AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

03-01 転職ギルド



 ギルドカードに訳の分からない印を付けられてから──何日かが過ぎた。
 過去の王都の住まう者に、現状を告げたりそのことについて会議したり……それなりに慌ただしい日々だった気がする。

 特に──ジークさんの寿命について。
 王様が五年後に死ぬ、なんて出来事が発覚したのだからそうならざるを得ない。
 本人としては寿命だから仕方がないと笑っていたが……周りはそうもいかないものだ。

 結局その場では、息子である王子をあの世界に合わせて再教育するということになったのだが……そのときのジークさんを見て、さらにやることが増えたりもした。

「さて、今日はあそこに行きますか」

 俺の視界の先、そこには『転職所』という看板を掲げた建物がある。

 冒険者ギルドなど、ギルドと名が付く場所よりやや大きさは劣っている……が、さまざまな職種の人々が入っては出ていく。 

「自由民も使ってるんだよな……まあ、実際に転職するには水晶が必要だから、ここじゃ無理なんだけどさ」

 部屋の中からも、水晶があるような反応は感じられない……さんざん作ったので、その感覚があるかどうかはすぐに分かる。

「あくまでここは、その可能性を増やすことができる場所。適正の無い職業に手を伸ばそうと足掻くための審判を行う地」

 と、いう場所なんだとか。
 AFOはあらゆることができる場所──戦士が魔法使いに、勇者が魔王にすらなれる可能性を秘めることができる世界。

 調べたんだが、『職業』はその者の役割ロールを表すらしい。
 まあ、物語でも定番だろう? 正義の勇者が悪役の魔王を倒し、救われるべきお姫様を救うなんてシナリオは。

 この世界においても、役割は存在する。
 それをより上手く実現させるため、職業は人々に等しく与えられ、その者に合った力を目覚めさせる。

「……そのくせ、転職可能なんだから自由性が高い気がするけど。まあ、後付けのシステムっぽいから仕方ないけどさ」

 職業とは、非力な人族が強大な魔物たちと闘うために神が与えた力なんだと。
 多様な力の在り方、自由性が高すぎるが故に少々問題も発生したみたいだけど。

「『職業:奴隷』……人々がそれを求めたからこそ、システムはそれを用意した。力と役割、いつの間にかこれが分かれている」

 二種類存在するのだ。
 力を恩恵として受ける実益系の職業と、利便を与えられる役割系の職業に。

 ヒントはあった──【初心者】だ。
 これは能力値に補正があるわけじゃない、あくまでこれまでにカンストまで経験値を稼いだ職業を、纏め上げるための職業である。

 宿している能力も、直接戦闘に関わるのではなく適性を向上させるというもの。
 あくまで初心者が、その上位に位置されている経験者になるために修練を積んでいく過程をスキルが表している。

「……って、入り口でぶつぶつつぶやき続けるのもアレだな。そろそろ入ろうか」

 転職前の憂鬱な気分だったんだろうか?
 これまで職業に就くため、クエストなんていっさいやってなかったからな……課題を満たさなければならない場所に来たことで、心にクるナニカがあったのかもしれない。

 ──いや、働いたことないからな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 中は至ってシンプル、イメージ的には役所のような場所だと思ってくれればいい。
 やっぱり、こういうのはお役所仕事なんだな……嬉しいような、悲しいような。

「うわ、本当に番号札ってあるんだ……」

「申し訳ありません。見ての通り、さまざまな案件のせいで込み合っておりまして……」

「い、いえ、構いませんよ。待ち時間には慣れていますので」

「予約や特別会員であれば、優先してご案内するのですが……」

 特別会員、という単語に少し引っかかりを覚えた。
 つい先日、そんな似たような単語を耳にしたからかもしれない。

「あの……このカードって、使えますか?」

「拝見します…………。……っ! ……す、少しお待ちください」

 受付係が驚く直前から、気配を極限まで薄めて姿を隠している。
 カードの重要性は、なんとなく理解していたからな。

 部屋の奥に行き、上司と何やら相談していた受付係……やがて慌てた様子で上司と共に戻ってくる。

「え、Sランクの冒険者様ですね。特別な部屋を用意してありますので、そちらで今回の目的をお聞かせしていただきたいのですが」

「構いませんよ」

 ──うん、ブラックカードは最強だ。



 内部は役所っぽかったが、結局やることは転職の条件達成を確認する場所なのだ。
 混んでいたのは、あくまで数が多いから。
 試験を一気に行えば、それなりに人数は捌けるので部門ごとにやっているらしい。

「ほ、本日はどの部門の職業資格を取得しにいらっしゃったのですか?」

「全部ですね。ある事情がありまして、ここでできるすべての職業の資格を得る必要が生まれてしまいました」

「そ、そのようなことが……い、いえ、深い事情はお訊きしません!」

「そうですか? 助かりましたよ」

 さすがに『【怠惰】の“虹色夢職ニート”のせいで、どんな職業にも就けちゃうからそれを誤魔化すため……』なんて言うわけにもいかないからな。

「た、ただですね……先ほどもご説明した通り、祈念者の方々の影響もあって予定をギリギリまで詰め込んでおります。本日の分をすべてと言うのであれば、それぞれで高い難易度が要求されることになりますが……」

「構いませんよ。こちらが無理なお願いをしているということは分かっています。ですが大丈夫です、自信だけはありますので」

 とまあ、先ほど思った通り──ここに来たのはそれが目的だ。
 表だってそれを証明するのが難しい──実益職の中でも戦闘系なんかは別だが、役割職であれば大半がここで就けるからな。

 戦闘職はもう諦める……『暗殺者』とか裏系の職業なんて、いったいどうやれば就くことができるのかまったく分からないしな。
 なおこの際、誰かに訊ねるというリア充的考えは存在しないモノとする。


 閑話休題わけありはむし


 さて、これから試験を受けるにあたって具体的にどういったことをするのか──分野ごとの説明を行っておこう。

===============================
・武具系:単一武具に特化した実益職業
L実際にその武具を使い、指定の動作を行う

・魔法系:単一属性に特化した実益職業
L属性魔法で一定の威力を指定の形状で出す

・生産系:生産行動に補正が付く役割職業
L指定された品を、高い品質で作りだす

・仕事系:該当する行動に特化した役割職業
L職業によってそれぞれ異なる試験を行う
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 そこまで難しいことではない。
 現実リアルで例えるなら、検定や試験のようにこれらはランクごとに分けられている。

 この『転職所』で求められるのは、下級職などの低ランクに位置する職業への適性だ。
 進化は該当する職業の専門所や水晶が判断するため、厳しくないのだ。

「──申し訳ありませんが、これらの職業は本日対応ができません」

 そんな中、いくつかの仕事系職業が受けられないらしい。
 仕事系の職業は、就いている者が少なく対応ができないんだとか。

「……そうですか」

「あ、明日であれば、可能です! 優先して試験を行いますので、どうかご容赦を!」

「すみません、こちらも怒っていたわけではありません。分かりました、先ほども申した通り無理な要求なことは承知の上です。出すのが遅れましたが──お詫びもございます」

 依頼で稼いだお金を仮想の物から現実へ具現化し、その場に並べる。
 まあ、大金っぽい額を用意したはずだ……目も輝いているし足りているだろう。

「こ、これは……」

「ほんの気持ちです。こういった場所は末永く続いていることが大切でしょう。自らの未来を勝ち得ようとする人々に、少しでもその【希望】がありますように」

「あ、ありがとうございます!」

 とりあえず、今受けられる分だけでもクリアしておこう。
 それなりに金は積んだんだ……決して横には振らせないからな。


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