AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
02-19 過去の王都 その03
あの高い場所から見たお城が、私たちのはるか上までそびえ立っている。
そしてその下では、魔物たちが声を合わせてこう言っていた。
『──ようこそ、リーン国へ!!』
デミゴブリン、と呼ばれる魔物たちが私たちを迎えてくれる。
あの人──メルス様に聞いたけど、本当に驚いた。
魔物はみんな、悪いものだって教わってきたけど……メルス様によれば、話を分かってくれる魔物もいるみたい。
人の言葉が分からないはずの魔物が、今もこちらに話しかけてくれている。
「我が主、準備ができました」
「そうか。ではリョク、彼らの案内を頼む」
「ハッ!」
何かやることがあるらしく、ここから離れたメルス様の代わりに、デミゴブリンたちの王様──リョク様が『リーン』のことを教えてくれることになった。
私たちは、メルス様の庇護下に入ることを選んだ。
今は庇護に甘えることしかできないけど、いつかちゃんとお礼ができるよう……そのために、メルス様の国に住むことになった。
反対した人は誰もいない。
みんなメルス様に感謝していたし、何かをしてそれに報いたいと思っていた。
「──ここが、お前たちの住む場所となる。何があるかを説明する、しかと聞いておけ」
リョクさん──様はメルス様だけに付けろと言われてしまった──が案内してくれたこの国は、話に聞いたネイロ王国よりもずっと住みやすい場所だったみたい。
私たちでも通える神殿や大きなお店があったり、子供なら学校にも行かせてくれるみたい……学校なんて、都市に住む貴族しか通えない場所だと思ってた。
私たちはキョジュウク、と呼ばれる場所に来ている。
いろんな場所を案内してもらった最後に、魔法陣がある場所へ連れていかれた。
「これは転送用の魔法陣……我が主はこれを『わーぷそうち』と呼んでいるが、要するに指定した場所へ向かうためのものだ。ここが最後に案内する場所である、全員これに乗るがいい」
綺麗に輝く魔法陣だったけど、お父さんが小さな声で、『転送魔法陣? どれだけ金を積んでも手に入らないはずなんだが……』と言っていたので、ただの魔法陣じゃないことが分かった。
普通の魔法陣なら、時々村に来ていた商人の人が売ってきたし、子供が魔力の練習をするために村に一枚魔法陣があったから、ある程度の知識はある。
(けど、どこに繋がっているんだろう?)
転送魔法陣、文字通りどこかへ乗った人を運んでくれる魔法陣のはず。
リョクさんの指示通り、私たちは全員がその上に乗った。
「では、向かうぞ」
リョクさんが何かをすると、視界が一瞬で切り替わり──広がる光景に眼を奪われた。
「──『自然フィールド』。我が主によって作られた、広大な自然を有する土地だ。豊穣が約束されたこの地であれば、お前たちの生活を取り戻すこともできるだろう」
そこにはたくさんの畑があって、デミゴブリンさんたちがそこで畑作業をしていた。
私たちの村よりも広大で、設備が整ったその場所ではいろいろな植物が育っている。
ここでなら、すぐにでも農業を始めることができるみたい。
だけど、それはメルス様に一から十まで全部用意してもらったもの。
「し、しかし……私たちには──」
「恩義がある、とでも言いたいのか? そんなもの、この世界に住むすべての者が抱いていることだ」
リョクさんは言った、自分たちもメルス様に救われたのだと。
魔物に住処を追いやられ、死ぬ間際の選択として人の町を襲おうとしたが……メルス様にそれを止められ、新天地を用意されたと。
「もともとこの場所で作物を育てたいと思っていた者は少数であった。お前たちには、そうした者たちの手伝いをしてもらおう。余っている畑でできた物は好きに使ってもよいとのことだ……真に恩義を見せるのであれば、メルス様の選択を幸福で証明せよ」
最後の部分は、少しだけ小さな声だった。
だけど種族の違いからか、それとも大切な言葉だったからか……聞こえた言葉にみんな目を閉じて、その言葉を噛み締めている。
そして、みんなで笑った。
奴隷になって笑えと命じられることもあったけど、本当に心の底から笑ったのは久しぶりな気がする。
メルス様は私たちを冷たく扱おうと変な態度を取っているけど……私たちに感謝されないようにするための演技だってこともみんな知っている。
だからお礼に渡す食べ物の量でそれを示そうとしたけど、それはリョクさんに違うと言われてしまった。
なら、私たちは──
「リョクさん。正式に、私たちラルゴ村の住民を、リーン国へ移住させてください」
「承知した、新たな国民であるお前たちにもう一度告げよう──ようこそ、ワレらが主メルス様の国である『リーン』へ」
私たちの止まっていた幸せな日々は、こうして再び動き始めた。
──メルス様が安心していられる場所を造る……それが一番の恩返しだよね。
◆ □ ◆ □ ◆
ピコーン
奴隷……いや、元奴隷の皆様と別れてから少しして、お知らせを示す効果音が俺の脳裏に鳴り響く。
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CLEAR!!
秘匿クエスト:『贄成る運命の奴隷たち』
報酬:???
説明:君たちの選択が、奴隷たちの運命を変えたことを祝福しよう
それによって、ある運命は大きく分岐した
不幸の連鎖は断ち切られ、また一歩、幸福な未来へ繋がる道が紡がれた
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──そう、奴隷たちが居ると思われた建物に侵入した途端、このクエストが現れた。
いかにも偽善者が仕事をしやすいクエストだったので、受託を即決してこなしたというのが今回の経緯だ。
まあ、入ったときに女の子が何か呟いたのが聞こえたのは本当だし、クエストが無くてもその声で動いていたのは事実である。
しかしなんだか最後の方、元奴隷たちの視線がキラキラしていて怖くなった。
無理にリョクへ頼んでその後のケアを任せたのだが……クエストも達成できたし、問題は無かったんだよな?
「うーん、しかしまあ疲れた」
平然とやっているようにできるだけ努めたから、過剰な敬意や恩義を感じているということはないだろう。
俺は王ではなく、ただの一般人。
会ったときに気安い挨拶をしてくれるぐらいの間柄で充分だ。
「デミゴブリンたちだけじゃ不安だったこともあったし、有効的な人族を民として迎えることに成功した。これでもう、とりあえずの達成感は湧いたな」
プレイヤーたちはきっと、今もクエストを求めて彷徨っているだろう。
だがもう今日は疲れたし、わざわざ元気よく働く気力もない……そう、寝たいのだ。
「帰ろう──“時空転移”」
一度は元奴隷たちを招き入れた、自身の居住区へ帰還する……偽善って結構体力を使うことだからな。
◆ □ ◆ □ ◆
過去の王都 二日目
天空フィールドに建てた城は、そのすべてが最高品質で造られている。
中の家財道具もすべてS級で、昔泊まった都会のホテルなんてボロ宿に感じてしまう程の居心地の良さを誇る代物だ。
そんな場所で起床した俺は、身支度を済ませて過去のネイロ王国へ転移した。
廃人と違って学生業もやっているため、時間帯はすでに夕方となっている。
「しかしまあ、慣れてきたってところか」
奴隷商の場所に周りのプレイヤーが気づけなかったのも、この世界の都会にまだ慣れていなかったという理由があったのだろう。
しかし今のプレイヤーは慣れているのか、道端で市をやっていたり、ギルド内で依頼を漁っていたりと……『始まりの町』でいつもやっているようなことをしている。
「俺も負けられないな」
そうして、俺も依頼を探し始める。
ただ、闇雲に探そうにも同業者が群がっているため普通に見ることはできない。
「──“感覚鋭敏”」
強化魔法の一つを使い、少し離れた場所から高めた視力で依頼を調べる。
隠蔽スキルとそれっぽい魔法も行使しているので、ちょっと高い場所から眺めてみた。
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捜索依頼 依頼主:?(受託者に呑み公開)
報酬:50000Y
説明:私の元で預かっていた者たちが、突然いなくなってしまった
近くで焼失してしまった村人たちなのだが、おそらくそれを行った犯人の仕業であろう
なんとしても助けだしてほしい……詳細は、依頼を受けてくれた者に話す
なお、犯人は殺しても構わん!!
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踏破依頼 依頼主:ネイロ王国
報酬:??? 条件:冒険者ランクD+以上
説明:この街の近くにある草原に、洞窟型のダンジョンが誕生したという報告があった
放置をしていれば、いずれ大量の魔物が中から解き放たれてしまう……そうなれば、住民たちに危険が及ぶ可能性がある
国王はそのことを懸念し、優れた冒険者に踏破を依頼された
死なれると逆にダンジョンを成長させる糧とされるため、このような基準を設けた
報酬は弾む、最奥にあるコアへの対処を当依頼の達成条件とする
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二つの依頼が、俺の眼に止まった。
「これ、隠す気あるのか? ほとんどバレバレじゃねぇか」
一つ目は……うん、おそらく奴隷を奪った俺を殺そうとする依頼だろう。
元奴隷の皆様に聴取をしたのだが、ただの野盗とは思えなかったらしいし。
贄、とクエストに表示されていたことからどこかしらに受け渡す予定があった……それが邪魔されたことで、逆に自分がピンチなのかもしれないな。
「国王が出す依頼……物凄くフラグ感が漫才だが、それでもなおやりたくなる」
二つ目は俺の好奇心をくすぐった。
というか、ほとんどのプレイヤーは興奮して……落ち込むかやる気を出している。
ダンジョン、という単語には興奮するしかないのがゲーマの性だからな。
しかし条件があった……冒険者ランクだ。
D+と言えば、いちいちテストを受けないランクの中で最上級のランクである。
今から頑張れば、五日目ぐらいにはどうにか達成できるかもしれないな。
「すいませーん! この依頼、を受けたいんですけど……」
「えっと、依頼ですね……あの、これには受けるための条件がありまして」
「あ、はい。分かってます──これが私のギルドカードです」
受付嬢にそう言って、俺は冒険者カードを提示して見せる。
俺が受けたのは二つ目の方。
わざわざ解決した問題に首を突っ込むなんて、野暮な真似は偽善者がやるわけがないだろうに。
あっ、依頼は剥がさずとも受付に同じ物があるからそれを指差しただけだ。
わざわざ戦場に赴く気もないのさ。
「……本物みたいですね。では、改めて……メルスさん、この依頼を受けますか?」
「はい、受けます」
「分かりました。受理の方に少し時間がかかりますので、少し別の場所……あちらでお待ちください」
気配を完全に遮断するのではなく、限りなく空気に溶け込ませるように潜んでいる。
そのため受付嬢のように近くに居たり、認識しようとすれば気づけるが、別のことに意識を向けているプレイヤーたちでは俺の存在に気づくことはできない。
ピコーン
≪『踏破依頼』を受注しました≫
鑑定をしながら時間を潰していると、脳裏に依頼受注のアナウンスが過ぎった。
ちょうど受付嬢も俺のギルドカードを持って、元のカウンターに近づいてくる。
「──受注、完了しました。ダンジョン踏破はギルドカードに記載されますので、コアを持ち込む必要はございません。達成報告のカウンターにてギルドカードを提示していただければ、依頼は達成となります」
「丁寧にありがとうございます」
受付嬢さんに感謝の言葉を言ってから、俺は冒険者ギルドを出た。
さぁ──さっそくダンジョンに行くか。
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