(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
冒険者の思い出・後編
冒険者が帰ってから、俺はカウンターの片づけをしていた。
「お疲れさま、ケイタ」
珍しくメリューさんが俺に近づいて話をしだした。俺から話をすることはほとんどなのだが、メリューさんから話をするのは非常に珍しい。
「お疲れ様です。……どうしました? 急にやってくるなんて。メリューさんらしくない」
「いや……。少しあの冒険者を見て懐かしくなってな。あ、仕事はそのままし続けて構わないぞ。私の昔話みたいなものだ。飽きたらそのまま話すだけ話してどこかに行くからな」
そういうものでいいのだろうか。
まあ、要するに。ただの自己満足ということになるのだろうか。
「……昔、私が人間で冒険者だったころがあったことは話しただろう? あの時、一緒に冒険をしたことがある冒険者が居る。それが彼女だった」
それを聞いて俺は納得した。
だから冒険者の手帳にはメリューさんの名前が書かれていたのか。
メリューさんの話は続く。
「彼女と旅をしたのは数回だったが、私としてはあまり思い出が無かった。でも彼女にとっては……忘れることのない思い出になっていたのだろうな。現に、彼女と私が出会うのはずいぶんと久しぶりのことになったはず。ドラゴンメイドになって外見が変わってしまっているというのに、彼女はすぐに気が付いたしな」
「……それじゃ、あの人には伝えるんですか?」
「どうやって伝えるっていうんだ」
メリューさんは俺の言葉を鼻で笑った。
「別に伝える必要もないだろう? 私はここで生活をしているんだ。ここで新しい生活をしているんだ。あのころとは違う、別の仕事もしている。別にあのころのことをタブーとしているわけでもないが……」
「あなたは今のあなたがどういう存在であるかを、かつてのあなたの知り合いに知られたくないのでしょう?」
そう言ったのはティアさんだった。いつの間にか、カウンターの椅子に腰掛けてメリューさんのほうを見つめていた。
「あんた、いつの間に……」
「あら、いやですね。私はいつもここに居ましたよ。まあ、確かにそう不思議がられるのも解らなくはないですが……。けれど、人間はそう思うことが多いと聞きますよ?」
「……何の話かしら」
「だから言ったじゃないですか。人間は自分が変わってしまったことを、変わった前の人間に知られたくない……そういうデータが多い、って。実際そうだと思いますし、それについては間違っていないと思いますよ、というだけのことです。別にあなたが悪いわけじゃありません。統計的に考えてそういうことというだけですよ」
「もういいわ。……あなたと話していると、気分が冷める」
そう言ってメリューさんはまた厨房へと戻っていった。
俺に何か話があったようだったが――それについてメリューさんを呼び止めてわざわざ聞き出そうとは思わなかった。メリューさんが話す気分じゃないのなら、無理に聞き出すことでもない。そう判断したからだ。
さて。俺は片づけを再開しようと、再びカウンターに置かれた皿を仕舞いだす。
「――もしかしたら、終わりが近いかもしれないね?」
「え?」
ティアさんはそれだけを言って、カウンターの椅子から離れていった。
俺はその言葉の意味が理解できなかった。
だが、そのことを俺は嫌でも理解することになる。
しかしそれについては、まだいくつか語らないといけないエピソードがあるのだけれど。
「お疲れさま、ケイタ」
珍しくメリューさんが俺に近づいて話をしだした。俺から話をすることはほとんどなのだが、メリューさんから話をするのは非常に珍しい。
「お疲れ様です。……どうしました? 急にやってくるなんて。メリューさんらしくない」
「いや……。少しあの冒険者を見て懐かしくなってな。あ、仕事はそのままし続けて構わないぞ。私の昔話みたいなものだ。飽きたらそのまま話すだけ話してどこかに行くからな」
そういうものでいいのだろうか。
まあ、要するに。ただの自己満足ということになるのだろうか。
「……昔、私が人間で冒険者だったころがあったことは話しただろう? あの時、一緒に冒険をしたことがある冒険者が居る。それが彼女だった」
それを聞いて俺は納得した。
だから冒険者の手帳にはメリューさんの名前が書かれていたのか。
メリューさんの話は続く。
「彼女と旅をしたのは数回だったが、私としてはあまり思い出が無かった。でも彼女にとっては……忘れることのない思い出になっていたのだろうな。現に、彼女と私が出会うのはずいぶんと久しぶりのことになったはず。ドラゴンメイドになって外見が変わってしまっているというのに、彼女はすぐに気が付いたしな」
「……それじゃ、あの人には伝えるんですか?」
「どうやって伝えるっていうんだ」
メリューさんは俺の言葉を鼻で笑った。
「別に伝える必要もないだろう? 私はここで生活をしているんだ。ここで新しい生活をしているんだ。あのころとは違う、別の仕事もしている。別にあのころのことをタブーとしているわけでもないが……」
「あなたは今のあなたがどういう存在であるかを、かつてのあなたの知り合いに知られたくないのでしょう?」
そう言ったのはティアさんだった。いつの間にか、カウンターの椅子に腰掛けてメリューさんのほうを見つめていた。
「あんた、いつの間に……」
「あら、いやですね。私はいつもここに居ましたよ。まあ、確かにそう不思議がられるのも解らなくはないですが……。けれど、人間はそう思うことが多いと聞きますよ?」
「……何の話かしら」
「だから言ったじゃないですか。人間は自分が変わってしまったことを、変わった前の人間に知られたくない……そういうデータが多い、って。実際そうだと思いますし、それについては間違っていないと思いますよ、というだけのことです。別にあなたが悪いわけじゃありません。統計的に考えてそういうことというだけですよ」
「もういいわ。……あなたと話していると、気分が冷める」
そう言ってメリューさんはまた厨房へと戻っていった。
俺に何か話があったようだったが――それについてメリューさんを呼び止めてわざわざ聞き出そうとは思わなかった。メリューさんが話す気分じゃないのなら、無理に聞き出すことでもない。そう判断したからだ。
さて。俺は片づけを再開しようと、再びカウンターに置かれた皿を仕舞いだす。
「――もしかしたら、終わりが近いかもしれないね?」
「え?」
ティアさんはそれだけを言って、カウンターの椅子から離れていった。
俺はその言葉の意味が理解できなかった。
だが、そのことを俺は嫌でも理解することになる。
しかしそれについては、まだいくつか語らないといけないエピソードがあるのだけれど。
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