我が家の床下で築くハーレム王国

りょう

閑話6 姉妹の時間

「お姉ちゃん!」

 演説が終わってひと段落した後、私は見失う前にお姉ちゃんの元へと駆け寄った。さっきは翔平が連れて行ってしまっていたけど、どうやらそれも終わり一人でどこかへ向かおうとしていたところだった。

「ハナティア、無事に演説は終わったの?」

「うん。緊張はしたけど私何とか頑張った」

「そう。それならよかった」

 それだけを確認したお姉ちゃんは私を置いてまたどこかへと歩き出す。

「待ってよお姉ちゃん! ずっと私お姉ちゃんに会いたくて、それでやっと今日再会できたのに、どうしてどこかへ行こうとするの?」

「どうしても何も、私はハナティアには話すことはないし、疲れたから家に帰る。それだけよ」

「お姉ちゃんはなくても、私は沢山話したいことが……」

「公の場であんな事を勝手に言っておいて、今更何の話があるの? 少し勝手すぎるわよハナティア」

「勝手も何も、私だってここまで沢山悩んできて……」

「私や翔君の気持ちは考えたの?」

「そんなの考えたよ。お姉ちゃんの気持ちも、翔平の気持ちも。お姉ちゃんこそさっきから否定してばかりで、私の気持ちを理解していない!」

 その私の言葉にお姉ちゃんは歩みを止める。だけど決してお姉ちゃんは私の方を振り向いてくれなかった。

「私いつかはお姉ちゃんと再会できるって信じてたの。お姉ちゃんはトリナディアから離れても、私のたった一人のお姉ちゃんだし、いつかは必ず王女の位に戻れるって思っていたの。だから沢山悩んできて、今日この日を迎えたのにどうしてそんなに冷たくするの? 私すごく寂しいよ!」

 ずっと想っていた私のお姉ちゃんへの想いを全てぶつける。これが沢山の人に迷惑をかける事になるって分かっていても、私にとってお姉ちゃんは大切な家族だ。

(だからこうして再会できたのだって)

 本当はすごく嬉しいに決まっている。

「そういうあなたこそ、何も分かってないわよハナティア。私の気持ちも、翔君の事も何も。そしてあなた自身の事も」

「お姉ちゃんと翔平の事はともかくとして、私は私自身の事はちゃんと理解しているよ」

「ううん、あなたはまだ何も分かっていない。王女としてあなたがその場所に立っている本当の意味、そしてあなた自身の秘密。まだ知らない事ばかり」

「私自身の……秘密?」

 その突然のキーワードに私はしばらく思考が停止する。そんな事一度も考えた事もなかったし、自分の事だから全部知っていると思っていた。
 だけど自分が知らない私がいる。
 お姉ちゃんしか知らない私がいる。
 その言葉の意味を考えた時、私は少しだけ怖くなった。

「その反応だとやっぱり考えた事もなかったみたいな。だとしたらいい機会だし、もう少し自分の事を見つめ直してみなさい。そうすればきっと答えを見つけられると思うから」

 そう言い残して、お姉ちゃんは再び私を置いて歩き出してしまった。今度は呼び止められるような気力も湧いてこない。それに呼び止めたところで、もう立ち止まってもくれない。私はそれを理解していた。
 理解していたこそ悲しくなった。

(お姉ちゃん……)

 いつかは会いたいと願い続けていた姉と私の間には、もう埋める事ができない大きな溝ができていた。

 ■□■□■□
 演説での一件以来、私は何故か翔平を遠ざけるようになっていた。決して翔平が何か悪い事をしたわけではない。だけど何故か私は翔平と距離を置き続け、それは気がつけば十月になるまで続いていた。

(何やっているんだろう、私……)

 最近ため息が絶えない。十月には私と翔平の結婚式という重大なイベントも控えているというのに、依然として翔平との距離は開いたまま。こんな状態が続いてしまえば、結婚式どころの話ではない。

「ハナちゃん、遊びに来たよー」

 そんな落ち込んでいる私に、空気も読まずにミルが遊びにやって来た。別に呼んでもいないのに、どうして彼女はいつもいつも……。

「相変わらず元気でいいわね。私は落ち込んでいるのに」

「あれもしかしてハナちゃん、元気がないの?」

「見ての通り、分からないの?」

 やれやれとため息をまた一つ。このままだと幸せが逃げ出してしまいそうだ。

「もしかしてダーリンと何かあったの?」

「いい加減翔平をダーリンって呼ぶのはやめなさいよ。……何かあったというか、私が単に翔平を遠ざけているだけなんだけど」

「それって大丈夫?」

「大丈夫な訳ないでしょ! 私がどうかしちゃってるのも分かっている。だけど、私今は自分の事で手が一杯で、翔平と顔を合わせるのも怖いの。サクヤとだって、あの日からずっと……」

 まるで今の心を表すかのように涙が溢れ出す。スズハという新しい友達もできて、少しだけ気が楽になったと思っていた。だけど、お姉ちゃんとの一件、サクヤとの一件、どちらも私にとっては辛いことばかり過ぎて、立ち直る事ができない。

「でも遠ざけ続けるのもよくないよ? きっとダーリンだってハナちゃんと話したい事があると思うし」

「翔平が私に?」

「この前ダーリンが一人でお留守番している時に、私会いに行ったんだけどね」

 その次にミルが語ったのは私が知らなかった、知りたくなかった話だった。だってその話は、

「あんた、何を余計な事を翔平に……」

「余計な事じゃないよ。本来だったら気づかないといけない話だし、何よりハナちゃん自身が目を逸らしちゃいけない話のはずだよ」

「だからって何でいつも余計な話をするのよあんたは! 私の気持ちも考えないで!」

 私自身ですら最近知った話なんだもの。

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