(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
勇者の晩餐・後編
母親のシチュー。
その意味に、何があるのか知らない俺でも無かった。
彼の恰好からして長らく旅をしているか、或いは簡単に家に帰れないのかどちらかだろう。もしそれがほんとうであるならば、彼は家族の味を食べたいに決まっている。
でも、それにはリスクがある。そのリスクは、その味を食べたことにホームシックに陥らないか、ということだ。母親の味を食べることによって、家に居た時の記憶がフラッシュバックして途端に家に帰りたくなるのではないか――そんな可能性だって、十分に考えられる。
少年は、溜息を吐きながら、そしてゆっくりとシチューを啜った。
カタン、とスプーンを置いて少年は目を細める。
「……なあ、マスター。話を聞いてはくれないか。長くなるかもしれないし、取り留めのない話かもしれないけれど」
「ええ、別に構いませんよ」
こういう話は聞いたほうがいい。俺としても暇にならなくて済むということもあるし、こういうお客さんの話を聞いておくことで、お客さんのストレス発散に繋がることもある。
そうして、少年はゆっくりと話を始めた。
少年の話は長いものではなかった。ただ、どちらかというと思い出したり時系列が巻き戻ったりしてしどろもどろに思える点が多かった。だから、俺のほうで要約するとこんなことだった。
少年は勇者だった。そうして二週間前に生まれた村を出て行ったが、孤独の戦いは弱冠十歳の少年には苦労ばかりが連なるものだったという。しかしながら、教皇というその世界で一番の権力を持ち、なおかつ神の言葉を代行する役割の存在から、勇者だと言われて断る人間はその世界にいるはずもなく、少年は仕方なくそれに従うことしか出来なかったのだという。
しかし孤独の戦いに疲れてしまい、唯一の仲間と呼べる存在も魔王の毒に倒れてしまったのだという。そして今は魔王城手前の町に仲間を置き、一人あるものを探しているのだという。
「……あるもの、って?」
「世界のどこかにある世界樹、その葉には生き物を蘇生させる力があるといいます。それを探している最中に、滅びた街を見つけて……唯一無事だった建物の扉を開けたら、」
「成る程。ここに着いた、ってことね……」
そう言ったのはメリューさんだった。メリューさんはうんうん頷きながら、少年に言った。
「いずれにせよ、そのシチューを食べなさい。温まるわよ。一応言っておくけれど、ここは魔王とは何の関係もない。もっと言えば、別の世界だから」
「別の……世界?」
「このきれいな設備を見て、異世界以外の何が思い浮かぶと?」
メリューさんは両手を広げる。
それを聞いた少年は、ゆっくりと頷くと、やがて食事を始めるのだった。
◇◇◇
後日談。
というよりも、ただのエピローグ。
シチューを食べ終えたあと、彼は満足そうな表情で店を出て行った。そして、そのときメリューさんはあるものを渡していった。
貴重なものだけれど、とは言っていたが、その葉は少年が言っていた『世界樹の葉』なのだろう。どうしてメリューさんがそれを渡したのかは――俺の知る由もない。
ただ、一つだけ言えること。それは、少年が店を出て行って暫くして、昼食のタイミングでメリューさんがぽつりこう言ったことだった。
――なあ、ケイタ。あの勇者、無事に仲間を助けることが出来ればいいな?
その言葉に、俺は「そうですね」と言って頷くことしか出来なかった。
メリューさんのその表情には、過去に自分も同じ経験をしたような、なんてそんな悲しい雰囲気を漂わせていたから。
その意味に、何があるのか知らない俺でも無かった。
彼の恰好からして長らく旅をしているか、或いは簡単に家に帰れないのかどちらかだろう。もしそれがほんとうであるならば、彼は家族の味を食べたいに決まっている。
でも、それにはリスクがある。そのリスクは、その味を食べたことにホームシックに陥らないか、ということだ。母親の味を食べることによって、家に居た時の記憶がフラッシュバックして途端に家に帰りたくなるのではないか――そんな可能性だって、十分に考えられる。
少年は、溜息を吐きながら、そしてゆっくりとシチューを啜った。
カタン、とスプーンを置いて少年は目を細める。
「……なあ、マスター。話を聞いてはくれないか。長くなるかもしれないし、取り留めのない話かもしれないけれど」
「ええ、別に構いませんよ」
こういう話は聞いたほうがいい。俺としても暇にならなくて済むということもあるし、こういうお客さんの話を聞いておくことで、お客さんのストレス発散に繋がることもある。
そうして、少年はゆっくりと話を始めた。
少年の話は長いものではなかった。ただ、どちらかというと思い出したり時系列が巻き戻ったりしてしどろもどろに思える点が多かった。だから、俺のほうで要約するとこんなことだった。
少年は勇者だった。そうして二週間前に生まれた村を出て行ったが、孤独の戦いは弱冠十歳の少年には苦労ばかりが連なるものだったという。しかしながら、教皇というその世界で一番の権力を持ち、なおかつ神の言葉を代行する役割の存在から、勇者だと言われて断る人間はその世界にいるはずもなく、少年は仕方なくそれに従うことしか出来なかったのだという。
しかし孤独の戦いに疲れてしまい、唯一の仲間と呼べる存在も魔王の毒に倒れてしまったのだという。そして今は魔王城手前の町に仲間を置き、一人あるものを探しているのだという。
「……あるもの、って?」
「世界のどこかにある世界樹、その葉には生き物を蘇生させる力があるといいます。それを探している最中に、滅びた街を見つけて……唯一無事だった建物の扉を開けたら、」
「成る程。ここに着いた、ってことね……」
そう言ったのはメリューさんだった。メリューさんはうんうん頷きながら、少年に言った。
「いずれにせよ、そのシチューを食べなさい。温まるわよ。一応言っておくけれど、ここは魔王とは何の関係もない。もっと言えば、別の世界だから」
「別の……世界?」
「このきれいな設備を見て、異世界以外の何が思い浮かぶと?」
メリューさんは両手を広げる。
それを聞いた少年は、ゆっくりと頷くと、やがて食事を始めるのだった。
◇◇◇
後日談。
というよりも、ただのエピローグ。
シチューを食べ終えたあと、彼は満足そうな表情で店を出て行った。そして、そのときメリューさんはあるものを渡していった。
貴重なものだけれど、とは言っていたが、その葉は少年が言っていた『世界樹の葉』なのだろう。どうしてメリューさんがそれを渡したのかは――俺の知る由もない。
ただ、一つだけ言えること。それは、少年が店を出て行って暫くして、昼食のタイミングでメリューさんがぽつりこう言ったことだった。
――なあ、ケイタ。あの勇者、無事に仲間を助けることが出来ればいいな?
その言葉に、俺は「そうですね」と言って頷くことしか出来なかった。
メリューさんのその表情には、過去に自分も同じ経験をしたような、なんてそんな悲しい雰囲気を漂わせていたから。
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