AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
02-22 過去の王都 その06
「中ボス、もしくは最終ボスの部屋だな」
難易度について今さら考えてみれば、そこまで経っていないのに極ムズの迷宮をこのタイミングで出すわけもないと気づいた。
つまり、目の前にそびえ立つ巨大な扉の先が終点なのだろう。
五階層、という切りのいい数字も、その推察の正当性を証明してくれる気がした。
降りてからいっさい現れない魔物も、ボス戦に向けての準備場的な意味を持っているのかもな。
「……ちなみにだが、どうにか抜け出した。だからこうして口で語っているぞ」
抜け出そうとするとコタツの誘引力が増していた気もするが、空間魔法を用いてどうにか移動することに成功した。
わざわざ魔法を使わないと脱出できないコタツって、いったい……。
「相手は魔子鬼か魔骨、魔粘体のどれかに属する魔物か? それとも、まったく別の存在が待っているのか……魔族とか」
扉のせいか奥の情報が探知できなかったため、敵に合わせたスキルセットは行えない。
そのため、俺が持つスキルでも戦闘に向いたスキルを厳選してセットしておいた。
何が起こるか分からないが、それでもやれるだけの全力を尽くすつもりだ。
「スキルはセットしたし、さっき使った身力値もちゃんと回復した……あとは、この扉を開けるだけだな」
巨大、というのを分かりやすく説明するのであれば──三メートルぐらいのものを想像してもらえればよい。
装飾はされておらず、せいぜい縁取りがされているぐらいだな。
そんなシンプルな扉の前に立っているのだが、自動的に扉が開く様子はない。
「普通に押せば……ん? 開かないな」
念のため、できる限りの強化を施して押してみたのだが……結果は同じだった。
素でも強化状態でも扉はピクリとも動くことはなく、沈黙と貫いている。
「まあ、それなら魔法でやればいいよな──開けーゴマ!」
奴隷の首輪を解除する際に、魔法解除の要領を得ている。
首に嵌めた『魔遜の首巻』を介して解放魔法を発動し、扉を不動の物としている封印を強引に解き放つ。
一瞬複雑な術式が扉の表面に浮かんだが、ゆっくり見る間もなく砕け散っていく。
そして代わりにゴゴゴゴという音が鳴り響き、鈍い重低音と共に扉を開けていった。
「……暗いな──“暗視”」
一寸先は闇、という言葉が体現された物凄く暗い部屋が扉の先にはあった。
すぐに闇魔法の一つを使い、視界を良好にしてみたが……何もないな。
「気配探知にも反応はないし、まさかのお留守だから閉まってたってか?」
何か特定の条件を満たさないと開かない扉なんて、いかにもな仕様であろう。
これまた昔はあったそうだが、壁抜けで突破するとさまざまなフラグをすっぽかして、いきなりクリアとなるらしい。
「つまり、魔物が立ち塞がるフラグが成立していないがここに入った。その結果、コアの獲得というクリアだけが残ったってことか」
歩を進めると扉が独りでに閉まり、左右に設置された松明が手前から奥へ順に灯りを燈していく。
「そして奥に現れる、物凄い戦闘力を誇る魔物……が、いない」
魔法陣が出てくるわけでも、突然怪しい奴が出てくるわけでもない。
完全な静寂だけが、この場を支配する。
「何か理由があるんだろうが……過去ってことだし、レイドイベント用の魔物が生まれるまでにまだ時間があったってことにしよう」
つまり、少し早すぎたってことだ。
まあ闘わなくて済んだことを純粋に祝っておいた方がいいだろう。
経験値を貰っても貯蓄しかしないわけで、それぐらいなら周りに配る善意を施すのが、偽善者の良いところだな。
「……おっと、見つけた」
この部屋にはたしかに、気配はいっさい見つけることができなかった。
だが、依頼の目的はなんだ?
じっくりと探知を続けていると、小さな部屋が奥にポツンと置かれた玉座(大)の下にナニカがあると教えてくれる。
「まあ、ここで油断して追放系の罠とかくらうのも嫌だし……念入りに警戒だな」
格納されている(盗賊の心得)、そして二つの看破スキルが罠があるかを確認する。
前者は入念に隠された罠は見つけられず、後者は別の系統に特化させてしまったため、罠に関してはそこまで精確性を持てない。
「けど、無いよりはマシだな」
ゆっくりと歩きながら、罠が無いかを調べていく……魔法を使ったり攻撃系のスキルでも使えばすぐにでもどうにかなるが、最後の最後に特別な仕掛けでもされていたら厄介なことになる。
安全第一、千里の道も一歩から。
とにかく入念な対策を揃え、省エネ重視で歩を進めていった。
玉座を動かして隠し階段を……なんてこともなく、ただ玉座の裏に階段がポツンと置かれているだけ。
それ以降、特別な演出があるわけでもなく目的地に辿り着く。
いやまあ、使ってたらスキルの経験値も溜まるから完全に無駄ではないんだぞ。
さらに言えば、緊張感を保っていたからこそ見抜けたこともあって……む、無駄じゃないんだからな!
閑話休題
「そしてこれが──迷宮核!」
降りた先、こじんまりとした小部屋には巨大な珠がポツンと置かれていた。
何をしたらこの迷宮に影響を及ぼすか分からないので、とりあえず部屋の入り口から遠目で鑑定を使って調べている。
だが、かなりレアな代物のせいか情報を完全な形で見ることができない。
「そんなときのグーだ! さぁ、頼むぞ」
恐る恐る近づいて、まずはグーを傍に置くことで解析を行わせる。
このとき、形状は長いロープにしてあるので、俺との接続もバッチリされているぞ。
「……早いな」
数分何もせず、メニュー関連の設定を弄っていると……グーが発光して解析完了を報告してきた。
一度形状を魔本に戻し、迷宮核について記されたページを開いてみると──
---------------------------------------------------------
ダンジョンコア 管理人:未設定
ランク:X   保有魔力量:100
迷宮の核となるコア
条件を満たした場所でコアに触れ、一定量の魔力を流すことで管理人として登録される
管理人はコアが生みだした迷宮を自在に操る権限を得ることになる
また、高純度の魔石や触媒としても使える
・
・
・
---------------------------------------------------------
とりあえず、鑑定で表示される部分だけを出してみた。
それ以降は情報量が半端なく、空いた時間にゆっくり読むようなものなのでカットだ。
「まあ、要するに持ち運びはOKだな」
予め“空間収納”の上位魔法──時空魔法の一つ“時空倉庫”を展開しておき、魔力を体外に放出しないように気を付けながら回収して中へ仕舞う。
時間が停まっている空間にアイテムを仕舞えるのだが、主人公的なチートではないので普通に展開する際に大量の魔力を消費する。
基本的には、“空間収納”の方が使い勝手がいいわけだ。
◆ □ ◆ □ ◆
ボスを倒していないせいか、帰還用の転移陣などはいっさい用意されていなかった。
そのため自分で魔法を使い、迷宮の外へ脱出することになる。
「──ふぅ、成功成功」
座標の妨害がされ、迷宮崩壊までのタイムアタック……なんてことも想定していたが、後ろを向けば変わらず洞窟が存在する。
AFOの迷宮は、そこまで挑戦者に厳しくは無いようだ……俺だったら、極限まで難易度を上げるんだろうがな。
そんなとき、頭に過ぎるお知らせの音を感じる……この音はたしか──
ピコーン
===============================
迷宮:『邪小鬼王の根城』が踏破されました
祈念者による発見・潜入・踏破の三つの条件が満たされたため、迷宮に関する情報が全祈念者へ開示されます
詳細は、ヘルプ機能を参考にしてください
===============================
嗚呼、転移門を開通させたときと同じだったな……迷宮の名前的に、ボスは邪子鬼王なる魔物が行う予定だったらしい。
俺が迷宮で暴れ回った結果、踏破の条件が満たされて情報が開示されたってことか?
「発見と潜入は……どうなんだろう。誰かがもう見つけてたか?」
掲示板を見ないので、実際はどうなっているのか分からない。
もしかしたら選ばれし者たちが、すでにこの地を発見している可能性もある。
「まあ、調べてみるか……称号辺りを検索すれば分かるよな?」
そんな適当な感じで、俺は新規に獲得した称号を確認する──
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