転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~

夜州

第十四話 冒険者稼業


 カインが伯爵に陞爵され、忙しい日々を送っていた。 各貴族への挨拶状を含め、陞爵祝いとして届けられる品々に目を通し、返事を返す必要があった。
 今回の聖女襲撃事件を受け、エスフォート王国からマリンフォード教国へ早馬を使い書状が届けられた。 
 護衛隊長が襲撃に関わった依頼者として、王国に収容されていると報告が記されている。 
 また、闇ギルドの捜索において証拠品が多数出たことにより、いくつかの貴族は取り潰された者や罰金刑を受けた者もいた。全て闇ギルドに依頼をし、工作を行なっていた者だ。 
 教国から新たに迎えがくるまでの間、ヒナタも王国に滞在することになった。 

「カイン様、商会が参っております。お披露目の正装を作りませんと」 

 そしてもう少しで行われるカインの婚約発表とお披露目のために準備に追われている。
 いきなり国王より発表が行われたが、案内などの準備をするのはカイン主体となっている。シルフォード家の全てを注いで準備をしないととても間に合うものではなかった。もちろん実家であるガルムの家からも応援がきていた。 
 会場については、王女の婚約ともあって王城で行われる。 

「あぁ……もう嫌だぁ!!」 

 案内状の送付先については、王家、公爵家とも調整が必要となり、コランが対応している。それでも準備が終わらないのだ。 
 終わらない準備にカインのストレスは溜まっていた。 
 

「駄目だ。少しストレス発散をしてくる」 

「ちょっとカイン様!!」

 カインはそう言い残し、転移した。 
 ドリントルの執務室に転移したカインがダルメシアに一言告げ冒険者ギルドに向かった。 
 街の中央に建っている冒険者ギルドは、午後ともあって閑散としている。それでもいくつかのパーティーは併設されている酒場にジョッキを煽っていた。 
 カインは一直線に受付カウンターに行き、受付嬢に声をかける。 
 対応してくれたのはまだ成人を迎えてすぐの十代の少女だった。 

「すみません。魔物が集まっているところって何処かありますかね?」 

 伯爵となり、ドリントルの領主であるカインでも、知らない人からすればただの子供だ。対応してくれた受付嬢はカインの事を知らないらしく、子供に接するように話しかけて来た。 

「子供はそんな危ないところに行ったら駄目でしょ? 安全な街の中の仕事にしたほうがいいわ。今なら領主様が子供できる仕事も斡旋してくれているわ。それを受けなさい。ここの領主様は平民や冒険者の事を良く考えてくれてね、それから――」 

 延々とこの街の良いところを説明する受付嬢は誇らしい顔をしている。 
 カインは自分の事を褒められている事に恥ずかしくなり顔を引きつらせる。 

「……出来れば魔物を倒したいのですが……」 

 領主だとわかってもらえないカインは苦笑しながら答える。 
 それでも認めてくれない受付嬢は、カインの心配をしながら違う仕事を紹介する。 

「……すみません、ギルドマスターいますか? 『カインが来た』と言ってくれればわかると思いますので」 

 やり取りに疲れたカインはそう言った。 

「……!? カイン君っていうのね。子供からギルドマスターを呼べと言われても簡単に呼べるものでもないの。わかってくれるかな?」 

 受付嬢の言葉にカインはため息をつく。 

「では……誰か役職者の人を……」 

「もうっ! いくら私が新人だからって他に人に話をするなんて酷いじゃない」 

 少し顔を赤くし怒った受付嬢が机を叩き立ち上がる。 
 その音で隣の受付嬢や奥の職員たちが顔を上げた。 

「だからカイン君、子供は子供らしく街の中で――」 

 パチーーン

 受付嬢の頭が後ろから叩かれた。 

「い、いったーーーい! な、何!?」 

 いきなり頭を叩かれた受付嬢は勢いよく振り返る。そこには普段は一番奥に座っている副ギルドマスターのレティアが立っていた。 

「副ギルドマスター! いきなり叩くなんて酷いじゃないですか!」 

 怒る受付嬢を放置し、レティアはカインに向かって頭を下げた。 

「カイン様、お久しぶりです。すぐにギルドマスターを呼んで参ります。応接室を用意いたしますので、ご案内いたします」 

 レティアが職員に声を掛け、ギルドマスターを呼ぶように伝えた。 
 放置された受付嬢はレティアの対応に驚き、小声で聞いた。 

「……あのぉ、このカイン君って……」 

 『カイン君』と呼んだ受付嬢は更に頭を叩かれた。 

「い、痛い……」 

 涙目になる受付嬢に引きつらせた顔をしたレティアが告げた。 

「ネス、この方がこのドリントルの領主様であるカイン・フォン・シルフォード・ドリントル伯爵よ。先日、話しておいたでしょう。領主様が子爵から伯爵に陞爵されたことを……」 

 余りの衝撃的な真実を知った受付嬢は目を大きく見開いた。 

「えっ、えっ!? 領主様ってたまにギルドマスターに会いに来る美青年の方では!?」 

 そしてまたレティアに頭を叩かれる。 

「それはカイン様の兄上であるアレク男爵よ。この街の代官をしている……まったく……」 

 カインに向き直ったレティアは頭を深々と下げた。 

「カイン様、申し訳ございません。受付嬢の教育が行き届かなくて……出来れば不敬罪だけはご容赦いただければ……。ほら、あなたも頭を下げなさい」 

 レティアに頭を抑えられ受付嬢のネスも頭を下げる。 

「レティアさんお久しぶりです。いいですよ。知らない人から見たら僕はただの子供ですしね。そこのネスさんも僕の事を心配してのことだから」 

「ありがとうございます。では、ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」 

 呆然としている受付嬢ネスを放置して、案内されるままカインは応接室に入りソファーに座る。 

「すぐにギルドマスターは来ますので、もう少々お待ちください」 

 違う職員が紅茶を用意しカインの前に置かれた。 
 そして程なくして、扉が勢い良く開かれレティアとギルドマスターであるリキセツが入って来た。 

「おぉ、カイン様、久しぶりだな! 元気そうで何よりだ。それで今日はどうしたのだ?」 

 やっと本題に入れる事にため息をつくカインは意図を告げた。 

「うむ、たまには魔物を倒したいと……。レティアどこかあるか?」 

「カイン様はAランクでしたよね。それならダンジョンくらいしかありません……」 

 ダンジョンと聞きカインは目を輝かせる。以前、ドリントルの横にある森にはダンジョンがあると聞いていたが、忙しかったことで記憶から忘れ去られていた。 
 カインの中ではすでにダンジョンに向かうのは決定事項となっていた。 
 カインがダンジョンに向かうことを告げ、 レティアがすぐに地図を用意するために退出していき、リキセツとカインは雑談を楽しんだ。
 用意された地図を受け取ったカインは応接室を後にすると、受付にいたネスはカインの顔を見つけると、勢いよく立ち上がりビクビクと震えながらも丁寧に頭を下げる。
 カインは笑顔で手を振り返し、ギルドを出た。
 街中を歩くと、領主だと気づく者はおらず、活気に溢れていた。
 屋台からはいい匂いを撒き散らしながら串焼きを焼いて販売する者や、商店の前で呼び込みをする者。
 そんな賑やかな通りを抜けて門を出る。
 さすがに衛兵はカインが領主だとわかっており、緊張した様子で勢いよく敬礼している。
 手を振り返しながらカインは外に出た。
 西門はドリントルの街から森へと一直線と繋がっており、森までの二キロ程度を石畳で整備されている。産業が発展してもやはりドリントルは冒険者の街である。道が整備されたことにより、森の入口には魔物を運ぶために荷馬車を行っている商会もいる。
 森の入口には簡易的な柵で覆われた砦が設置され、中に荷馬車が何台も用意されていた。
 そして簡易的な休憩所や、いざという時のためのギルドの出張所まで用意されている。
 これは街に冒険者を呼び込むためにカインが行った政策でもあった。
 森やダンジョンに向かうために、まずギルドで受付してから入ることになっている。出入りを管理することで行方不明者の捜索や管理を行うためだ。カインとギルドが打ち合わせをして決めた事だった。
 やはり全員が無事で帰ってくることはなく、何人かは行方不明や死亡するときもある。
 冒険者稼業をしていれば仕方ないことだった。
 カインは砦の門を潜り中に入った。魔物を運ぶために集まった冒険者や、探索を終えて食事をする者もいる。
 そんな中カインはギルド出張所の受付へ向かい手続きをする。
 やはりカインの事を知らない受付は、一人でダンジョンに行くことに反対したが、金色に光るAランクの冒険者カードを見せた途端に焦ったように手続きを開始した。
 食事をしている冒険者達も、まだ成人もしていない子供一人でダンジョンに入ると聞き眉間にシワを寄せている者もいたが、冒険者は自己責任である。文句を言われることもなかった。
 カインは革鎧と腰に帯剣しているだけで手荷物を持っているようには見えなかったことで、周りにいる者たちからすれば異質に見える。
 冒険者のパーティーから一人がカインに寄っていく。

「おい坊主。一人じゃまだダンジョンは早いぜ? しかもその装備だろ。街中の依頼受けていたほうがいいんじゃないか?」

 ガッシリとした体付きでロングソードを帯剣し、二十代半ばに見える青年がカインに声をかけた。

「ご心配ありがとうございます。それなりに腕には覚えがあるので平気ですよ」

 カインは笑顔で冒険者に返事をし、森の中へと進んでいった。
 森といっても、ダンジョンまでのルートは看板が立っており、迷うことはない。しかも獣道程度だが整備されていることで、カインは気にせず進んでいく。
 そして目の前には遺跡とも思える大きな石に囲われた開口が目の前に現れた。

「ここがダンジョンか……。楽しみだな」

 カインは初めてのダンジョンに胸を躍らせながら踏み込んでいった。

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