イベント前哨戦 その08
「──さて、準備は済んだようだな」
現在、この場に居る祈念者の数は──九。
一人はもちろん俺、残った八人が二回戦へ進出したクラン『ユニーク』の者たちだ。
パチパチと乾いた拍手を打ち鳴らしてやってきた俺を、彼らはなんだか言いたそうな表情で見てくる。
「おや、どうかしたか? 言いたいことがあるなら、別にハッキリ言ってくれても構わないのだが?」
「──なら、俺が言わせてもらおう」
代表者はナックル。
クラン『ユニーク』のリーダーにして、固有職業【拳聖】に就く強者。
祈念者の中でもトップクラスの戦闘力を持つようで、なんだか戦闘民族みたいなオーラが背中から見える……気がする。
「お前はいったい……何者だ?」
「ただのレアな物を拾った、運だけがかなりいい男ってところか? 幸運にも、アイツらと出会えた。ただそれだけだよ」
「さっき言っていたぞ。自分たちの誰より、師匠は強いって。あのユウに師匠と言わせるだけの実力が、少なくともお前にはある。ただの運じゃそこまでは言わせられない」
ユウ……またお仕置きだな。
つまりナックルは、俺のことを油断ならない相手として警戒してしまっている。
初手ならまだ他の奴は、油断するだろう。
しかしそれ以降……統率された組織の頭が警戒している以上、そう簡単に倒すことはできなくなる。
「御託は良い。早く始めようぜ……ほら、申し込みをしてこいよ」
「いいだろう……拳で語れば、分かることもある。なんてことを言う気はないが、性根ぐらいは分かる」
武闘派っぽくないことを言いながら、それでも[PvP]の設定を済ませるナックル。
時間は無制限、どちらかのチームの人数が0になるまで終わらないデスマッチ。
──了承を押せば、結界が構築される。
「一つ、言っておくことがあるなら……」
「なんだ?」
「俺はあんまり強くない。ただ、少しだけ手数が多いだけだ」
「そうか……参考にさせてもらう」
というような会話をしてから、俺たちの戦いの火蓋が切られた。
◆ □ ◆ □ ◆
「お前の……お前のどこが強くないだ!」
「七分か……だいぶ持っているな」
開幕してすぐ、スーの張った結界に閉じ籠もった俺。
そこから地道に魔法を飛ばし、少しずつダメージを稼いでいる。
「そんな強力な防御魔法を維持して、致命傷までこっちを追い込む奴があるか!」
「ここに居るだろう? けど、まだまだ弱いからな……誰も倒れちゃいない」
「テメェはイキり野郎かよ! ええい、さっさとここを開けろ──“煌明刃”!」
強そうな剣を持った【剣聖】に就いた男。
彼が振るうのは、光と熱を帯びた斬撃。
それが結界に物凄い勢いでぶつかり……衝撃が結界を襲う──が、いっさい変化なし。
安心安全、絶対防御のスー特製の結界。
相応の魔力を渡してあるので、この結果は必然と言える……が、そろそろ目的も済ませたので、もう充分だ。
「ここは俺がやる! “貫通槍──」
「それはもう視た──“貫通槍・鉱”」
槍で結界を突き破ろうとするのは、かつて闘技大会一回戦の相手だった【矛盾】を振るう矛使いの青年。
俺は結界をその直前で自らに還元して解除して、代わりにギーへ魔力を注ぐ。
水晶玉から鋭い槍へ形が変わると、先ほどの戦闘で模倣した武技を使用する。
そこに固有魔法の属性を付与し、鉱石の如き硬さで打ち合う。
神器が硬度を得て、同じ威力の技をぶつける……結果は必然、男はそのまま死んだ。
「槍? それに、次は剣……また来るぞ!」
「遅い遅い──“風刃・獣”」
斬撃を放つ際、イメージするのは空を舞う鳥……獣かと聞かれると微妙だが、まあ効果はちゃんと発揮する。
飛んでいった“風刃”は、その途中で形を円状のものから動物へ変えていく。
それは翼を広げた鳥となり、彼らの妨害を鮮やかに躱して盾を持つ獣人の男の下へ。
「いきなりここを狙うか……だが、不正で見せよう──“聖盾守護”!」
巨大な盾をどっしりと構える男。
盾は真っ白に輝き、鳥がぶつかっても多少揺れるだけで体が下がるようなことはない。
さすがは職業が【盾聖】なことはある──ので、数を増やしていこう。
連続で“風刃・獣”を放っていき、その数が数十を超えると……時間が来たようだ。
「……グッ。すまん、もう耐えられん!」
時間制限のある無敵状態だったのか?
とにかく、盾が光を失うと、一気に斬撃が男へ喰らい付いて殺していった。
残ったのはあと六人。
次の相手を探していると、遠くから高熱を帯びた矢が飛んでくる。
「喰らえ──“灼熱矢”!」
「えっと……そちらさんは兄妹か?」
次々と矢が飛んでくるが、先ほど習得した二つのスキルでひょいひょい避けていく。
妹っぽい【弓聖】の森人、そしてそれを守るように立っている似た顔をした【槍聖】。
「私はカレン、覚えておきなさい! そっちの方が私の──」
「いや、別にいいや──“万軍天矢”」
男の紹介をしてくれそうだったが……それはただの隙でしかない。
なので俺はさっさと弓を引き、宣誓したうえで矢を飛ばす。
これは弓の武技ではなく、オブリに渡した弓の限定技だ。
ギーは存在ごと武具を模倣できるため、その装備でしか使えない技なども模倣可能。
ただ条件として、使う時は装備の姿を再現していなければならない。
今回はそれを気にする必要がないぐらい余裕だったので、ギーに使ってもらう。
発動すると、矢は名前の通り万を超す量となって彼ら兄妹に襲いかかる。
そのまま二人倒せると思ったのだが……感動ものっぽい展開。
「カレン、危ない──“回棒”!」
使うのは槍と互換性のある棒術の武技。
効果はその名の通り、棒を回転させるだけなのだが……今回は割と使えている。
握り締めた槍をグルグルと回すと、現実ではありえないような速度で回転させて飛んでくる矢を弾いていく。
──だがまあ、いかに【槍聖】とて完璧な存在ではない。
カレンが逃げ延びるだけの時間を稼いでいる間に、次々と突き刺さる矢。
「これで……あと五人。自分の攻撃でそのまま終われ──“灼熱矢・重力”」
「くっ、“凍結矢《フローズアロー》”! ……うそ、相殺できないな──」
「ふむ……あと四人」
油断してはならないので、使い続けているためガンガンレベルが上昇している空間把握と直感スキルに意識を注ぐ。
すると、牽制しているかのように霊体たちが辺りを彷徨っているとなんとなく察する。
……心霊的な現象はあんまり受け入れたくないので、光魔法で処理しておく。
「どうする、ナックル。このままだと勝てそうにないぜ?」
「……たしかに。翁、方法はあるか?」
「策はある……が、このままではそれを行うこともできずに終わってしまいそうじゃ。時間を稼げれば……もしやという可能性が生まれるかのぅ?」
「……面倒だな。だが、ここは俺に任せろ」
霊体たちの処理をしている間にこういった会話が行われていたことは、風魔法と耳への身体強化の併用でバッチリ聞いている。
「──“上位死体召還・不死王”」
それなりに長い詠唱をしたのは、それを発動させた男こそが、霊体たちを操って時間を稼いでいたヤツだから。
光魔法で霊体が消されていても、変わらず詠唱を続けて発動させた魔法。
それは、彼が一回戦でも使ってみせたアンデッドを呼び起こす魔法だった。
事前準備として、霊体を屠らせることで何やら強化しているようだが……まあ、俺には関係ないだろう。
「潰れろ──“煌域顕現”」
(──“竜乃息吹・陽光”)
かつて、邪神の使徒すらも消し去ることを可能とした破邪の力。
念のため、オリジナルの光属性強化魔法を使っていたので……うん、術者ごと一撃だ。
「やるではないか若者よ。ならば、儂も──“疾如風”、“徐如林”!」
白い顎鬚を伸ばした老人が、聞き覚えのある言葉を唱える。
彼の固有職業は【甲斐龍虎】、そして使う能力は当然“風林火山”というらしい。
全部言わないのは、消費するAP量が並べれば並べるほど半端なくなるから。
だから二つしか言えないようで……まあ、魔法じゃないから模倣できないんだよな。
ということで、別のものを──
「──“攻性付与”、“防性付与”、“敏捷付与”、“耐性付与”、“巧性付与”、“幸運付与”、“魔力抵抗”、“武装破壊”、“命中補正”、“不可干渉”、“感覚鋭敏”」
大量の付与・強化魔法を重ねて行使する。
そのためだけに並列行動と無詠唱スキルを駆使して、待機時間や再発動時間を身力の消費ですべて省略した。
どちらもカンストした魔法なので、能力値への補正はそれなりに高い。
あくまで演出だけだったので、リーの装備スキル(実力偽装)スキルで軽く調整する。
「支援魔法が得意という話は聞いていたが、まさかそこまで重ねられるとはな」
「あまりこの程度のことで驚かないでもらいたいものだ。それより、味気なく決着が付くのはつまらないのだろう? 次の攻撃、耐えきれたら勝ちにしてやる……どうだ?」
「! ……いや、たしかにこのままだと俺たちが負けるか。いいぞ、次の攻撃を受け切って勝利はもらっていく」
一瞬怒るかと思ったが、勝敗を考えて受け入れられる……良いリーダーだな。
その振る舞いに敬意を称して、少しだけやろうとしていたことのレベルを下げよう。
「受けてみよ──『竜軍行列』!」
ただの魔法ではない、スキルを重ねて生みだすリストに載らない非公式な合成魔法。
さてさて、彼らは耐えられるのかな?
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