我が家の床下で築くハーレム王国
第18話Lost memory 後編
照れるハナティアを可愛いと思いながらも、俺は話を元に戻す。
「じゃあつまり、俺はその二十年前の事故で記憶喪失になってたからハナティアの事も、トリナディアの事も、そしてその事故の事も思い出せなかったのか?」
「うん。でもまたトリナディアへやって来れば何かを思い出すんじゃないかって、私もサクヤも考えてたの」
「だからこの一ヶ月積極的に俺をトリナディアに呼んだのか?」
「でも本当はね、翔平が記憶を取り戻す事が私怖かったの。だってあの事故を思い出したら翔平はきっと辛くなると思ったから」
「馬鹿、俺ももう大人なんだ。そこまで弱い人間じゃないよ」
記憶喪失で本当はもう三十歳に近い年齢だって事には驚いたけど、何故かそれ以外は受け入れられた。むしろずっと疑問だった姉の家死について知れたから、少しだけスッキリしている。
(でもまだ、分からないことはある)
何故俺と姉ちゃんはかつて、トリナディアにいたのか。本来接点がないはずなのに、どうして昔からハナティアと交流できたのか。それにはもっと深い何かがあるような気がした。
「じゃあ墓参りも終わったし、そろそろ帰るか」
「うん」
ハナティアと二人で墓を出て行く。もしその事故が起きていなかったら、二人ではなく三人で一緒に歩いている何てこともあったのだろうか。
あったはずの未来。
それとは違う今。
そしていつの間にか失われていた思い出。
それをたった一人でハナティアは今日この日まで背負ってきたのだと思うと、姫とかそんなの関係なく一人の人間として無視できなくなる。
(それにハナティアは、姉ちゃんの命も継いでいるんだよな)
さっきも言っていたが、彼女は何とか臓器移植で命を取り留めたらしい。それはつまり、一人の命を背負っているという事になる。その重さは俺には測ることなんてできない。
「なあハナティア、一つ聞いていいか?」
「どうしたの?」
「今までの話をまとめると、お前は長い間俺や姉ちゃんの事思っていてくれたんだよな」
「思っていた、って言い方は少し変だけど、翔平が目覚めるのをずっと待っていたのは本当だよ。でも記憶喪失だなんて聞いた時は、ショックだった」
「ごめんな。長い間思い出せなくて。それにお前の中には姉ちゃんがいるのに、気付けなかったんだ。本当に我ながら情けないよ」
「翔平は何も悪くないよ。元々翔平と再会して思い出してほしいって決めたのは私だし。翔平の両親が快諾してくれなかったら、こうはならなかったから。それに」
「それに?」
「やっとこの話が翔平にできた、それだけで嬉しいから。まだ全部思い出せてないかもしれないけど、それでも私は構わないから」
「ハナティア……」
こうして一旦とはいえ、ゴールデンウィークから続いていた問題は終わりを告げた。
五月も半分が終わり、梅雨の季節が近づき始めたある日の休日の話である。
「ところでさ翔平、私お腹減ったんだけど」
「ったく、何か食べて帰るか?」
「うん!」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
墓参りから更に一週間が経過し、五月も終わりに近づいていた。いつも通り正志達と帰宅している途中、突然サクヤが現れて、二人だけで話したい事があるというので、仕方なく二人で近くの喫茶店に寄った。
「話って例の答えの事だろ?」
「お察しが良くて助かります。ハナティア様から大体の事はお伺いしているんですよね」
「ああ。ただ、あれで全部とは俺は思ってないけど」
「まだ隠し事があるとでも?」
「答えが出てない疑問がまだ残っているからな。まあ、それはまた後々見つけるよ」
「それで私の質問の答えの方は決まったんですよね。是非聞かせてもらいたいんですけど」
「決まった、とまでは言い切れないけど、これからの事は大方決めたよ」
あれから一週間、俺は色々な事を考えていた。ハナティアの事、例の計画の事、そして記憶の事。その中で俺はこの後どうするべきなのか、答えを出すのは苦労した。
「二ヶ月近くトリナディアで生活して、ハナティアの事を色々知れたと思っている。俺が考えている以上にあいつも苦労している事も」
「話は聞いておられると思いますけど、ハナティア様は長い間翔平様が目を覚ますのを待っておられました。あなたが記憶喪失だと聞いた後もずっと」
「それは申し訳ないと思っているし、もしハナティアの中に俺の姉ちゃんがいるなら、こうしてもう一度引き寄せてくれたのも姉ちゃんじゃないかと思うんだ」
「だから私は最初に仰ったのです。ハナティア様はあなたにとってただ一人の運命の人だって」
「今ならその言葉が理解できるよ」
その話もそうなのだが、ハナティアはそれ以外の事でも沢山の苦労をしてきているのも分かっている。むしろそれはこの先も続くのかもしれない。
「だからもし、ハナティアの力に少しでも力になれるなら、俺も協力するよ。トリナディア王国の為に」
「その答えに迷いはないんですね」
「ああ。ただ、学生生活とかは普通に送らせてくれ。正志達も俺にとっては大切な存在だから」
「協力してくださるなら、こちらも翔平様が楽に生活できるように尽力致しますので、勿論その話は了承します。ただ、これまでの生活とは少し変化してしまいますがよろしいですか?」
「勿論だ」
「それでは一度トリナディアに戻って、手続きを致しましょう」
そう言ってサクヤが立ち上がる。俺も一緒に立ち上がり歩き出す。
(ただ一人の運命の人か……)
ハナティアと俺がまだ小さい頃から会っていたとしたら、それはもっと前から決まっていた事なのかもしれない。それが今からようやく動き出そうとしている。
(これから先長そうだな)
どうやら俺の人生は、今から新しい道が始まりそうだ。
「ところでハナティア様の部屋にダブルベッドを用意しようと考えているのですが、いかがでしょうか?」
「真面目な話から何言い出すんだお前は。俺は決してハナティアとそこまでの関係はまだ」
「設置に関しては異議はないんですね」
「やめてくれ、いくら何でもそれは早すぎるから!」
俺の新しい道は、ある意味険しいかもしれない。
「じゃあつまり、俺はその二十年前の事故で記憶喪失になってたからハナティアの事も、トリナディアの事も、そしてその事故の事も思い出せなかったのか?」
「うん。でもまたトリナディアへやって来れば何かを思い出すんじゃないかって、私もサクヤも考えてたの」
「だからこの一ヶ月積極的に俺をトリナディアに呼んだのか?」
「でも本当はね、翔平が記憶を取り戻す事が私怖かったの。だってあの事故を思い出したら翔平はきっと辛くなると思ったから」
「馬鹿、俺ももう大人なんだ。そこまで弱い人間じゃないよ」
記憶喪失で本当はもう三十歳に近い年齢だって事には驚いたけど、何故かそれ以外は受け入れられた。むしろずっと疑問だった姉の家死について知れたから、少しだけスッキリしている。
(でもまだ、分からないことはある)
何故俺と姉ちゃんはかつて、トリナディアにいたのか。本来接点がないはずなのに、どうして昔からハナティアと交流できたのか。それにはもっと深い何かがあるような気がした。
「じゃあ墓参りも終わったし、そろそろ帰るか」
「うん」
ハナティアと二人で墓を出て行く。もしその事故が起きていなかったら、二人ではなく三人で一緒に歩いている何てこともあったのだろうか。
あったはずの未来。
それとは違う今。
そしていつの間にか失われていた思い出。
それをたった一人でハナティアは今日この日まで背負ってきたのだと思うと、姫とかそんなの関係なく一人の人間として無視できなくなる。
(それにハナティアは、姉ちゃんの命も継いでいるんだよな)
さっきも言っていたが、彼女は何とか臓器移植で命を取り留めたらしい。それはつまり、一人の命を背負っているという事になる。その重さは俺には測ることなんてできない。
「なあハナティア、一つ聞いていいか?」
「どうしたの?」
「今までの話をまとめると、お前は長い間俺や姉ちゃんの事思っていてくれたんだよな」
「思っていた、って言い方は少し変だけど、翔平が目覚めるのをずっと待っていたのは本当だよ。でも記憶喪失だなんて聞いた時は、ショックだった」
「ごめんな。長い間思い出せなくて。それにお前の中には姉ちゃんがいるのに、気付けなかったんだ。本当に我ながら情けないよ」
「翔平は何も悪くないよ。元々翔平と再会して思い出してほしいって決めたのは私だし。翔平の両親が快諾してくれなかったら、こうはならなかったから。それに」
「それに?」
「やっとこの話が翔平にできた、それだけで嬉しいから。まだ全部思い出せてないかもしれないけど、それでも私は構わないから」
「ハナティア……」
こうして一旦とはいえ、ゴールデンウィークから続いていた問題は終わりを告げた。
五月も半分が終わり、梅雨の季節が近づき始めたある日の休日の話である。
「ところでさ翔平、私お腹減ったんだけど」
「ったく、何か食べて帰るか?」
「うん!」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
墓参りから更に一週間が経過し、五月も終わりに近づいていた。いつも通り正志達と帰宅している途中、突然サクヤが現れて、二人だけで話したい事があるというので、仕方なく二人で近くの喫茶店に寄った。
「話って例の答えの事だろ?」
「お察しが良くて助かります。ハナティア様から大体の事はお伺いしているんですよね」
「ああ。ただ、あれで全部とは俺は思ってないけど」
「まだ隠し事があるとでも?」
「答えが出てない疑問がまだ残っているからな。まあ、それはまた後々見つけるよ」
「それで私の質問の答えの方は決まったんですよね。是非聞かせてもらいたいんですけど」
「決まった、とまでは言い切れないけど、これからの事は大方決めたよ」
あれから一週間、俺は色々な事を考えていた。ハナティアの事、例の計画の事、そして記憶の事。その中で俺はこの後どうするべきなのか、答えを出すのは苦労した。
「二ヶ月近くトリナディアで生活して、ハナティアの事を色々知れたと思っている。俺が考えている以上にあいつも苦労している事も」
「話は聞いておられると思いますけど、ハナティア様は長い間翔平様が目を覚ますのを待っておられました。あなたが記憶喪失だと聞いた後もずっと」
「それは申し訳ないと思っているし、もしハナティアの中に俺の姉ちゃんがいるなら、こうしてもう一度引き寄せてくれたのも姉ちゃんじゃないかと思うんだ」
「だから私は最初に仰ったのです。ハナティア様はあなたにとってただ一人の運命の人だって」
「今ならその言葉が理解できるよ」
その話もそうなのだが、ハナティアはそれ以外の事でも沢山の苦労をしてきているのも分かっている。むしろそれはこの先も続くのかもしれない。
「だからもし、ハナティアの力に少しでも力になれるなら、俺も協力するよ。トリナディア王国の為に」
「その答えに迷いはないんですね」
「ああ。ただ、学生生活とかは普通に送らせてくれ。正志達も俺にとっては大切な存在だから」
「協力してくださるなら、こちらも翔平様が楽に生活できるように尽力致しますので、勿論その話は了承します。ただ、これまでの生活とは少し変化してしまいますがよろしいですか?」
「勿論だ」
「それでは一度トリナディアに戻って、手続きを致しましょう」
そう言ってサクヤが立ち上がる。俺も一緒に立ち上がり歩き出す。
(ただ一人の運命の人か……)
ハナティアと俺がまだ小さい頃から会っていたとしたら、それはもっと前から決まっていた事なのかもしれない。それが今からようやく動き出そうとしている。
(これから先長そうだな)
どうやら俺の人生は、今から新しい道が始まりそうだ。
「ところでハナティア様の部屋にダブルベッドを用意しようと考えているのですが、いかがでしょうか?」
「真面目な話から何言い出すんだお前は。俺は決してハナティアとそこまでの関係はまだ」
「設置に関しては異議はないんですね」
「やめてくれ、いくら何でもそれは早すぎるから!」
俺の新しい道は、ある意味険しいかもしれない。
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