AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

01-23 草原の乱 その02



 SIDE:とある格闘士

 ──いったい、何がどうなっているんだ。

 今この状況を体験すれば、誰もがそう思うだろう。

 俺たちプレイヤー連合は、女による演説が終わったあと、総攻撃を開始した。
 剣や弓、魔法やアイテムの投擲など……攻撃方法は異なるが、皆目的は一つ──レイドボスの討伐だ。

 現れた魔物の軍勢を確認し、走りながらソレを叫ぶ。

「──“掌底波ショウテイハ”!」

 少しためを作り、掌から衝撃波を放つ。

 線上にいたゴブリンの数匹に命中し、さらに後方に並んでいたヤツを巻き込んで飛ばされていく。
 これが俺の持つ(気闘術)の武技──“掌底波”である。

 APを消費して放つ武技。
 武術スキルごとに用意されたそれは、魔法とは異なり詠唱を必要としない。

 ──ただ技名を意識して言うだけ。

 それだけのことで、体が勝手に目の前の魔物へ攻撃を行う。

 マニュアルの方が自由性があるので、俺みたいな自称玄人はだいたいこっちだな。

 周りで戦っているプレイヤーも、俺と似たような感じでサクサク敵を倒して前へ進んでいる。

 このエリアの魔物は、そもそも初心者のために用意されたようなヤツだ。
 多少イベント補正で強化されようと、既に転職を済ませてそれ以上に強化されたプレイヤーたち。

 質より量という言葉があろうと、数体程度ならば同時に相手取ってもどうにかなった。

 基本職のままそういったことをやっている奴もいたが、そういった奴はソイツ自身の才能──PSプレイヤースキルの高い奴か扇動に呑まれている奴だろう。

 女が演説をしていた時、《『状態異常:扇動』をレジストしました》と出たからな。

 扇動は、共に扇動になっている奴が多いほどステータスが向上するという厄介な状態異常だと言うのがプレイヤー間の共通理解。

 する側もされる側もデメリットがないし、責めることができない……そのお蔭で、魔物数が見る見るうちに減っているのが証拠だ。



 ──まあそれは置いておくとして、数十分後にはボスがいると思われる森のエリアに、プレイヤーたちが辿り着く。

 俺の(気配感知)や周囲のプレイヤーの索敵系スキルも、一番強大な反応を森の奥地に感じている。

「ここに居るんだな、ボスが。一番槍は俺が務めてやるよ!」

 槍を背負った男が、そう言って森へ向かっていく。

 その勢いに負けじと、他のプレイヤーたちも森へ駆けようとしていた。

「……しょうがない、俺も向かお──」

 意識を戦闘用に切り替えて、行動を始めようとしたそのとき……先ほどの槍持ちのプレイヤーが声を上げる。

「おい、何か壁みたいな物があるぞ!」

 その声に森の辺りを見てみれば、不思議な現象を見ることができた。

 森と草原の境界線、そんな物はないはずなのに──木と木の間から森に入ろうとしたプレイヤーたちがその場所で動きを停止していたのだ。

 しかも、ただ停止しているわけじゃない。
 何もない場所に体をへばりつけ、パントマイムのようなことをしているのだ。

「クソ、ふざけんなよ──“回転突きスピンランス”!」

 一番乗りだったところを何かに邪魔され、イラついた男は武技を発動する。

 入ることのできないこの現状に腹を立てているのは皆同じなのか……ほとんどのプレイヤーがスキルを使い攻撃していた。

 炎や光、闇などの魔法エフェクトや、武器に光が奔る武技エフェクトが光っているものの──そのナニカが壊れる様子はない。

「狼狽えるな皆の者!」

 ──すると、扇動を行っていた女が再び声高々に叫ぶ。

「本当にこれは、壊せない壁なのか? 私たちは魔物たちを払いのけてこの場所まで辿り着いた。──そう、まだ全ての魔物を倒したわけじゃない。ならばやるべきことはただ一つ……全員、魔物を殲滅するぞ!」

 そうして女は扇動した者を連れて、草原エリアに戻っていった。

 扇動には思考停止効果でもあるのか? よく聞けば、そこまで難しいことを言ってないのが分かる。

「しかし、条件付きの仕掛けか……いや、何かが引っ掛かるな」

 鑑定で壁とやらを視てみるが、ノイズだらけで何も視ることはできない。

 そこに違和感を感じる……こうしたイベントの時に、仕掛けを解除する条件が隠されるなんてことあるのか?

 イベントが起きるのは初めてだが、これまでやってきた感覚からして、それはあまりないと思う。

 ……ふと周りを見れば、まだ数十人の者たちが残っていた。

 視れば全員『扇動』に罹るような者ではなく、一人一人が強者のオーラを出している気がした……というか、そういうオーラが視覚に入っている。

 ──これはきっと、(格闘の心得)を持っているから見えたのだろう。



「皆さん、聞いてください」

 突然、光のような眩いオーラを持った少年が俺たちに声をかける。
 片手剣を一本腰に下げているので、恐らく戦士系の職業なんだろう。

 状況を打破する方法を、この中の誰もが求めていた……故に全員が彼の方を向き──告げられた。

「この結界は、イベントの物ではなく人為的な、しかもプレイヤーが作った物です」

『──っ!?』

 ほとんどの者から、息を呑むような音が聞えてくる。
 俺もまた、その一人である。

(あの結界を……プレイヤーが? たくさんのプレイヤーたちが集まって攻撃しても、全くビクともしないこの結界を──プレイヤーがやったのかよ?!)

 スキルか魔法なのか……それはともかく、プレイヤーが寄って集って攻撃をしてもいっさい変化がなかった。

 防御特化のプレイヤーだとしても、それは初心者には絶対にできないことだ。

 俺と同じ考えをしたのか、一瞬周りのオーラも動揺したように動いていた。

『なぜ、そうだと言い切れる』

 黒いオーラを纏う黒騎士が少年に尋ねた。
 かぶとを通して聞こえる声は、くぐもっていて性別が分からない。

「理由はボクの【固有】スキルにあります。詳しくは言えませんが……そのスキルには、鑑定を強化したような能力が備わってます。そしてそのスキルで鑑定をしてみると──このような鑑定結果が出てきたのです』

 少年はそういってから、周りに見えるように可視化した状態で鑑定結果を表示する。

---------------------------------------------------------
空■壁 発動者:ライ■ン

系統:空■系防■魔法
使■魔力:■0■
耐■度:1■■5/2■■0

あらゆるものを■る空■の■を創りだす
耐■度が無くなるまで、スキルLv/使用したMP分維持す■ことが可能
また、攻■を受けることで耐■度が減■する
---------------------------------------------------------

『──なっ!!』

 俺たちは全員、声を上げてしまう。
 一部一部虫食い状態になっているものの、ある程度の情報が読み取れた。

 ──これは空間魔法の一つ“空間壁レイヤーウォール”。

 噂程度にしか知られていないβ版でも、片手で数えられる程の者しか習得できなかった魔法だ。

 それには、いくつか理由があって──
 ・闇魔法の派生だが、光属性のスキルを一つでも習得していないとリストに出現しない
 ・出たとしても消費SPが高い
 ・なかなかLvが上がらないため、諦める
 などといったことがあり、ほとんどの者が習得しなかった魔法なのだ。

 しかし、成長したら強くなる大器晩成型の魔法であり、欲しがる者はたくさんいた。

 なので、そういった類の者がこの魔法を使用した……そこまではまだ良い……いや、あまりよくないのだが。

 問題はそんな取得に手間が掛る魔法を──僅か一週間・・・で習得していることだ。

(いくらなんでも、速すぎる!)

 β版を行ったプレイヤーとも考えたが、引き継ぎができるのはお金や装備の引き継ぎだけであり、スキルを引き継ぐことは不可能だと掲示板に書かれていたのを思いだす。

 なのにこの『ライ■ン』は、それをそんな難関な魔法を発動させている。

 だからこそ、この場にいる者たちは驚いているのだ。


「いったいこの『ライ■ン』って奴は何者なのよ。私だって、まだ光と闇の魔法はそれぞれ20ぐらいなのに」

 典型的な魔法使いのような恰好をした少女が、その情報に荒んでいた。

 魔法に長けた森人や魔族ではなく、全てに適性を持つ普人を種族として選んでいることから、バランス良くすべての魔法を使う予定なのだろう。

 魔法の習得速度に関しては、普人のプレイヤーとしては早いと思った。

「この『ライ■ン』という人には、ぜひうちの作る予定のギルドに入ってもらいたいな』

 緑のオーラを放つエルフの女が、そういった瞬間──

 ピンポンパンポーン

≪──ただいま、レイドボスモンスターが討伐されました
 従いまして、これにてレイドイベント『草原の乱』を終了します
 なお、討伐ポイントはこちらで集計し、後日発表します
 また、今回の戦闘映像はホームページでも公開しますので、ぜひご視聴ください
 皆様、今イベントへのご参加お疲れ様でした──≫


『…………』

 どうやら『ライ■ン』がボスを討伐したようだ……というか、他に森へ向かえた奴がいないんだよな。

 これだけの魔法を使うために、奴は相当なMPを使ったはずだ。

 魔法を維持するためにMPは常時消費するだろうし、今知られているMPポーションでは回復量など微々たるもの。

 つまりは魔法などほぼ使えない状態で、奴はレイドボスを討伐したのだ。

 それなのに、こんなにも早く……とりあえず俺がすべきことは、ホームページの戦闘記録に『ライ■ン』が写ってないかどうか、それを調べることだな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 少し時間は遡り、メルスがレイドボスへ挑む寸前となる。



 レイドボスの気配を求めて向かった先は、町から北東辺りにある森だ。

 その中央部分にレイドボスが居る、と俺の(気配感知)が告げていた。

「みんな頑張ってるし……とりあえず、周りに被害がいかないように隔離しておくか」

 そう呟いた俺は空間魔法──“空間壁”を創りだす。

 森を囲うようなイメージをして、魔力を注ぎ込んで発動させる。
 すると、辺り一面に広がる壁のようなものが出現した。……うん、いい出来だ。

 この“空間壁”は、空間魔法レベル10で習得した魔法で……詳細はこんな感じだ──

---------------------------------------------------------
空間壁 発動者:ライアン(メルス)

系統:空間系防御魔法
使用魔力:600
耐久度:2000/2000

あらゆるものを遮る空間の層を生みだす
維持することで耐久度が無くなるまで、スキルレベル/使用したMP分維持が可能
また、攻撃を受けることで耐久度が減少する
---------------------------------------------------------

 ──こんな感じだ。

 えっ、ライアンって誰だって?
 (上級隠蔽)スキルの中に名前偽装って機能があったから、ちょっと使ってみたんだ。

 もしかしたら誰かに見られちゃうかもしれないし、{感情}で効果の高まった隠蔽を看破できる奴はそう居ないだろう……と、いうことで用意はバッチリだ。

 特に名前の部分は念入りに隠してあるし、名前を見抜くことすら不可能かもな。


 閑話休題バレバレだった


「さて、そろそろ行くかな?」

 プレイヤーの観察などをしていたが、そろそろレイドボスが動きそうだ。

 たぶん、扇動組がやっていたことが本当に引き金となったんだろう。

 翼をはためかせ、俺は森の奥地へ進んだ。


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