(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
こころとからだの栄養補給・結
ラーメンを食べるサラリーマンだったが、その食べ方はとても綺麗だった。俺の勝手な考えで酔っ払いは自ずと食べ方も汚いって思っていたけれど、そうじゃない人もいるんだな。ちょっと安心。
そうしてスープまで飲み干したところで、サラリーマンは笑顔になっていた。
「いやあ、こんな美味いラーメンは初めて食べた。これも、あの女性が?」
嘘を吐く意味も無いので、俺は即座に頷いた。
サラリーマンは大きく頷くと、財布を取り出す。
「そういえば、会計は幾らだったかな……。まあ、あれほどの料理だから、それなりにするのかもしれないが」
「千円になります」
その言葉を聞いて、サラリーマンは目が点になった。
「……は?」
そこでサラリーマンはおもわず普段の様子に戻ってしまったのだと思う。まだ顔を赤らめているのできっと酔いは醒めていないと思うけれど、ピークは過ぎているかもしれない。
「ですから、千円になります」
「いやいや、それはちょっと安すぎないか? 名古屋の飲み屋でもその値段設定をするのは横暴すぎないか?」
「と、言われましても……。実際に、私たちが会計したのはこの値段になります」
「とは言ってもだな……。まあ、いいか。そう言われるならしかたない。甘んじてそれを受け入れることとしようか」
そう、自らに言い聞かせるように言ったサラリーマンは千円札一枚を置いて、そのまま店を後にした。
♢♢♢
メリューさんが後片付けをしていた俺に、後々こんなことを言ってきた。
「あのサラリーマンはとても悩んでいるようだった」
そう話を切り出したメリューさんは、いろいろな話をし始める。あのサラリーマンは仕事で疲れていることや、自分が仕事のことで悩んでいても話を切り出せないこととか、まるで本人から直接聞いたような新鮮な話題だったといえるだろう。
それを聞いて、俺は質問した。
「……もしかしてメリューさん、それってあの人から聞きましたか?」
「いいや。誰にも聞いてはいない。……だけれど、解るんだよ。料理を食べている人の顔を見てくれば、何となく浮かんで来るんだ。だから、それをもとに言っただけだ。もしそれが本当だったとすれば、の話だけれど、他人である私たちにちょろっと話す感じで気分が安らぐかと思ったわけだけれど……、人間そううまくいかないものだね。ま、嘘か本当か、信じるかはケイタ次第だけれど」
そう言ってメリューさんは裏方へそそくさと戻っていった。
まったく、メリューさんは何が言いたかったのだろうか?
その時の俺には、まったく解らなかった。
その時の、俺には。
♢♢♢
それが解るようになるまで、少々時間を要した。
朝のニュースで、飛び込み自殺が報道されるまでは、俺はそのことについてすっかりと忘れていた。
その駅は自殺者が多い駅ではあったけれど、ただ時間的にあのことを思い出してしまうのは、半ば当然かもしれなかった。
俺は、メリューさんが最後に言った言葉を思い出した。
他人である私たちに話してくれれば。
確かにそれはその通りだった。断片的でも、誰でも構わない。ただ思っていることがあるならば誰かにぶちまけてしまえばよかっただけの話だった。そうすればあのサラリーマンの未来も変わるかもしれなかった、はずだ。
俺はそう思いながらも、そろそろ登校の時間であることを思い出し、テレビの電源を落とした。
そうしてスープまで飲み干したところで、サラリーマンは笑顔になっていた。
「いやあ、こんな美味いラーメンは初めて食べた。これも、あの女性が?」
嘘を吐く意味も無いので、俺は即座に頷いた。
サラリーマンは大きく頷くと、財布を取り出す。
「そういえば、会計は幾らだったかな……。まあ、あれほどの料理だから、それなりにするのかもしれないが」
「千円になります」
その言葉を聞いて、サラリーマンは目が点になった。
「……は?」
そこでサラリーマンはおもわず普段の様子に戻ってしまったのだと思う。まだ顔を赤らめているのできっと酔いは醒めていないと思うけれど、ピークは過ぎているかもしれない。
「ですから、千円になります」
「いやいや、それはちょっと安すぎないか? 名古屋の飲み屋でもその値段設定をするのは横暴すぎないか?」
「と、言われましても……。実際に、私たちが会計したのはこの値段になります」
「とは言ってもだな……。まあ、いいか。そう言われるならしかたない。甘んじてそれを受け入れることとしようか」
そう、自らに言い聞かせるように言ったサラリーマンは千円札一枚を置いて、そのまま店を後にした。
♢♢♢
メリューさんが後片付けをしていた俺に、後々こんなことを言ってきた。
「あのサラリーマンはとても悩んでいるようだった」
そう話を切り出したメリューさんは、いろいろな話をし始める。あのサラリーマンは仕事で疲れていることや、自分が仕事のことで悩んでいても話を切り出せないこととか、まるで本人から直接聞いたような新鮮な話題だったといえるだろう。
それを聞いて、俺は質問した。
「……もしかしてメリューさん、それってあの人から聞きましたか?」
「いいや。誰にも聞いてはいない。……だけれど、解るんだよ。料理を食べている人の顔を見てくれば、何となく浮かんで来るんだ。だから、それをもとに言っただけだ。もしそれが本当だったとすれば、の話だけれど、他人である私たちにちょろっと話す感じで気分が安らぐかと思ったわけだけれど……、人間そううまくいかないものだね。ま、嘘か本当か、信じるかはケイタ次第だけれど」
そう言ってメリューさんは裏方へそそくさと戻っていった。
まったく、メリューさんは何が言いたかったのだろうか?
その時の俺には、まったく解らなかった。
その時の、俺には。
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それが解るようになるまで、少々時間を要した。
朝のニュースで、飛び込み自殺が報道されるまでは、俺はそのことについてすっかりと忘れていた。
その駅は自殺者が多い駅ではあったけれど、ただ時間的にあのことを思い出してしまうのは、半ば当然かもしれなかった。
俺は、メリューさんが最後に言った言葉を思い出した。
他人である私たちに話してくれれば。
確かにそれはその通りだった。断片的でも、誰でも構わない。ただ思っていることがあるならば誰かにぶちまけてしまえばよかっただけの話だった。そうすればあのサラリーマンの未来も変わるかもしれなかった、はずだ。
俺はそう思いながらも、そろそろ登校の時間であることを思い出し、テレビの電源を落とした。
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