我が家の床下で築くハーレム王国
第70話すれ違う思い
突然だが話は八月の終盤に遡る。バイトを終えて店を出ると、俺を待っている人がいた。
「やっぱりここでアルバイトしてたんだ」
「わざわざ調べたんですか?」
「もう一度会って話したかったの」
「それを避けたのはそっちですよね」
待っていたのはクレナティアさん。以前会った時は偶然だったが、今回は彼女の方から意図的に会いに来た。
「あの時は勝手に帰ってごめんなさい。でも今日会いに来たのは、その話をしに来たわけでもないの」
「だったら、何しに会いに来たんですか? 俺から話せる事なんて何もないですよ」
とりあえず俺は家に向かって歩き出す。しかしクレナティアさんがついてきていない事に俺は気づいた。
「ハナティアにもう子供がいるって話を聞いたんだけど、それは本当なの?」
俺は歩くのを止めて、彼女の方に振り向く。
「どうしてそれを?」
「その返し、肯定と受け取っていいのね。それだったら、今すぐ子供を産むのをやめさせなさい」
「え?」
「もう一度言うわ。今国を変えようとしているのは見て分かるんだけど、本当にそう思っているなら出産はやめなさい」
「な、何をいきなり滅茶苦茶な事を」
「滅茶苦茶でも何でもないわ。トリナディアを想っているならこそ、その選択は大事になってくるの」
俺はただパニックになっていた。本来王女になるはずだった人からの言葉だからこそ重みがあるのだけれど、俺はそれを受け入れられない。
(確かに国の為に子供を産むなんて話は間違っているけど)
だからって今ここまで来て、出産をやめさせるなんて話は間違っている。
「俺はクレナティアさんが何を言っているのか、理解できません」
「理解をする必要はないわ。だから単刀直入に言ったの」
「じゃあ俺はそれを拒否します」
「どうして?」
「俺には理屈は分かりませんけど、その選択はハナティアから幸せを奪う事になります。俺にはそんな事はできません」
「幸せの形は決して一つじゃないわ。もしこの先あなたがハナティアと結婚して、家族になろうと言うのなら、出産は確実にあなた達の幸せを奪う事になる。私はそれに気がついてしまったから……」
「王位から降りたとでも言いたいんですか? だったら、まず説明をしっかりしてください。話はそれからです」
いきなりそんな事言われても俺は当然納得できない。それなりの理由があるなら、まずその理由を聞きたい。判断するのはそれからだ。
(まあどんな理由だったとしても)
多分納得しないと俺は思っていた。
「元から話すつもりだったから、今日ここに来たの。でも話す前に約束を一つしてほしいの」
「約束ですか?」
「この事はハナティアには黙っていてほしいの」
だけどそれも簡単に崩れてしまう。
この先クレナティアさんから語られたのは、子供を産むという事自体には何も問題ないのだが、それを行った結果だった。
ともシンプルな話なのだが、クレナティアさんが出産を止めさせようとしている理由はそれを聞いただけで理解できた。
「子供を産めばハナティアが死ぬ……それは本当なんですか?」
「本当よ。そしてそれが、この国の人口が減り始めている真実なの」
子供を産めば死んでしまう。それはあまりに残酷すぎる話。
未来へ繋げる架け橋が、少しずつ壊れ始めている証拠だった。
■□■□■□
話は現在に戻る。
「翔平、どうして隠し事をしているの? お姉ちゃんに内緒であっていた事については別に怒らないよ。でも翔平がお姉ちゃんと話す事なんてあったの?」
「俺からは特にも無かったよ。この前はあっちから会いに来たんだよ」
「ほとんど翔平とお姉ちゃんに面識がないのに、そんなのおかしいよ」
「俺も不思議だったよ。何で会いに来たのかって」
でも話を聞いて俺は理解した。クレナティアさんはあの事を俺にしか話せない事だったのだと。それは誰よりも妹の事を思っていたからこその選択だろうし、俺はそれを尊重したいと思っている。
(ハナティアが死ぬなんて、そんな話考えたくはないけど)
それを無視するような事なんて出来なかった。
「なあハナティア、出産っていつくらいになるんだ」
「いきなり何を聞いているのよ。多分来年の一月か二月になると思うけど」
「あと約半年か……」
その間に俺は覚悟ができるのだろうか。リスクを背負わせてハナティアに子供を産ませる事を。しかもそのリスクは、一生消えない後悔になりえるかもしれない。
(それを避けるために、クレナティアさんは俺に選択を与えた)
今すぐ出産を止めさせるか。
そのリスクを背負ってでも子供を産ませるか。
止めさせてと言いながらも、最後の最後に彼女は二つの選択肢を出した。どちらが俺達に幸せを与えてくれるか分からない。もはや神頼みのレベルになる可能性もある。
だから俺の中では答えが決まっていた。
「翔平?」
「ハナティア、俺は子供をお前に産んでほしくない」
リスクを背負うより、より安全な方を選びたい。たとえそれが幸せに繋がらなかったとしても、ハナティアを失うくらいなら俺は……。
「ちょっと、いきなり何を言い出してるのよ。私の事を嫌いになったの? だから家族になりたくなくて」
「違う。そうじゃない。そうじゃないんだよ、ハナティア」
「だったら何なのよ? 出産は私の、ううん女性の夢なの。どうしてそれを」
「その夢を叶えたら、お前は」
「温泉の時、翔平が告白してくれたのはすごく嬉しかった。二十年ずっと待っていたんだから。やっと家族になれるんだって。でも翔平が考えている事は違ったんだね。男の責任とか言っていたのに、本当は翔平にとってはどうでもよかった。全部嘘だったんだ」
話を聞く気がないハナティア。俺の言葉の選び方も悪かったかもしれないが、包み隠さず話したほうが伝わると思った。
だけどそんなの、ただの勘違いだった。
「だから違うって」
「出てって。もう翔平とは会いたくない!」
「っ!?」
話は最悪の方に転んでしまった。
「私悲しいよ。両思いだと思っていたのは私だけだったんだね」
「違うんだ、俺はお前を」
「翔平が出て行かないなら、私が出てく。元気でね」
ハナティアは俺を押しのけて部屋を出て行ってしまう。俺はそんな彼女に声もかける事もできずに、一人部屋に取り残されてしまった。
(ハナティア……)
俺は何を間違えたんだ。
「やっぱりここでアルバイトしてたんだ」
「わざわざ調べたんですか?」
「もう一度会って話したかったの」
「それを避けたのはそっちですよね」
待っていたのはクレナティアさん。以前会った時は偶然だったが、今回は彼女の方から意図的に会いに来た。
「あの時は勝手に帰ってごめんなさい。でも今日会いに来たのは、その話をしに来たわけでもないの」
「だったら、何しに会いに来たんですか? 俺から話せる事なんて何もないですよ」
とりあえず俺は家に向かって歩き出す。しかしクレナティアさんがついてきていない事に俺は気づいた。
「ハナティアにもう子供がいるって話を聞いたんだけど、それは本当なの?」
俺は歩くのを止めて、彼女の方に振り向く。
「どうしてそれを?」
「その返し、肯定と受け取っていいのね。それだったら、今すぐ子供を産むのをやめさせなさい」
「え?」
「もう一度言うわ。今国を変えようとしているのは見て分かるんだけど、本当にそう思っているなら出産はやめなさい」
「な、何をいきなり滅茶苦茶な事を」
「滅茶苦茶でも何でもないわ。トリナディアを想っているならこそ、その選択は大事になってくるの」
俺はただパニックになっていた。本来王女になるはずだった人からの言葉だからこそ重みがあるのだけれど、俺はそれを受け入れられない。
(確かに国の為に子供を産むなんて話は間違っているけど)
だからって今ここまで来て、出産をやめさせるなんて話は間違っている。
「俺はクレナティアさんが何を言っているのか、理解できません」
「理解をする必要はないわ。だから単刀直入に言ったの」
「じゃあ俺はそれを拒否します」
「どうして?」
「俺には理屈は分かりませんけど、その選択はハナティアから幸せを奪う事になります。俺にはそんな事はできません」
「幸せの形は決して一つじゃないわ。もしこの先あなたがハナティアと結婚して、家族になろうと言うのなら、出産は確実にあなた達の幸せを奪う事になる。私はそれに気がついてしまったから……」
「王位から降りたとでも言いたいんですか? だったら、まず説明をしっかりしてください。話はそれからです」
いきなりそんな事言われても俺は当然納得できない。それなりの理由があるなら、まずその理由を聞きたい。判断するのはそれからだ。
(まあどんな理由だったとしても)
多分納得しないと俺は思っていた。
「元から話すつもりだったから、今日ここに来たの。でも話す前に約束を一つしてほしいの」
「約束ですか?」
「この事はハナティアには黙っていてほしいの」
だけどそれも簡単に崩れてしまう。
この先クレナティアさんから語られたのは、子供を産むという事自体には何も問題ないのだが、それを行った結果だった。
ともシンプルな話なのだが、クレナティアさんが出産を止めさせようとしている理由はそれを聞いただけで理解できた。
「子供を産めばハナティアが死ぬ……それは本当なんですか?」
「本当よ。そしてそれが、この国の人口が減り始めている真実なの」
子供を産めば死んでしまう。それはあまりに残酷すぎる話。
未来へ繋げる架け橋が、少しずつ壊れ始めている証拠だった。
■□■□■□
話は現在に戻る。
「翔平、どうして隠し事をしているの? お姉ちゃんに内緒であっていた事については別に怒らないよ。でも翔平がお姉ちゃんと話す事なんてあったの?」
「俺からは特にも無かったよ。この前はあっちから会いに来たんだよ」
「ほとんど翔平とお姉ちゃんに面識がないのに、そんなのおかしいよ」
「俺も不思議だったよ。何で会いに来たのかって」
でも話を聞いて俺は理解した。クレナティアさんはあの事を俺にしか話せない事だったのだと。それは誰よりも妹の事を思っていたからこその選択だろうし、俺はそれを尊重したいと思っている。
(ハナティアが死ぬなんて、そんな話考えたくはないけど)
それを無視するような事なんて出来なかった。
「なあハナティア、出産っていつくらいになるんだ」
「いきなり何を聞いているのよ。多分来年の一月か二月になると思うけど」
「あと約半年か……」
その間に俺は覚悟ができるのだろうか。リスクを背負わせてハナティアに子供を産ませる事を。しかもそのリスクは、一生消えない後悔になりえるかもしれない。
(それを避けるために、クレナティアさんは俺に選択を与えた)
今すぐ出産を止めさせるか。
そのリスクを背負ってでも子供を産ませるか。
止めさせてと言いながらも、最後の最後に彼女は二つの選択肢を出した。どちらが俺達に幸せを与えてくれるか分からない。もはや神頼みのレベルになる可能性もある。
だから俺の中では答えが決まっていた。
「翔平?」
「ハナティア、俺は子供をお前に産んでほしくない」
リスクを背負うより、より安全な方を選びたい。たとえそれが幸せに繋がらなかったとしても、ハナティアを失うくらいなら俺は……。
「ちょっと、いきなり何を言い出してるのよ。私の事を嫌いになったの? だから家族になりたくなくて」
「違う。そうじゃない。そうじゃないんだよ、ハナティア」
「だったら何なのよ? 出産は私の、ううん女性の夢なの。どうしてそれを」
「その夢を叶えたら、お前は」
「温泉の時、翔平が告白してくれたのはすごく嬉しかった。二十年ずっと待っていたんだから。やっと家族になれるんだって。でも翔平が考えている事は違ったんだね。男の責任とか言っていたのに、本当は翔平にとってはどうでもよかった。全部嘘だったんだ」
話を聞く気がないハナティア。俺の言葉の選び方も悪かったかもしれないが、包み隠さず話したほうが伝わると思った。
だけどそんなの、ただの勘違いだった。
「だから違うって」
「出てって。もう翔平とは会いたくない!」
「っ!?」
話は最悪の方に転んでしまった。
「私悲しいよ。両思いだと思っていたのは私だけだったんだね」
「違うんだ、俺はお前を」
「翔平が出て行かないなら、私が出てく。元気でね」
ハナティアは俺を押しのけて部屋を出て行ってしまう。俺はそんな彼女に声もかける事もできずに、一人部屋に取り残されてしまった。
(ハナティア……)
俺は何を間違えたんだ。
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