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山田 武

03-16 眷族決闘 その02



 第四世界に存在する『天魔迷宮』。
 レンの操作によって二層までしか無かったはずのソレに、突如三層目が生みだされた。

 巨大な円形舞台を模したそこは、きっとこう思われるだろう──闘技場だと。

「……思いのほか、大人気だな」

 かなりの出費をしてしまったものの、それ以上の益を出せることは確信していた。

 なぜなら、その証明となるもの──迷宮ダンジョンの糧となるDPを注いでくれる観客たちが今も歓声を上げてるからだ。

 この階層に限り、自由民が死のうと蘇るようなオプションなどが搭載されている。

 死に戻りを祈念者がしようとデスペナが発生することは無いし、子供のために過激な表現はカットまで行われているぞ。

《レン、門の方はどうなっている?》

《順調に集まっております。ただ、予想よりも来場者数が多く、立ち見の方が。主様マイマスターの生みだした“空間開扉ドア”は広く、現状通過に関して問題は起きておりません》

《中継装置で投影はしている。だから外で料理でも売れば楽しめるかな? レン、硬貨を対価に料理を提供する罠……なんて物を用意できないか?》

《理論上可能ではありますが、今の格では行うことができません。また、料理を行える魔物の召喚も無理です》

 自販機モドキやシェフ系魔物も用意できるとは……何でもありファンタジーだな、迷宮って。

 今回は料理の提供は断念するとして、今度の料理人育成についてリョクやジークさんと話し合うことを決めておく。

《二人のスタンバイ、並びに解説や実況の配置はどうなっている?》

《そちらはすでに。あとは旦那様の指示を受け、合図を鳴らすのみです》

《なら、十分後に頼む。二人には、迷宮の機能か使いを出して伝えてくれるか?》

《畏まりました》

 魔物に看板を持たせれば、充分伝達役メッセンジャーとしての役割を果たすことができる。

 すでに魔子鬼系統の魔物であれば安全だと分かってもらえているだろうし、レンが召喚すれば使いとして送れるだろう。

「──さて、ここからは俺も準備しよう」

 相手は祈念者の眷族だ。
 フェニとのレベリング戦闘経験は豊富に存在するが、孤高の祈念者として活動していた俺には他の祈念者と戦った経験など闘技大会ぐらいしかない。

 だが、何度も念押しするが相手は祈念者である以上に眷族である。

 授けた“能力共有”を使えば、たとえ現状では優位に居る俺を一瞬で屠るような術を生みだせるだろう。

闘技大会のときには無くて、今なら用意できるものがある。──今回は本気だ」

 むしろ、彼女たちのためにやっておく必要があるかもしれない。
 いずれ通る道だ、その先達をお見せすることもまた、上司の役目であろう

  ◆   □   ◆   □   ◆

 グワァアアン! と銅鑼を叩いたような音が鳴り響き、会場に静寂をもたらす。
 その間を突くように、どこからともなく声が発せられる。

≪──お集まりの皆さま、大変長らくお待たせしました。ただいまより、試合が行われます……盛り上がれ、テメェラァア!≫

 雷にも似たけたたましいその音は、闘技場の内外から響く歓声であった。
 突然のゲリライベントでもあるにも関わらず、この反応……まさに鍛えられた信者ファンである。

≪コホン。私の説明は……まあ、どうでもいいですね。それよりも今はどんどん選手に入場して来てもらいたいですもんね──というわけで、せめて紹介だけはしましょうか≫

 闘技場の仕掛けが作動し、舞台の上にホログラムを投影する。
 映しだされるのは二人の少女──挑みしものたちチャレンジャーの姿だった。

≪彼女たちはティンスとオブリガーダ、我らが主様と同じ祈念者である吸血鬼と妖精のお嬢さんたちです!≫

 彼女たちに向けられる声は、そのすべてが歓迎や期待といった肯定的なものばかり。
 そういったものを浴びる機会が極めて少なかった二人にとって、それは嬉しくも素直に受け取れないものだった。

≪彼女たちはリョク様同様、『■■けんぞく』でございます! つまりはあの御業を使うことができる──決して、あのお方を倒すことも不可能ではないのでぇえええす!≫

 ウォオオオ! と盛り上がる観客席。
 レンによる放送コード修正が即座に行われることで、少女たちにとある単語が伝わることは無かった。

≪さぁ、対してそれを迎えるは──我らが主にして至高の王!≫

 先ほどまでは行われていなかった演出──スポットライトやスモークによって、その男は人々の注目を浴びる。

 見習いの神でもある彼は、ただ威風堂々とした佇まいをこの場に居る者たちへ見せる。

≪皆さん、その名を讃えよう──偉大なるお方の名はメルス! 今こそ、我らに神意をお見せください!≫

 少女たちを応援していた声とは本質的に異なる、圧倒的な大歓声。
 狂気にも似た爆音は、そのすべてが舞台に立つ男──メルスへ向けられている。

「なに、これ……」

「…………あの、いろいろとツッコみたいんだけど、一番最初に訊いておきたかったことがあるからそれを訊くわね──現実リアルで宗教の教祖でもやってるの?」
「お兄ちゃん、凄い人気だね!」

「観光して分かっていると思うが、俺っていちおうアイツらの王様とか救世主とかそういう扱いなんだ。結構ポカしているから、そのうち冷めると思ったんだが……」

「こうなっていたと」

 嗚呼、主人公みたいだわと思う吸血鬼ティンス
 ヒーローみたい、と思う妖精オブリ

 彼女たちの認識はかなりリーンや過去の王都の人々の者に近く、故に宗教染みたナニカが閉ざされた世界で成立し始めている。

 それを一過性のブームのように捉えていたこと……彼の過ちはきっとそれだろう。


≪さて、御三方。観客の方々が皆さまの戦いを見たいとそわそわしております。そろそろ準備をしていただけないでしょうか?≫


 舞台上での話に、少しずつ自身の中で渦巻く武闘への好奇心が抑えられずにいた。

 先ほどから放送を使っている司会進行を担当していた女性は、恐る恐るメルスたちへと声を掛けたのだ。

「あー、聞こえてるか?」

≪は、はい! 私、鬼人族の『ホウライ』、しっかりとメルス様のお言葉をお耳にさせていただいております!!≫

「あー、うん……準備ができたらこっちで一発空に魔法を撃つ。それから合図をやったら始めることにしよう」

≪わ、分かりました! 皆さん、今のお言葉しかと耳にしただろぉお! 祭りまであと少しだ、周りをぶん殴ってでも黙らせろ!≫

 慌ててメルスは少女たちに確認し、けが人が出る前に空へ魔法を放つ。
 そしてその数秒後には──再び銅鑼が鳴り響き、闘いの幕が開いた。


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