AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

03-20 眷族決闘 その06



 オブリガーダに与えられた固有スキル──【救恤】もまた、【忍耐】や他の<美徳>スキル同様に特殊な能力が存在する。

 そも、救恤とは困っている者を救い、恵むという意だ。

 困難や災害、貧困に見舞われた者へ幸福を分け与え、助けを求める者の力となる……それが【救恤】となった。



 ティンスの心臓に突き刺さった矢は、温かな赤色の光を放ち彼女に溶け込んでいく。

 そして、闘技場の上に設置された投影装置の中では──ティンスの生命力を示していたバーが一気に色を取り戻していった。

「ありがとう、オブリ」

「ううん、これがわたしに……できることだから!」

 メルスから距離を取って合流し、二人は互いに魔力を練り上げる。
 それらは彼女たちの意思に従い、術式を読み込み魔法と化す。

「そうね……なら、私も私のできることをやるわ──“血陣乱舞ブラッドダンス”!」

「わたしも──“妖精幻弓フェアリーボウ”!」

 飛び散っていた血が再び湧き上がり、刃の形を成して周囲を漂う。

 血魔法“血陣乱舞”──相手から吸い上げた血でさらに鋭さを増す刃を生成し、発動者の意思に沿って動かすことができる魔法だ。

 大量の血を事前に飛び散らせた結果、その鋭さは鉄をも切り裂くものとなっており、すでに掠めたメルスの皮膚を裂き、血を吸い上げることに成功している。



 ティンスがそのように血を操っている一方で、オブリは自身の握り締める弓に魔法を施していた。

 そこから放たれる矢は、彼女の意思に沿って特殊な幻覚を引き起こす。

 視覚を惑わす──幻視。
 聴覚を狂わす──幻聴。
 嗅覚を陥れる──幻嗅。
 味覚を変える──幻味。
 触角を弄くる──幻触。

 オブリのイメージに合わせて発生するこれらの幻は、さながら現実ではないどこかの幻想を彷彿させられる。

 妖精たちが幻を操ることに長けた理由でもあるこの魔法は、対象の感覚すべてを狂わすことが可能だった。

「たくさんの矢か? ……いや、幻か」

 しかし、メルスには通用しない。
 幻覚に対する高い耐性を持つうえ、彼の行動を補助する指輪には──彼とは異なる意思が宿っているからだ。

 対象が異なる以上、幻覚は通用せず演算の結果に狂いは生じない。
 むしろ幻覚であるという違和感を与えてしまうため、効果はさらに減じてしまう。

「まあ、分かっていてもダメージがあるのは嫌だからな……よいしょっと」

 現実において、派生はあれば大まかな幻覚はあれら五つである。
 しかし、この世界には魔力が存在し、理に干渉していた。

 そのため存在する魔力に関する感覚。
 その効果は現実に干渉し、幻を現実に及ぼすほどの効果を発揮する。

 具体的な例はメルスが言った通り──痛みが現実に反映されるといったようなものだ。

「刃、矢、矢、矢、刃、矢、吸血鬼ティンス……矢、刃、矢、刃、刃、矢、妖精オブリ……」

 視覚だけに頼らず、五感すべて+魔力を調べながら回避や防御を行っていく。

 そもそも少女たちは、今日出会ったばかりの即興パーティーであり、付け入る隙はいくらでも存在した。

 そうでもなければ、メルスであろうとスキルを封じられた状態ではすべてを捌くことはできなかっただろう……とある魔武具を使うことで、結界を生みだす以外の方法では。

「もう、なんでノーダメージなのよ! チートでしょ、絶対にチートでしょ!」

「ははははっ、そんなの使わなくても……と言いたいところだが、悪いな。俺を強くする一因なんだが……たとえ封印されようと、種族スキルって性質みたいなものだから勝手に発動するんだよ」

「……それがどうしたの?」
「──あっ」

「俺の種族は【天魔】。そして、その種族スキルには動体視力を高める(天魔眼)と、行動に意志を籠めれば籠めるほど成功率が上昇する(一途な心)がある……つまりな、スキルのことを気にしない分、防衛に力が入るんだ」

 種族スキルと伝えた時点で、オブリは何かスキルに秘密があることに気づいた。

 偶然覗くことができたステータス、その種族欄には固有ユニークである証拠の【】すみつきカッコで括られた種族名が記されていたからだ。

「オブリは分かったようだな……まあ、安心してくれ。翼を生やすならともかく、魔法の方は使えない。それに──魔法より武具で倒される方が本望だろう?」

 籠手から切り替えられ、用意された異なる武具……とは思えない水晶玉を、掌で転がすメルス。

 しかし油断はしない少女たち、その予想を裏切らず水晶玉が輝き形を歪めていく。

「──自分の振るう武具にやられる。まあそれも俺が造ったヤツだけど、とにかく使いこなせていないから負けた……なんてやられ方は、腹が立つだろう」

 握り締めるのはティンスの振るう大剣。
 こちらも武具が意思を宿しているため、彼女と違って音声認識をせずともその形状を変更することができる。

 ──それが無性に腹に立ったようだ。

 これまで以上の速度で近づき、豪快に握り締めた大剣を振るうティンス。

 予想外の動きに驚くメルス、対応に少し遅れてしまい鍔迫り合いに持ち込むものの、その刃は眼前に近づいている。

「……なんで言わないのよ」

「えっ? あんな恥ずかしいこと、わざわざやるわけないだろう」

「それを、それをやらせたのはどこのどいつなのよぉぉお!」

「……俺だけど?」

 一撃一撃に全力を注いだ攻撃の嵐。
 大剣と吸血鬼の補正を受けた膂力は、少しずつ刃を奥へ押し込もうと進む。

 同時に飛んでくる血の刃、そしてオブリが飛ばす数百もの矢の雨。

「完全包囲ってか? これが物語なら、そろそろダメージを負う展開なんだろうが……ごめんな、まだまだやれるんだ」

 メルスの剣に嵌めこまれた水晶が輝き、その姿を再び変える──ティンスとの鍔迫り合いの最中に。

 突然相手の武器の大きさが変われば、掛けていた重心にも変化が生じる。

 とっさに対応しようとするティンスだったが、分かったうえで行動しようとするメルスには追いつかない。

 スルリと抜ける武器。
 慌ててメルスの持つ武器に目を向けた──そこには自身へ向けられた弓があった。

「……オブリの弓ね」

「──『赤十字』」

 ティンスの問いには答えず、その効果を発揮することで応える。

 真っ赤な矢がティンスの心臓を貫く──ところで、どこからともなく放たれたもう一本の真紅の矢によって相殺された。

「オブリか……うんうん、相殺までもうできるのか。さすがはオブリ」

「えへへ~」

「だけど甘い──『赤十字』」

「オブリ!」

 即座に矢を放ったメルス。
 慌てて矢を継ぎ、対処しようとするが……放たれたのは一本ではなく三本。

 それらは弾き合い、妖精補正を受けて小さいはずのオブリの体を射抜き──力を示す。

 紅色の輝きがオブリを包み、球状の檻となり身動きを取れなくする。
 本来の意図とは違う、だがその効果に相応しい拘束力を発揮した。

「説明は後回しだ。あとはティンス──お前だけだ」

「……スキルを全部使えなくしても戦えるのは、普通じゃないわよ」

「かもな。けど、あらゆる状況に対応するのが必要なことだってある。そしてそれが……今だったってことだ」

 水晶は輝き、再び形状を変える。
 子供が収まるような巨大な筒、それを少女たちに向けた構えた。

「逃げるか? この大砲は、火薬も導火線も必要ない──俺が発射したいと思った瞬間、すぐにドカーンだ」

「……逃げられるわけないでしょ。たとえここがゲームの中だろうと、自分より年下の女の子ぐらい、守ってみせるわ」

「ティンス、お姉ちゃん……」

「ハッ、素晴らしきかな姉妹愛ってか? 悪いが相手が誰だろうと、俺には絶対に勝てないと教えてやるよ」

 筒の中でエネルギーが凝縮されていく。
 膨大なその力場は光を生みだし、やがて抑えきれないほど激しく輝きだし──

「受け止めてみろ──“開砲オープン”」

 すべてを呑み込む光の濁流。
 水晶が無限の耐久度を持っていなければ、筒が壊れていたであろう破壊の一撃。

 ティンス、そして拘束されながらオブリも魔法を使いそれを防ごうとする。

「「あっ──」」

 だができなかった。
 視界いっぱいに広がるエネルギーは、人が抗える量ではなかったのだ。

 彼女たちを呑み込んだ光は、やがてゆっくりと収まっていく。
 完全に輝きが失せたとき、ファンファーレが激しく鳴り響いた。


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コメント

  • ノベルユーザー126556

    俺にわかだからマドマギかと思ったw

    1
  • ノベルバユーザー61185

    デート・ア・ライブか?w

    2
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