(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

甘いものには福がある?・前編


「バレンタインデー?」
「そうなんですよ。女性が男性にチョコレートをあげる習慣のことなんですけれどね。メリューさんの住んでいた国では、そんな習慣無いですか?」

 サクラとメリューさんがキッチンで何やら作戦会議めいた何かをしている。
 ま、俺はあまり聞いていないフリをするんだけれどね。聞いていたら何て反応されるか分かったものではない。もしかしたら『どうして聞いているの!』なんて逆ギレされかねないし。女子の考えていることはいまいち分からないというか共感出来ない。ま、性別が違うから仕方ないことなのかもしれないがね。
 皿洗いを済ませた俺は、今日も今日とてボルケイノは閑古鳥が鳴く程の暇なので、宿題を片付けているというわけだ。料理の手伝いでも出来れば良いのだが、俺はあまり料理が得意じゃないし。

「……ケイタ、暇?」
「ケイタ、暇?」

 鬼の姉妹、シュテンとウラがカウンター越しから俺に問いかける。
 ああ、見れば暇じゃ無いことぐらい分かるだろうに。

「……見れば分かるだろ。どうみても暇じゃ無いってことぐらい」
「えー」
「遊ぼうよー。どうせお客さん誰も来ないんだしー」

 ……だったら最初からそう言えば良いものを。
 しょうがない。ちょうど勉強も詰まってきていたところだ。だったら身体を動かせば少しは気分転換になるかもしれない。そう思って立ち上がると、棚の一番下に仕舞っていたバケツを取り出す。ただのバケツでは無い。遊び道具が入った、シュテンたち用の特別なバケツだ。ボールとか、シャベルとか、いろいろ入っている。

「メリューさん、サクラ。ちょっとシュテンとウラと遊んでくるから」
「はいよー。お客さん来たらベルで呼ぶからね」
「りょーかい」

 軽い会話を済ませ、バケツを持った俺たちは裏口から外に出る。
 様々な異世界に繋がっている玄関とは違い、裏口から出るとボルケイノ固有の空間が広がっている。とはいっても広さはサッカーコート一つ分。……というと、かなりの大きさか。けれど家庭菜園も一緒にスペースに含めているので実際遊べるスペースはその三分の一くらいになる。まあ、子供二人が遊ぶんだからそんなもんで充分なスペースだと言えるだろう。
 因みにボルケイノの空間はお盆状になっている。だから普通ならお盆の縁から落ちることが出来るのだが、お盆の縁は壁になっていて落ちることが出来ない。まあ、安全対策が出来ているといえばそれまでなのだが、どうしてそんな仕組みになっているのかが分からない。一度メリューさんに聞いたことがあるが「それは私にも分からない」としか言わなかったし。まあ、世の中知らなくても良いことはある、というしそれがその一つなのだろう。


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